開発ストーリーダイジェスト:トヨタ・クラウン
MotorFan / 2020年5月31日 8時0分
これまで数多くのクルマが世に送り出されてきたが、その1台1台に様々な苦労や葛藤があったはず。今回は「ニューモデル速報 第54弾 新型クラウンのすべて」から、開発時の苦労を振り返ってみよう。 REPORT:ニューモデル速報編集部
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クラウンは、これまで“乗る人間に誇りと歓び(満足感)を与える商品であるべきだ”をコンセプトに貫き、開発段階で何度も確認され、そして実現されてきた。しかし、7代目にあたる先代でわずかに変化が生じた。直線と平面を多用することで、がっしりとした中にスマートさをプラス。走る姿にも美しさを出そうとしていた。
先代でも開発担当主査を務めた今泉研一によると、7代目は「世界のどの国に行っても高級車でありたい」という狙いがあったという。しかし、引き続き主査として開発を率いる新型では「同じ高級車の中でもトップクラスでありたい」という気持ちだった。そのためには、外観・装備はもちろん、ドライバーに見えない部分も綿密な注意を加えていかなければならない。また、クラウンは社内の士気にも関わる車種だけに失敗は許されない。様々な重圧の中で90年代の豊かで多様な社会への対応が模索された。
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当時、トヨタ自動車では役員に例外なくクラウンが提供された。通勤などに使っても良いのだが、その代わりとして気付いたことを担当主査に報告する義務があった。今泉によると「役員は一番うるさいユーザーですね。身内なので、好きなことが言える上に、その多くはクルマの専門家。ドライバーだけでなくパッセンジャーとしてのフィーリングも体験できるため、細かな部分まで意見が寄せられる。だからこそ、良い緊張感を持って、良いクルマづくりに臨める」と語る。
![セダン系は水平基調の「フォーマルインパネ」を採用。](https://motor-fan.jp/images/articles/10014905/big_3208339_202005261508070000001.png)
![ハードトップ系はドライバーを囲むような造形の「パーソナルインパネ」を採用。](https://motor-fan.jp/images/articles/10014905/big_3208339_202005261508070000002.png)
役員からの意見は試作車にも及ぶ。例えば、新型の開発でも「後席に腰を掛けているうちに姿勢が畏ってしまう。もっと寛げるようにしてくれないか」という意見があった。実験部隊にとって、感覚的な要求は解決しにくいが、座席の高さや材質だけでなく、室内の雰囲気に至るまで手が加えられた。
また、開発陣だけでは気づけないポイントがあるため、役員だけでなく一般のユーザーからの声も大切にしている。例えば、シートの傾斜角度だ。リクライニングで自由に調整はできるが、あえてディーラーに入庫した車両のシート角度を調査することで、実際の使われ方を研究し、デフォルトのシート位置の決定に反映させたという。
新型の開発にあたって苦労したのが、マークⅡとの差別化も挙げられた。両車の差が近づいており、味わいの違いを強調するためにクラウンの一部グレードにはエアサスが装備された。乗り心地と操安性という相反する要素を高いレベルで両立させる必要があり、そのためにはコイルスプリングを使うのではなく、エアサスを使った方が有利だと考えたからだ。
しかし、クラウンの開発では、単に商品として成功させることが目標ではないという。ユーザーからの声には「ルースクッションを採用してみては?」という意見があったが、実験の結果、長距離走行に適さないことが分かったため、採用しなかった。クラウンのようにユーザー層が固まっている車種の場合、積み重ねてきた技術的な経験の中から、より高い性能で、お客にメリットのあるものを盛り込んでいくことが重要だという。
そのため、自動車の開発を率いる主査は、市場や社内からの批判や要求に対して、耳を傾ける必要はあるけれども、それに押し流されることなく、明確なコンセプトに基づいて、信念をもって開発を進める勇気と豪胆さが求められているという。その点、今泉はクラウンの顧客層を非常に大切にしていて、顧客像をしっかりとイメージしていた。新型クラウンに採用された数々の機能は、そういった信念に基づいた試行錯誤の末の賜物なのだ。
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