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国境なき医師団と南スーダン──希望を捨てず、逆境に立ち向かってきた40年

国境なき医師団 / 2023年12月1日 17時13分

浸水地域で家財道具を運ぶ © Sean Sutton

国境なき医師団(MSF)が、南スーダン一帯で活動を開始して40年となった。南スーダンは、2011年に建国を果たした、現時点において「世界で最も新しい国」だ。MSFは、独立前を含む40年にわたって、この南スーダン一帯において、人道援助の最前線に立ち、紛争、病気に見舞われた人びと、避難民たちの救命医療援助に当たってきた。

MSFは、複雑に絡み合う多様な難題に対応するため、地方自治体や地域社会との連携も図ってきた。MSFにとって、南スーダンにおける40年とは、南スーダンの人びとが困難から立ち上がることに助力し続けてきた40年だった。

紛争、避難民、気候変動──現在も、南スーダンは多方面にわたる課題に直面している。MSFは、他の人道援助団体の活動にも期待を寄せながら、今後も同国への対応に尽力していき、保健・医療面の格差問題などに対処していく。

1980年代に始まった南スーダンでの活動

1980年代、隣国ウガンダにおける紛争を受けて、MSFは、現在の南スーダン中央エクアトリア州にあるイエイという地域で、最初のプロジェクトを立ち上げた。1983年、現地の人びとを中心として、MSFは医療支援の専門チームを作り、ウガンダ内戦による避難民や難民への緊急医療援助にあたった。紛争が起きた地そのものが避難所となり、何千人もの人びとのホームタウンとなった。

その後、難民と地元民のニーズが増大していくにつれ、MSFの活動も長期にわたって拡張していった。避難民問題のみならず、飢餓、疾病、予防接種、水・衛生活動、救援物資の配布などにも対応するようになった。現在、MSFは、南スーダン全土で13のプロジェクトを展開しており、何千人もの人びとの生活に関与している。

南スーダンの独立、そして内戦

悲劇的な内戦が長く続いたスーダン南部は、2011年に独立国家となり、いくぶんは平穏な情勢になる。しかし、それも束の間のことだった。2013年に政府軍と反体制派とのあいだで内戦が起こる。数万人の死者を出し、3人に1人が家を追われる事態になったのである。

2004年からMSFのスタッフを務めているアンドリュー・ダックは次のように語る。

「2011年に南スーダンが独立した時、人びとは希望を抱いていました。戦争はなくなるだろう、保健や医療のインフラ予算も充実していくだろうと信じていたのです。しかし、わずか2年後に内戦が起き、すべて振り出しに戻りました」

それ以来、南スーダンは、たび重なる紛争に加えて、食料不安、疾病の流行、大洪水など、同時多発的にさまざまな事態に見舞われてきた。

気候変動と洪水問題

最近も洪水が4年連続で起こっている。昨年の2022年には、南スーダン全体が壊滅的な洪水に見舞われ、国土の約3分の2が水没した。

南スーダンにおけるMSFの活動責任者ムハンマド・イブラヒムは、次のように訴える。

「年々、洪水被害は深刻化する一方です。規模もそう。水位もそう。住民への影響もです。昨年の雨期には、国土の3分の2以上が水没しました。人びとは洪水によって自宅から追い立てられ、農地は壊され、家畜も死んでいった。家屋も学校も医療施設も壊されていくのを私たちは目の当たりにしました」

何年にもわたる内戦で、この国の保健・医療体制はもろくなっています。ただでさえ栄養失調問題が高まっているのに、それに輪をかけて、洪水という問題がこの国の人道状況をさらに深刻なものにしているのです

医療にたどり着けない人びと

南スーダンでは、病にかかった人びとが医療を受けようとする際に、さまざまな障害に直面している。洪水はその一つであり、それに加えて、医療施設の不足、治安の悪さなども、拍車をかけている。

南スーダンの北部にオールド・ファンガクという街がある。この地でMSFの助産師活動マネジャーを務めるハリエット・ウィコルは、次のように語る。

「子を持つ母親も妊娠中の女性も、その多くがへき地に住んでいて、医療施設にたどり着くのが難しいんです。ほとんどの人は、村の伝統的な助産師に頼るしかありません。医療施設にアクセスできないゆえに、女性たちは、妊娠や出産のたびに危機に陥るのです」

MSFは、こうした問題に対処すべく、とりわけリスクの高い地域に向けた支援を続けてきた。例えば、診療所の運営、アウトリーチ活動、病気予防活動、現地医療従事者の訓練などである。

自立した医療体制を目指して

長く続いた紛争によって、国家予算を医療関係に投じる余裕もなく、南スーダンの医療体制は、インフラ面でも人員面でも、大幅な不足状況が続いている。

南スーダンの北部にある都市ベンティウにおいて、MSFの医師ジョン・プオクが次のように語った。

「MSFは、15年以上にわたって、ここベンティウで医療活動に当たってきました。しかし、MSFが永遠にここにいられるわけでもありません。本来は、緊急医療の必要がある場合に限って、MSFが活動に入っていくべきなのです。そういう意味でも、南スーダン政府は、事態改善にもっと積極的に乗り出してほしいです」

MSFでは、MSFのプロジェクトに関わる医療従事者の能力向上を図るために「MSFヘルスケア・アカデミー」を運営。アカデミーは、南スーダンにおける医療水準の長期的改善をめざして、現地採用の医療従事者たちを対象とする研修活動を実施している。

南スーダンの医療体制にもっと投資を

南スーダンが独立してから12年がたった。この国では、いまだに紛争問題や避難民問題といった危機を抱え、さらには気候変動などの新たな課題にも直面している。こうした危機や課題を通して、この国の人道状況はさらに悪化の一途にある。

国連によると、人口の3分の2にあたる約940万人が、人道援助、医療、保護を必要としている。南スーダンは世界最悪の危機的状況にあるのだ。さらに、隣接するスーダンから帰還民や難民が入国し続けていることから、さらなるニーズが生じている。現在の人道体制では十分に対応できない状況なのである。

それにもかかわらず、国際社会を見ると、南スーダンの医療分野に向けた資金援助額が縮小している。それゆえ、南スーダンの人びとは、健康的影響のみならず社会的影響という面でもリスクを高めている。南スーダン政府および同国と連携する国際開発援助組織は、同国の医療体制に向けた投資・参画・支援に努めるべきだ。状況を悪化させ続けないためにも、そして、今後の潜在的危機を回避するためにも、持続的かつ安定した医療への投資が求められている。

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