水がん:ついにWHOの「顧みられない熱帯病」として公式認定
国境なき医師団 / 2023年12月19日 17時28分
細菌によって顔の組織が破壊される病気「水がん(すいがん)」。世界保健機関(WHO)は12月15日、水がんを「顧みられない熱帯病(NTDs)」の公式リストに加えると発表した。この病気をNTDsとして認知させる活動を3年にわたり取り組んできた国境なき医師団(MSF)は、この決定を歓迎するとともに、今後も病気の原因究明、早期発見、治療や啓発に注力していく。
歓迎すべきリスト入り
水がんは、口の中の粘膜が病原菌によって破壊され、顔の表面にまで達して命を落とすこともある壊疽(えそ)性の口内炎。栄養失調や免疫が低下している子どもに多く発症し、栄養失調や不衛生な生活環境が関係している。今年10月12日、ジュネーブで開催されたWHOの「顧みられない熱帯病に関する戦略・技術諮問グループ(STAG-NTDs)」が、水がんはNTDsリストへの掲載基準を全て満たしていると結論。同グループの勧告をWHOテドロス・アダノム事務局長が批准した。
MSFの保健・医療オペレーション・マネジャーのマーク・シャーロックは、「この決定は、水がんを顧みられない熱帯病として認め、もっと注目と資源を向けるべきだというMSFと医療界の長年の主張を裏付けるもので、歓迎すべきものです。今回の決定を機会に、この病気の予防と治療が既存の公衆衛生プログラムに組み込まれ、必要な予算や人材の確保につながることを期待しています」と話す。
予防可能な一方で治療しなければ90%が死亡
水がんは完全に予防可能な病気であり、適切な時期に対処すれば治療も容易だ。しかし、治療しなければわずか数週間で顔の皮膚と骨が破壊され、約90%が死に至る。生き延びても、痛みだけでなく顔の変形により社会からの差別に直面することも少なくない。
水がんをNTDsとして認定する要請を主導してきたのは、国内に多くの患者を擁するナイジェリアだ。2023年1月、同国保健省はWHOに対し、正式な要請書、日本を含む31カ国からの賛同書、そして水がんがリストへの追加基準を満たしていることを証明する資料を提出した。MSFは、NTDsリストへの掲載による注目の高まりと、早期診断や研究の推進を期待して、ナイジェリア政府に、長年の研究と治療経験に基づく医学的エビデンスを提供し支援してきた。
MSFは、2014年からナイジェリア北西部にある保健省管轄下のソコト水がん病院を支援。診療は全て無償で提供され、再建外科手術や栄養補助、心のケア、アウトリーチ活動(※)などを行っている。2014年以降、ソコトのMSF外科チームは882人の患者に1260件の手術を行った。
※医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動。
原因究明と早期発見、治療へ
シャーロックは、WHOのリスト掲載は重要な過程だが、最終目的ではないと指摘する。「私たちは、水がんに対する認識を高め、死亡率を引き下げ、患者や元患者の生活環境を改善するための政策や研究の促進に向けて、グローバルヘルスコミュニティ内のリソースや戦略的提携を活発化させることに軸足を移していく予定です」
MSFは水がんの原因究明のため、世界中の学術機関との協力関係を拡大し、研究に注力していく。もうひとつの重要な過程は、MSFの医療活動に水がんの発生状況について調査・集計・監視を行う疾病サーベイランスを統合することである。「この病気の流行国では、栄養失調のスクリーニングや集団予防接種など、MSFの既存のプログラムに、水がんのスクリーニングを導入し、早期発見や適切な治療につなげていく予定です」とシャーロックは話す。
またMSFは、水がんに関する啓発・提言活動を今後も継続していく。過去3年間の取り組みは、「水がんは予防可能かつ治療可能な病気であり、もはや存在すべきではない」という、シンプルにして重要なメッセージを伝えるために声を寄せてくれた、この病気の生存者たちから強い支持を得ている。
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