暴力が人びとの生活を奪い、子どもは飢える──コンゴ・北キブ州で起きている栄養失調の深刻さ
国境なき医師団 / 2023年11月15日 17時8分
いまだ紛争が続くコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)。戦闘の舞台の一つとなっているのが北キブ州だ。
2023年に入ってから、同州内にある2つの地区ムウェソとマシシにおいて、毎月平均800人の子どもが重度の急性栄養失調で病院に入院する事態となっている。前年比にして2倍の数だ。特に、マシシに関しては、肥沃な丘陵地帯として知られており、本来であれば、栄養失調の子どもが増えるというのはおかしな話だ。
長年にわたって武力紛争の中心地だったマシシだが、最近になって、M23(3月23日運動)と呼ばれる反政府武装勢力がこの地で活発な動きを見せるようになった。そこにコンゴ政府軍、その他の武装勢力などが入り乱れて争う状況となっている。多くの人びとが家を追われるなど、以前から危機的だった人道状況はさらに悪化している。
急増する栄養失調の子ども
これまでマシシで栄養失調の問題が起こらなかったわけではない。ただ、2023年に入ってから、重度栄養失調の症例がこれだけ増えていることには、医療関係者たちも不安を抱かざるを得ない。2023年1月から9月にかけて、7500人近くもの子どもが、マシシとムウェソの各病院で治療を受けてきた。国境なき医師団(MSF)が、コンゴ保健省のチームと提携して、15年以上にわたって支援を続けてきた場所である。 息子をムウェソの病院に入院させた避難民女性ミシュリーヌさんが、次のように語る。
「息子が重い病気になって、眼が落ちくぼんだのを見た時はギョッとしました。診療所に駆け込んで、この病院まで搬送してもらったんです。私の子どもが栄養失調になったのは、これが初めてです」
この地域では、避難民の家庭を含めて、子ども全体の栄養状態が、今年に入ってから急激に悪化している。その主な原因は戦闘行為の急増だ。暴力が現地住民の社会経済状況に直接的な影響を及ぼしている。
現地では、稼働中の医療施設はほとんどない。あったとしても、必須医薬品の不足に陥っているケースが多い。そのような中、コンゴ政府の保健当局も、現地の医療施設をなんとか支援しようと懸命だ。医薬品の定期供給だけでなく、栄養失調対策としてピーナッツベースの栄養治療食など、栄養補助食の供給にあたっている。
MSFが支援するマシシの病院で娘が治療を受けているマンデラさんは、次のように語る。
「娘の体が徐々に腫れ始めたんですね。最初は顔、それから全身が腫れ上がっていった。まず診療所に連れていき、ピーナッツベースのペーストをもらいましたが、回復には至りませんでした。4回目の通院で、娘の容体が悪化していると分かり、このマシシの病院に移送してもらったんです」
中等度の栄養失調にかかった子どもは、診療所で適切な治療を受けられないと、重度の栄養失調に陥るのみならず、別の病気を併発しやすくなる。そうなると、治療へのハードルはさらに高くなる。
退院後も残る課題
マシシの病院に勤めるナディーン・ニーマ・ミツツォ医師は、次のように説明する。
「診療所の段階で栄養失調そのものが治療されない場合、病院に入院するケースが増加することになります。現在、病院の集中治療室に入っている入院患者の数は、診療所に栄養失調で通院している患者の数とほぼ同数です。診療所の段階で予防的な治療を受けていれば、大半の子は入院せずに済んだでしょう」
子どもが退院できたあとも、家族は課題を背負う。通常の食事と栄養治療食の両方をそろえることの難しさだ。この点について、ムウェソでMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるキャロル・ゼン・ラフィネンは、次のように語る。
「この悪循環を止めるには、地域関係者たちによる総合的な対応が必要です。持続可能な解決策を見出して、増大し続ける栄養ニーズに応えていくべきです」
暴力が住民の生活を破壊する
ここ数カ月、反政府武装勢力M23は、マシシ地区内に移動してきた。同地において、コンゴ政府軍だけでなく、その他のさまざまな武装勢力などとも武力衝突を繰り広げている。
こうした状況において、多くの現地住民が避難を余儀なくされた。農業、市場、学校、医療など、多方面の活動が滞っており、食料不安も続いたままだ。
マシシは肥沃な丘陵地帯が特徴で、農業が主要産業であることから、専業農家が多い。ところが、ここ数カ月、武装した男たちが道路に検問所を設け出した。さらには「タックスポイント(徴税所)」なるものまで設置し始めたのである。農家の人びとは、自分の耕作地にたどり着くことさえできない。作物を収穫できないまま土地を放棄せざるを得ない状況なのだ。
マシシの病院に息子を入院させているファヒダさんは、次のように語る。
「武装した男たちのせいで、毎日、畑に出られないんです。道を歩いている最中に、連中に遭遇するのが怖い。金品を要求されたり、レイプされたり、殺されることだってあり得るのですから」
たとえ作物が収穫できたとしても、こうした状況下では、市場に運ぶことが難しい。必然的に、食料の供給不足が起こり、物価が大幅に上がった。2022年には、約500コンゴ・フラン(約29円)だったキャッサバ粉1袋の値段が、いまや4倍である。農作業1日分の賃金に相当する。それでも、家族全員の食料1日分にも満たないのだ。
「故郷では、何も食べられない日などなかったのに」と語るのはシファさんだ。4カ月前、故郷の村で戦闘が始まり、家族とともに避難地域に逃れてきた。
「でも、ここには何もなく、救いのない生活が続いています。2カ月前、娘のアニカが病院で息を引き取りました。栄養失調です。7歳でした。病院までたどり着くのが遅すぎたのです。このままでは、貧困が私たちを殺していくでしょう」
MSFは、栄養失調防止に向けて持続可能な活動体制をともに確立していくよう、北キブで活動する他の人道団体に呼びかけている。一方、栄養失調治療に関して、医療施設の医療対応力を強化していくよう、コンゴ当局や資金拠出者にも呼びかけているところだ。
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