企業が気候変動・カーボンニュートラルに取り組む理由。サステナビリティをビジネスに生かすアルカンターラ
MotorFan / 2019年3月21日 17時50分
イタリアのヴェネツィアで、アルカンターラ社主催の国際シンポジウム「Climate "How”」が開催された。気候変動への対応は待ったなし!そのためには、脱炭素化、SDGsに取り組む必要がある、とシンポジウムは提言する。 TEXT & PHOTO:鈴木慎一(Shin-ichi SUZUKI/MFi)
高級人工皮革のブランドと言えば、最初に思い浮かぶのは、アルカンターラだろう。フェラーリやランボルギーニ、アウディなど名だたる自動車メーカーの高級車の内装にアルカンターラは採用されてきた。そのアルカンターラ社の活動を取材するために、2月上旬イタリア・ヴェネツィアへ向かった。
向かった先は、ヴェネツィア旧市街からボートに乗って10分ほどにあるサン・セルヴォロ島である。ここにあるのは、アルカンターラの工場でも研究所でもなく、ベネチア国際大学(VIU)だ。VIUは、1995年に創設された国際的な研究拠点で、ヴェネツィア大学、ボストン大学、精華大学、サンクトペテルブルク欧州大学などが会員大学となっている。日本からは早稲田大学がメンバーだ。
このVIUとアルカンターラ社が世界銀行グループとConnect4Climateグローバルパートナーシッププログラムの支援を受けて、国際シンポジウムを開催したのだ。テーマは、『Climate "How"』(気候変動における"How" いかにして社会に連動し、脱炭素化を展開するか」である。
今回で5回目を迎えたこのシンポジウムをなぜアルカンターラ社が主催するのか? じつは、アルカンターラ社はサステナビリティ(持続可能性)、カーボンニュートラルに熱心に取り組んでいて、2009年にイタリア企業として初めてカーボンニュートラルの認証を受けている。
シンポジウムは、VIUのヴァッターニ学長の「気候変動対策を次のレベルへ」からスタート。壇上に上がった人たちのプロフィールを見てみると、じつに多彩にことに驚く。大学・研究機関の学者、エコノミスト、国連などの国際機関、食料関係者、ファッション関係者、ジャーナリスト、政治家、国家の財務・金融関係者……と続く。自動車産業関係では、VW、アウディ、BP、トタルが参加していた。
それぞれが語るのは、「危機感」である。気候変動は、すでに「危機的な状況」で、いま「What(気候変動って何?)や「Why(なぜそうなった?)」と言っている段階ではなく、まさに「How(どうやって対応するのか)」が重要だということだ。
2015年に採択されたパリ協定(温度上昇を産業革命以前より2℃未満に、可能なら1.5℃以内に抑える)もアメリカの離脱で危ぶまれている。手をこまねいていたら、2050年には気温上昇は3℃になるという。たとえ1.5℃に抑えられたとしても、2100年には海面が10cm上昇し、異常気象が恒常的(!?)になる。
シンポジウムは、この危機的な状況に対して、一般市民の認識不足、企業・国家の対応の遅れ、不足を指摘する声があがっていた。感心したのは、科学的な視点だけなく、市民運動的な視点だけでなく、「いかにしてこの危機に対応するか」政策立案者や財務金融当局はなにをなすべきか議論されたことだ。「資産所有者がいかに脱炭素化を加速できるか」「投資家の行動は?」「政策立案者のイノベーション」といった議論が新鮮だった。このシンポジウムも回を重ねるたびに、議論の広さもレベルも上がっているという。アルカンターラ社のような一企業が、このような取組をしているのは、注目に値する。
もうひとつのポイントは、サステナビリティに対する取組が、企業の価値を上げ、競争力アップにつながるという考えだ。近年は日本企業の取組も加速している。自動車関連産業に連なる我々の意識や知識をレベルアップさせる必要があると痛感した。
さて、最後に、このシンポジウムで頻出したワードを並べておく。すべて知っていたら、現状では合格(?)レベルだと言えるだろう。
GHG、E-Fuel、デカーボナイゼーション、SDGs、CCS(次のテーマとしてCCUS)、ESG投資、IPCC、LCA。さて、いかがだろうか。
今回のシンポジウムの仕掛け人であるアルカンターラ社のアンドレア・ボラーニョCEOにインタビューする機会に恵まれた。一私企業であるアルカンターラが、なぜここまでサステナビリティやカーボンニュートラルと向き合うのか?
ボラーニョCEOは、1950年生まれのイタリア人。ジェノバ大学で化学工学を、その後ボッコーニ大学でMBAを取得している。スーツの着こなし、迫力のある佇まい、人を惹きつける笑顔……我々が思い浮かべる素敵なイタリア男性像そのものだ。ただし、そのルックスから「カーボンニュートラル」「サステナビリティ」「SDGs」という言葉は失礼ながら思い浮かばない。
ーボラーニョCEO、そしてアルカンターラ社はいつ頃から気候変動やサステナビリティについて真剣に考えるようになったのですか?
ボラーニョCEO:アルカンターラ社、そして私が気候変動やサステナビリティに関わるようになったのは、2007年のことです。09年にはイタリア企業として初めてカーボンニュートラルの認証を取得しました。我々は真剣に取り組んでいます。重要なのは継続すること、そして新しい課題を見つけて改善していくことです。
ーカーボンニュートラルやサステナビリティ、環境に対応する投資はどのくらいですか?
ボラーニョCEO:アルカンターラは17年から5年計画で、環境対応に3億ユーロ(約375億円)投資します。バイオベースのアルカンターラ素材の開発プロジェクトも継続しています。
ーアルカンターラは、自動車業界で非常に高品質な素材だと知られていますが、この分野はコストプレッシャーが厳しいことで知られています。人工皮革の競合に対して、サステナビリティを考えたアルカンターラは、どういう競争力があるのですか?
ボラーニョCEO:アルカンターラは高価ですがハイクオリティなので、消費者は喜んでエクストラマネーを支払ってくれます。なぜ自動車メーカーがアルカンターラを好んで使うのか? 消費者がそれを望んでいるからです。アルカンターラの特長は、すごく品質がよくてカッコいい、デザイン的にも優れているし、サステナビリティもちゃんと配慮して作られている。アーティスティックなエレメントも入っている。とくにアジアの国にはMade in Italyというのがすごく響くんです。最終消費者からの需要が確立されています。オプションでアルカンターラを使うと、1500-2000ユーロ(約18万7500〜25万円)をお客さんが喜んで払ってくれる。オプションとして提案するひとつのツールとして有効なのです。
先ほど申し上げたとおり、アルカンターラはカーボンニュートラルを認証取得した最初のイタリア企業ですから、それに対する取組を強調したいです。もうひとつ、いわゆる社会に対する責任感……ちゃんと責任とりますよ、ということです。どういうことか? とくにファッション業界、テキスタイル業界は、そのあたりが遅れているのですが、たとえば、インド、東南アジアの国は人権的にもあまり守られていない国、環境があるなかで、そういった国でテキスタイルを作っている企業があると思います。そういったことを踏まえて自分たちの取引をするすべての企業は、社会に対する責任として、基本的なルールを守ってください、あるいはちゃんと人権を尊重してください、そういった約束したうえで、我々は一緒にお仕事させていただいいています。ステークホルダー、すべてのサプライヤチェーンに対しても、「サステナビリティは気候変動だけではないですよ。人権だったり、労働環境を含めた健全化をちゃんもやってくださいよ」と言っている。他の会社でここまでやっているところははないと思います。
ーブランディング戦略としても素晴らしいが、なにがあなたを突き動かしているのですか?モチベーションはどこからきているのですか?
ボラーニョCEO:ビジネスにとってメリットが大きいのです。サステナビリティに対する取組は企業の価値を上げるということです。それは、実際に調査しても明かだし、財務的な価値も上げてくれることがわかっています。財務的な数字上でもサステナビリティに対して力を入れるということは、企業の価値を上げることに繋がる、メリットがあるのです。脱炭素化に向けたエネルギーインフラに対する投資も重要だと考えています。脱炭素化、サステナビリティの取組は、オポチュニティ(機会)と捉えています。脱炭素化、サステナビリティ意識を高めていくことは、ビジネス的にもメリットが大きい。
ボラーニョCEOは、サステナビリティや環境に対応することは、余計な投資ではなくビジネス的にも大きなメリットがあると何度も強調した。つまり、ビジネスだ、ということだ。気候変動やカーボンニュートラルに対する取組が単なるボランティア活動であっては大きな展望は期待できない。しかし、ボラーニョCEOが言うようにビジネスにいい意味で結びつけば、社会が変わっていくかもしれない。
ーところで、イタリアの一般の方のサステナビリティに対する意識は上がっているのですか?
ボラーニョCEO:少しですね。イタリアだけじゃなくて欧州の一般の人たちの意識は多少上がっていると思いますが、ただこの問題に真剣に取り組んでいる人たちと比べると大きなギャップがあります。気候変動は経済的にも生活に対しても大きな問題をもたらすにもかかわらず、その緊急性に対する認識が欠けている。それはイタリアだけなくドイツや他の欧州の国々も同じような認識のギャップがあると思います。危機は迫っているけれど、明日滅亡するわけではないからです。メディアもきちんと伝えていく必要があると思います。
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