モロッコ地震がもたらした見えない傷──発生から1カ月、被災地で続く心のケア
国境なき医師団 / 2023年10月8日 9時5分
マグニチュード6.8の地震がモロッコ中部を襲った悲劇から1カ月──。国境なき医師団(MSF)は現在、被災した人びとの心のケアに重点を置き、活動を行っている。
看護師のフジア・バラは、緊急対応チームの一員として、被災地で2週間活動。地震の影響を大きく受けた村の人びとに、最初の心のケアを提供した。活動中、フジアはグループセッションや個人セッションで150人以上と面会。そのほとんどが女性や子ども、若いボランティアだったという。
モロッコの現場から戻ったばかりのフジアが、被災地の状況と心のケアの重要性を伝える。
被災地の心のケア
地震発生から2日後の9月11日、私は被災地に到着しました。この地震はモロッコがここ数十年で経験した中で最も規模の大きいもので、3000人近くが命を落とし、約6000人が負傷しました。 私たちは他の4つのMSFのチームとともに、ニーズ調査のため数十カ所の村を訪問。5万棟以上の家屋が倒壊し、多くの村で電気が途絶えていました。完全に破壊された村もあり、被害を受けた場所に行くことは一層難しくなりました。
地震発生後、モロッコ当局は数カ国の支援のもと、迅速に大規模な対応を開始。瓦礫の下から遺体を捜索し、負傷者を治療しました。また、ヘリコプターを飛ばし、遠隔地や山間部の人びとを避難させました。当局は被災地の緊急かつ差し迫った医療ニーズには応えているものの、まだ対応しきれていない分野があります。それが心のケアです。
恐怖と不安が口々に語られ…
MSFの震災対応における長年の経験から言えるのは、心のケアはしばしば後回しにされる場合があるということです。しかし、人びとが状況に適応し、回復し、生活を再建するためには欠かせない治療です。
アラビア語とベルベル語を話す医療者として、私は被災した人びとと話し、体験を聞き、彼らが感情を表現し言葉にするのを手助けすることができました。モロッコにはベルベル語を話す心理士が足りておらず、ベルベル語で心理的応急処置を行うことは難しいのです。
私は自分のバックグラウンドのおかげで、通訳を介さずにグループセッションを行うことができました。地震により人びとが受けた衝撃がどれほど大きかったか……。それを目の当たりにしたのです。何歳であろうと関係ありません。恐怖と不安が口々に語られました。
何人かは最初、話すこともできなかったほどです。ティグーガ近郊のある村の女性は、3人の子どもを全員亡くしたといいます。一番下の子はまだ生後1カ月だったそうです。彼女は日中、何も話すことができず、夜になると泣きながら子どもたちを探しまわっていました。
今回の地震で山間部に暮らす人びとは、数秒で全てを失いました。過去、現在、そして未来を──。彼らは何世紀にもわたりこの地に住むベルベル人で、自分たちの土地を離れようとはしません。そのことが、将来への不安をより大きくしています。
「どうやって生活を立て直すのですか?」「以前のように戻るのでしょうか?」「冬が近づいているのに、テントで暮らすしかないなんて……」
これらは、セッション中に繰り返し寄せられた質問ですが、全て被災者の心のケアにつながっていきます。
ボランティアにも心のケアを
モロッコ当局による大規模な動員に加え、主に近隣の州から何百人もの若い援助スタッフが救援活動に参加しました。ただ、彼らも震災のトラウマを免れることはできず、他の人びとと同様に心のケアが必要でした。
一緒に活動したボランティアグループの17歳から24歳の若い人たちは、セッションにより自分たちの心に何が起きているのかを消化し、理解することができたのです。セッションが進むにつれ、彼らは心を開き、以前は隠していた、あるいは強くありたいためにあえて話さなかった苦しみを分かち合うことができました。
また、この震災は人びとが何年もの間、心の奥底に沈めていた多くの隠された心の問題を呼び起こし、彼らの状況や症状はますます悪化したのです。
迅速な対応が必要
MSFは今後数週間、地方当局や地元の組織と協力のもと、無償で心のケアを提供し、人びとの回復をサポートしていきます。何千人もの人びとが支援を必要としており、できるだけ早く実施しなければいけません。また、心の傷がまだ生々しいうちに、そして心的外傷後ストレス障害(PTSD)を防ぐためにも、可能な限り迅速な対応が望まれます。
私たちはモロッコの心理士、ヘルスプロモーター、ソーシャル・ワーカーと協力し、個人セッションやグループセッションを通じて人びとのニーズを特定し、心理的応急処置を実施するためのトレーニングを行っています。また、さらなる支援を必要とする人や、専門家や精神科医によるケアが必要な深刻なケースを特定するためのトレーニングも行う予定です。
地震を生き延びる。そんなトラウマ的な体験を経験した人には、長期的に起こりうる心の問題を避けるために、ケアを受けられる機会を増やし、早急に対応することが必要です。人びとには目に見える傷だけではなく、目には見えない心の傷がある──それを忘れてはいけません。
MSFのモロッコでの活動
MSFは現在、モロッコの被災地で以下の活動を行っている。 ・被災者や最前線で活動するボランティアへの心理的なサポートの提供 ・モロッコ保健省の医療・救急医療チームの支援 ・健康推進活動とメンタルヘルス・キャンペーンの実施 ・心理的応急処置に関する地元グループのトレーニングと支援
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「ここで生きるより死なせてほしい」──反難民感情が高まるレバノンで、シリア難民が直面する恐怖
国境なき医師団 / 2024年7月19日 17時15分
-
心の傷と生きる方法を見つける──戦禍のウクライナで取り組む心のケア
国境なき医師団 / 2024年7月4日 20時5分
-
ギタリスト・SUGIZOが能登半島地震への想いつづる 被災地で何回もボランティア活動「これからも被災地にコミット」
J-CASTニュース / 2024年7月2日 11時49分
-
能登地震で1か月、迎えを待ち続けた猫さん→背中にガラスの破片が刺さっていたが…4か月後には、新しい家族のもとへ
まいどなニュース / 2024年7月2日 11時10分
-
病院への道は「死のわな」──パレスチナ・ヨルダン川西岸で何が起きているのか
国境なき医師団 / 2024年7月1日 18時29分
ランキング
-
1米民主重鎮、決断を称賛=ハリス氏支持で対応分かれる―バイデン氏撤退
時事通信 / 2024年7月22日 9時50分
-
2バイデン大統領、米大統領選からの撤退を表明 代わりの候補としてハリス副大統領を指名
日テレNEWS NNN / 2024年7月22日 3時30分
-
3バイデン氏の決断尊重 英や独首相ら
共同通信 / 2024年7月22日 11時54分
-
4パリ五輪、4355人を「脅威」として排除 仏内相明かす、大会の治安対策で
産経ニュース / 2024年7月22日 11時27分
-
5《トランプ前大統領銃撃事件で使用》「全米で広く出回る」AR-15ライフル、日本の暴力団が「使わない」理由
NEWSポストセブン / 2024年7月21日 16時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)