アフリカ中西部で広がっている感染症、「エムポックス」とは──緊急対応チームからの報告
国境なき医師団 / 2023年12月8日 19時43分
アフリカ中部のコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の赤道州ボロンバ。この一帯では、数カ月にわたって、「エムポックス」が流行している。以前「サル痘」と呼ばれていた動物由来のウイルス性感染症だ。国境なき医師団(MSF)は2023年8月末から10月中旬にかけて、緊急対応チームを作って、現地の保健当局による治療と感染拡大防止を支援してきた。エムポックスとはどのような病気で、いかなる対応が必要なのか。現地から伝える。
エムポックスとは
エムポックス(Mpox)はとりわけ、アフリカ中央部と西部の約10カ国で流行している。手のひら、足の裏、口の中にできる発疹が特徴であり、発熱、咽頭痛、筋肉痛、皮膚疾患、リンパ節の痛みなどを伴うこともある。
現地ボロンバでMSF緊急対応責任者を務めるラファエル・キブワンチアカは、次のように話す。
「治療が間に合わなければ、患者は合併症を引き起こし、死に至る可能性があります。特に、他の病気によって免疫力が低下している場合はなおさらです。その点、ここボロンバでは、はしかが既に流行していたので、私たちは、両方の病気に対応してきたのです」
エムポックス感染の原因
ボロンバは、赤道州の州都ムバンダカから300キロ以上離れたところにあり、動物が多く生息する森林地帯である。周囲から孤立した交通状態にあり、アクセスが難しい地域だ。住民は、主として狩猟と漁業で生活している。このような自然環境ゆえ、ウイルス性出血熱やエムポックスのような動物由来の病気が発生しやすい状況にある。
この点について、キブワンチアカは次のように説明する。
「野生動物の肉を食べたり、動物にかまれたり、引っかかれたりすることで、動物から人へと、ウイルスが感染するのです。他の人びとに感染させる可能性は非常に高い。感染拡大を防ぐため、感染者を迅速に隔離する必要があるわけです」
誰もがたどり着けない場所へ私たちは行く
8月から10月にかけて、MSFの緊急対応チームは、現地ボロンバで政府保健省を支援してきた。MSFが特に取り組んだのは、当該地域に対する疫学調査である。また、各診療所やボロンバ総合拠点病院において、医療活動にも従事している。
娘がエムポックスに感染してボロンバ総合病院に入院しているケテンゲ・イグバンゴさん。娘の隣に座って、次のように話してくれた。
「この病気のせいで、私たちの村も混乱しています。この子は、うちの家族で5番目の感染者です。私自身も感染していました。生き残れたことを神に感謝しています。私は退院したばかりだったんですが、娘の世話をするために、またこの病院に来るようになりました」
MSFが支援した医療施設では、2カ月半で890人以上がエムポックスの治療対象者となり、そのうち72人が重症化のため入院に至っている。一方、MSFチームは、現地の保健スタッフに対して、エムポックス対応に関する研修を実施した。また、遠隔地でアクセスしにくい地域にある11カ所の診療所にも支援に当たっている。
ボロンバ総合拠点病院で活動したMSFの医師、テオフィル・ルケンベは次のように話す。 「医療戦略として、できるだけ感染者の近隣で医療を提供し、重篤なケースの場合にこちらの病院に搬送することにしました。在宅医療をベースとして、他の家族が感染しないよう患者を隔離しながら治療を行う。一方で、合併症のある患者に関しては、医療施設に搬送して適切な治療に当たるわけです」
MSFチームは、800人以上の在宅患者に対応して経過観察を実施した。一方、感染拡大や病気への偏見を防ぐため、医療施設や地域社会における啓発活動も実施している。エムポックスは身体に目立つ兆候をおよぼすため、患者が地域社会で排斥される危険があるからだ。
最後に、ラファエル・キブワンチアカはこう語った。
「ロジスティック上、今回の活動はハードなものでした。丸木舟でしか行けない地域もあったし、バイクで何時間も森の小道を走らなければいけない診療所もあった。しかも、雨で道がぬかるむこともありましたしね。チームの人員や機材を移動させるのは困難を極めました。しかし、それこそがMSFの存在する理由でしょう。ほかの誰もがたどり着けない場所にいる人びとのもとへ私たちは行くのです」
MSFの緊急対応チームは、ボロンバにおいて、エムポックスに加えて、はしかの流行にも対応した。11万723人の子どもたちにはしかのワクチンを接種し、3355人の子どもたちにはしか治療を施している。また、栄養失調の子どもたち827人、マラリア患者2583人への治療も実施した。
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