新型プジョー508に内燃機関の未来像を見た!〈Peugeot 508 国内初試乗〉
MotorFan / 2019年4月22日 19時35分
フルモデルチェンジを果たした新型プジョー508がいよいよ日本の道を走り始めた。まずはセダンからの導入で、エンジンは1.6Lガソリンと2.0Lディーゼルの2本立て。トランスミッションは全車に8速ATが組み合わされる。日本でも人気の高い欧州Dセグメントにプジョーが満を持して投入した508に、高速道路とワインディングロードを中心に試乗する機会を得た。 TEXT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
既視感のまるでない前衛的なデザイン
まず実車を前にして思ったのは、「自動車のデザインというものは、まだまだやれることがあるんだな」ということ。
僅かにウェーブした異形ヘッドライト、牙のようなLEDデイタイムランプが織り成すフロントマスクには、既視感がまるでない。今までの何にも似ていない。にもかかわらず「プジョーらしい顔」と認識させられてしまうのだから自動車のデザイナーってすごい。
セダンとは言うものの、リヤゲートは大きなハッチバック形式で、厳密に言えば5ドアハッチバックである。シトロエンXMやBXやエグザンティア、ルノー・サフランやラグナなど、フランスのミディアム&ラージサイズサルーンはハッチバックを持ったモデルが多く、逆にシトロエンCXやC6などのように、独立したトランクを持っているにもかかわらずファストバック風のデザインを与えられているものも少なくなかった。
そんななか、これまでプジョーのDセグメント以上のモデルだけは、いわゆる3ボックスの端正なセダンスタイルを守り通していたのだが、ここへきてフランスらしさを感じさせる「5ドアセダン」スタイルを採用してきたのは興味深い。
ともあれ、フランスのメーカーは常にデザインで攻めの姿勢を崩さない。懐古趣味をよしとせず、前衛を貫く姿勢には個人的に共感を覚える。
ドライバーズシートに腰を下ろすと、目の前に広がるのは例によって小さめのステアリングが極端に低くセットされるi-Cockpitだ。
英国製スポーツカーによく見られるような垂直にそびえ立つステアリングポジションが好みだったこともあり、このi-Cockpitが最初に採用された現行208(すでに本国では新型がデビュー)に初めて乗ったときは多いに面食らった。運転の根幹に関わる部分においては、あまり前衛的になってくれなくてもいいのに……というのが本音だった。
だが今回、もう慣れたということがわかった。新型508に乗るのは初めてなのに、ステアリングに手を伸ばした瞬間から違和感がない。
正確に言うと筆者が慣れただけではなく、他メーカーから乗り換えた人でも違和感を抱かないよう、ポジションそのものや、ドライバーの視点からの見え方が少しずつ煮詰められているのだろう。
考えてみれば、ひとりのドライバーにとっての理想のドライビングポジションはけっしてひとつではない。トラックやスポーツカーであれば、当然サルーンとは異なってくる。モーターサイクルなんて、ネイキッド、クルーザー、そしてスーパースポーツなど、カテゴリーによってハンドルの位置がまるで違うではないか。
スウィートと言うほかないガソリンエンジンの味
始めに乗ったのは2.0Lのディーゼルだ。プジョーのディーゼルの評判がすこぶる高いのはすでに読者のみなさんもご存知だろう。低回転域から力強いのは当たり前だとしても、上まで回したときのトゥルルルッという清々しい回転フィールがディーゼル離れしている。トルクにモノを言わせるのではなく、しっかりエンジンを回して走る楽しみがあるのが特徴だ。
トランスミッションは8速ATだが、100km/h巡航ではトップギヤの8速に入らない。100km/h時のエンジン回転数は7速で1700rpmだ。マニュアルモードで無理矢理8速に入れると1400rpmほどに落ちるが、すぐに7速に強制的にシフトダウンされてしまう。
ディーゼル、ガソリンを問わず全グレードにドライブモードが備えられていて、スポーツ、コンフォート、エコ、ノーマルの4つの選択肢が用意される。これは、これまた全グレードに標準装備のアクティブサスペンションとも連動している。
で、このドライブモードで「エコ」を選ぶと、一定速度で巡航中にコースティング機能が起動する。エンジンと駆動輪を切り離す───つまりクラッチを切ったような状態にすることでエンジン回転数がアイドリング付近に下がり、燃費に貢献するものだ。
これは8速に限らず、構造的には2速から機能する仕組みになっている。近々、ロングドライブでぜひとも燃費を計ってみたいものである。
「フランス車と言えばディーゼル、プジョーと言えばディーゼル」という刷り込みがあったから、続いて乗ったガソリンにはさしたる期待は抱いていなかった。予算的に許せばディーゼルで間違いなし。そんな認識だ。
だがしかし、この日本初登場の1.6Lガソリンは超絶スイートだった。駐車場を出て、国道でアクセルを軽く踏み込んだ瞬間、4つのピストンがシュワーっと滑らかに上下動を速め、1.5tのボディはスルスルと滑るように加速する。もちろんV12とは言わないが、直6のようなシルキーさといっても言い過ぎではないだろう。
ワインディングに入り、アクセルを深く踏み込む。天井知らずにギャンギャン回るわけではないが、しかしその回り方は軽やか。
加えてハンドリングも軽快だ。ディーゼル比で約100kgも軽いフロント荷重の恩恵か、ノーズの動きにタメがない。目を向けた方に自然とノーズが向きを変えるような感覚だ。
ただし、クローズドコースで計測したのではないから想像だが、コーナリングスピードがやたらと速い、というわけではなさそうだ。ロールは抑えられてはいるものの、サスペンションの沈み込みと僅かなタイヤのたわみ───つまり接地感がしっかり伝わってくるおかげで、「安心して、そこそこ速いペース」を楽しめるという表現がふさわしいだろう。
ロータスがサルーンを作ったら新型508のガソリン仕様のようになるのではないか。そんな思いが頭をよぎった。
ちなみにこのガソリン仕様では試乗時間の関係で、高速道路を走ることはできなかった。プジョーの商品担当者によれば、ガソリン仕様は100km/hでギリギリ8速に入るとのことだ。
ディーゼルの底知れぬトルクはおおいに魅力的だ。高速走行の機会の多いドライバーにとっては、やはりディーゼルの方が動力性能面においても燃費面においても恩恵が大きい。
だがガソリンが淀みなく、そしてリニアに回るサマには、内燃機関の未来像を見させられた気がするのだ。
既視感のまるでない前衛的なエクステリアと、i-Cockpitに代表される先進的なインテリアを持つ新型508に相応しいパワーユニットは、ずばりガソリンのほうだろう。
プジョー508 GT-Line
全長×全幅×全高:4750×1860×1420mm ホイールベース:2800mm 車両重量:1510kg エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ 総排気量:1598cc ボア×ストローク:77.0×85.8mm 最高出力:133kW(180ps)/5500rpm 最大トルク:250Nm/1650rpm トランスミッション:8速AT フロントサスペンション形式:マクファーソンストラット リヤサスペンション形式:マルチリンク 乗車定員:5名 タイヤサイズ:235/45R17 車両価格:459万円
プジョー508 GT BlueHDi
全長×全幅×全高:4750×1860×1420mm ホイールベース:2800mm 車両重量:1630kg エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ 総排気量:1997cc ボア×ストローク:85.0×88.0mm 最高出力:130kW(177ps)/3750rpm 最大トルク:400Nm/2000rpm トランスミッション:8速AT フロントサスペンション形式:マクファーソンストラット リヤサスペンション形式:マルチリンク 乗車定員:5名 タイヤサイズ:235/45R17 車両価格:492万円
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