フランス当局による移民・難民の押し返しと虐待──非人道的な扱いや拘束が明らかに
国境なき医師団 / 2023年8月10日 14時34分
母国を逃れイタリアに到着した移民や難民がフランス入国を試みた際、フランス警察によってしばしば暴力や非人道的な扱いを受け、イタリアに押し返されている。国境なき医師団(MSF)は、イタリア北西部ベンティミーリア市で移民・難民への援助を行う中で、人びとの証言を記録。母国での紛争や迫害を逃れた人びとが、欧州で再び暴力、脅迫、非人道的な状況にさらされている状況が浮かび上がった。MSFはフランス警察による非人道的な扱いを非難し、脆弱な立場の人びとに対する適切な対応を求めている。
8割が国境を越えられず
2023年2月から6月にかけて、MSFはベンティミーリアで移動診療を運営し、移民・難民320人に病気やけがの治療、684人に健康や福祉に関するカウンセリングを行った。ほとんどは、母国での紛争や迫害を逃れた人びとで、危険を冒して地中海を横断、あるいは陸路でイタリアに到着し、家族との再会などのためにフランスや他の欧州諸国に渡ろうとしていた。
しかし合計1004人の患者のうち79.8%が、フランス入国を何度も試みたが、国境で退去させられたと明言した。また、保護者のいない未成年者の3分の1も退去させられたと回答しており、フランス当局は未成年者、妊婦や新生児、高齢者、重病人などに対しても、個々人の状況や健康状態、年齢、保護者の有無などを考慮せず、同様の厳しい措置をとっていることが明らかになった。
ベンティミーリアでMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるセルジオ・ディ・ダートは、「極めて弱い立場の人びとが個々の状況に関わらず、適切な検討もなく、フランス警察によって無差別に退去させられているのが現状」と話す。
家族との離散も
フランス当局のずさんな手続きを指摘する声も多い。MSFが聞き取った人びとの多くは、当局が入国拒否を通告する際に、個人情報の不正確な転記、署名が義務付けられた書類に関する情報の不足、通訳や異文化仲介担当者の不在、さらには当局が移民当事者に変わって署名したり、個人の庇護請求権の行使を妨げたりしたケースなど、手続き上に多くの違反があったと指摘した。また、取り締まり中に権力の乱用や人種差別があったと報告した人もいる。
また、女性や子どもに対する特別な保護もなく、夜間にコンテナに恣意的に身柄を拘束されたという事例もあった。食料や水も人数分は確保されず、医療の受診はたびたび拒否され、衛生設備は不十分で、人びとは過密状態の中雑魚寝を余儀なくされているという。さらに、記録した期間中だけでも、ベンティミーリアでMSFは、フランスからイタリアへ追放される際に家族とはぐれたケースを少なくとも4件確認している。
コートジボワールから来たジャンさん(仮名)は、「ニースで警察に止められました。妻は妊娠していて、手錠をかけられている間に気を失い、病院に運ばれました。私と2歳の息子はマントンの国境警察署に連れて行かれ、寒い一夜を過ごし翌朝、国境から退去させられ、イタリアに連れて行かれました。妻の消息は分かっていません」と話した。
劣悪な生活環境が健康に影響
さらに、ベンティミーリア地域を通る人びとは適切なシェルターや、医療、清潔な水、衛生設備へのアクセスが極めて限られている。最近、フランスから退去させられた極めて弱い立場の移民が数日間滞在できる「緊急援助センター」が市内に2カ所開設されたが、何十人もの人びとが路上やその場しのぎの仮住まいでの寝泊まりを余儀なくされている。当局が約束した緊急援助センターの4つのうち2つはまだ機能しておらず、宿泊施設、医療、法的支援といった国境通過希望者にとって必須のサービスは、地元の市民団体などが提供している。MSFが登録した病気の一部に皮膚病、消化器、泌尿器、上気道の感染症が挙げられるが、それらは劣悪な生活環境が引き金になっている。
ディ・ダートは、「法的地位に関係なく、移動中の人びとが包括的な保護とニーズに応じたサービスを受ける権利を認められることが極めて重要です」と話す。「ベンティミーリアで起きていることは当地に限った話ではなく、基本的人権や国際社会による保護をないがしろにし、封じ込めや治安引き締めを優先する欧州の移民政策の潮流の一部と言えるでしょう」
ベンティミーリアとイタリア・フランス国境で収集した証言と医療データから、MSFは、イタリア、フランス、その他の欧州諸国に対し、弱い立場にある人びとを守るために必要なあらゆる措置を実施するよう強く求めるとともに、特に以下のことを要請する。
- EU域内外の国境において、組織的かつ無差別的な国境線外への追放や、自尊心を傷つけるような非人道的な扱いを行わない
- 移民・難民に対し恣意的な拘束や、暴力による行使をしない
- ベンティミーリア、イタリア全土、そして欧州全土を通過し、希望の場所へ移動する人びとに、人道的かつ尊厳ある待遇、医療へのアクセス、適正な生活環境を確保する
- 欧州で援助と保護を求める人びとに安全で合法的な渡航ルートを保証するとともにこれを増やす
- 全ての外国籍の子どもに対し、フランスと欧州の領土に保護を求める権利を保障する
フランスへの入国拒否は本来、保護申請に明白な根拠がない、あるいは、認められないと評価され、不服申し立て期間が満了した場合にのみ行うことができるが、申請審査中、保護希望者を退去させてはならないとされている。
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