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人道援助に立ちはだかる軍事政権の壁──ミャンマー、サイクロン「モカ」 襲来の後に

国境なき医師団 / 2023年8月4日 17時4分

ミャンマーの人びとの生活を直撃したサイクロン「モカ」=2023年6月23日 © MSF

今年5月にミャンマーおよびその周辺諸国を襲った大型サイクロン「モカ」。ミャンマー北西部において、過去10年以上で最大のサイクロンで、各地に甚大な被害をもたらした。それから2カ月以上がたつが、被災者たちに向けた援助活動を拡大する動きは、いまだ始まってさえいないと言える。

「私の活動拠点となっているキャンプは、およそ85%が倒壊しました。全ての小屋において、屋根が吹き飛んだり、土台が傾くなどの被害が出ています。しかし、キャンプの人びとは、ほかに寝泊まりする場所がなく、その倒壊した小屋に住み続けるしかない。彼らへの緊急援助が今すぐ必要なのです」

同国ラカイン州に暮らし、国境なき医師団(MSF)の地域保健担当者として活動するダウ・ヌーはそう話す。ダウ・ヌーの住む家も、サイクロンの豪雨によって被害を受けている。

軍事政権による規制で対応が遅れる

人道援助活動が遅れている背景には、ミャンマー軍事政権による規制措置がある。同政権は、あくまでサイクロン以前の通常活動のみを許可し、サイクロン被害に合わせて援助活動を拡大することを禁止しているのだ。規制措置の中には、食料、衛生用品キット、竹や防水シート(避難所の建設や修理に必要となる)といった救援物資を広い規模で配布することも含まれている。

軍事政権はこうした規制を解除すべきだ。さらなる被害を食い止め、病気発生や人命損失を防ぐためにも、人道援助活動を速やかに拡大しなければならない。

避難民のさらなる苦難

今回のサイクロンによる被害は甚大だ。特に、紛争によってすでに家を失いキャンプ生活を送っていた人びと、低地に住む人びと、援助活動の手が届きにくいへき地に住む人びと──みな深刻な影響を受けている。避難所の建設や損害を受けた水・衛生インフラの再建、安全な飲み水、食料、人びとが医療を受ける機会といった、速やかに取り組むべき課題が山積している。

ロヒンギャやラカイン族の人びとも深刻な状況だ。彼らは紛争から避難する形で、現在に至るまで人道援助に多くを頼ってきた。その避難先も破壊されており、以前にも増して苦境に置かれている。特にロヒンギャの人びとは、移動の自由、医療を受ける機会、生計手段、教育など、生活上のあらゆる面で厳しい制約を受けている。

当初は前向きだった軍事政権 一転して対応の中断へ

5月14日に上陸したサイクロン「モカ」による被害を受けた人びとは、推定67万人にのぼる(※)。当初は、ミャンマー軍事政権もアラカン軍などの武装勢力も、サイクロン被害への対応に積極的だった。道路のがれき除去、通信・電気の復旧などに迅速に当たっていた。

被害の規模が明らかになるにつれて、人道援助団体も被害者増大や二次災害を防ぐため、規模を拡大していこうと態勢を整えていった。MSFも同様だ。週に9000人の規模で飲み水を配給し、トイレや給水設備の修復をすることで、汚水による感染症の予防に努めてきた。移動診療や緊急医療搬送体制も、徐々に再開にこぎつけていた。

ところが、サイクロン襲来から3週間後の6月8日、ラカイン州への渡航認証が一時的に停止された。MSFも渡航認証が剥奪されたため、州内に25カ所ほど設置していた基礎医療診療所が開けなくなった。州中部と北部を合わせ推定46万人ほどを対象とする救命医療の人道援助が中断に追い込まれたのだ。

3日後の6月11日、活動再開許可が下りる。ただし、サイクロン襲来前に双方合意した内容に限るという条件付きだった。サイクロンによって新たに必要となった対応拡大については、認可されなかった。

人道援助の中立性すら危うく

現在、MSFが対応できる内容は、サイクロン襲来後の状況から見て、あまりに不十分なものだ。当局から課された規制措置の中には、救援物資を軍事政権に引き渡し、政権側が配給を行うというものまであった。

これでは人道援助の中立性さえ危うくなる。ラカイン州のように紛争下にある地域で、地元の人びとがこれまで人道援助団体に寄せてくれていた信頼を揺るがすことになりかねない。MSFや他の人道援助団体が遵守する公平性、中立性、独立性という人道主義の原則にも反することになる。

当初、人道援助団体らは、こうした規制措置がいかに問題であるかを訴えてきたが、やがてその声はかき消されていった。

現状を「新しい常識」にしてはならない

いま憂慮すべきなのは、サイクロンが人びとの生活にもたらした被害だけではない。そうした状況を事実上放置することになる無意味な規制措置、そしてこのような事態に対する社会的関心の低さ──それがいまやラカイン州において「新たな常識」になりつつある。その点こそが深刻に受け止められるべきだ。

しかも、こうした規制措置が原因となって、ミャンマーの人びとへの経済的援助も減退しつつある。

軍事政権をはじめとする当事者には、今回のサイクロンで被害を受けた人びとへのケアに当たる責任がある。 そのためにも、軍事政権は、現在の規制措置を撤廃すべきだ。また、公平性や中立性を損なわない形で、被害を受けている人びとのもとに医療・人道救援物資が妨害なく届けられるよう、対策を講じなければならない。

MSFのラカイン州での活動

MSFは、シットウェ、マウンドー、ラセドン、ブティドン、パウトーといった最も被害の大きかった地区を含む、ラカイン州内にある7つの市区町村を拠点に活動を展開。550人以上のスタッフで医療・人道援助活動を続けている。

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