マリ:最後まで残った国境なき医師団も一時退避の事態に──紛争激化で失われる医療へのアクセス
国境なき医師団 / 2024年1月9日 16時8分
西アフリカに位置するマリ共和国(以下、マリ)。この国では、マリ軍がロシアの支援を受けながら、中部・北部エリアで武装勢力らと戦闘中だ。紛争が続く中、現地の人びとは、医療を受けることもままならない。マリで何が起こっているのか。活動を統括するスタッフらが伝える。
やむなく医療活動を中断
MSFは、マリ中部にあるセグー州ナンパラで医療援助活動に従事してきた。諸勢力の対立が激化する中、医療援助団体として最後まで残ったMSFも、2023年11月下旬には一部のスタッフが近隣地域に一時退避せざるを得なくなった。地元の患者たちは、村々で死者や負傷者が出ていると話す。 MSFオペレーションマネジャーのアイサミ・アブドゥは、現地の状況を次のように説明する。
「セグー州(中部)とトンブクトゥ州(北部)では、MSFチームの一部が一時退避を余儀なくされました。医療活動は部分的に中断しています。紛争の火種を抱えるこうした地域では、MSFが人道援助団体として最後まで残るケースが多い。そのMSFすら退避を決断するということは、それだけ状況が危機的になっているということです。紛争に巻き込まれた現地の人びとが、医療も受けられない危険な状況に追い込まれています」
MSF車両への銃撃も
様々な暴力が各地で相次ぎ、人びとは医療を受けることも困難な状況となっている。
2023年8月から12月にかけて、武装勢力「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」が、トンブクトゥ市街に生活必需品などの物資を搬入することを阻止した。同市とその周辺地域に入ることは、陸路でも水路でも不可能な状況になった。さまざまな攻撃や脅威を受けて、行政当局は夜間外出禁止令を発令。生活費は高騰し、食料や燃料の配給もカットされた。
そのトンブクトゥでプロジェクト・マネジャーを務めるジャンジャック・ヌフォン・ディビエは、次のように説明する。 「この町が孤立したのを受けて、MSFの活動にも影響が出ています。往来が難しくなり、治安も悪化したため、MSFは活動を制限して、一部のスタッフを一時退避させました。医薬品の供給、物流設備、燃料などの課題が山積するようにもなった。医療に関する監督業務も、一部はしばらく見合わせています」
9月には、マリ中部にあるモプティで、MSFの車両が銃撃された。患者を移送する途中のことだった。合併症を起こしていた妊娠中の女性が乗っていたが、彼女に付き添っていた母親が死亡した。妊婦と2人が負傷している。
11月下旬には、同じトンブクトゥ州のニアフンケにおいて、軍事キャンプが攻撃された。MSFと保健省のチームが、重症度に応じてトリアージしながら、病院の救急部門で29人の負傷者を治療。医薬品や医療資材の提供も実施している。
爆発物で死亡例もたびたび起きている。10月下旬には、マリ中部の3カ所において、市場から帰ってくる途中の屋台車両3台が爆破された。8人が即死し、約40人が負傷した。MSFが活動している診療所が、全ての負傷者を受け入れている。
守られるべき医療
先ほどのMSFスタッフ、アイサミ・アブドゥが次のように語る。
「MSFは、すべての紛争当事者に対して、スタッフ、救急車、医療施設を攻撃対象としないよう訴えています。私たちは、人道性、公平性、守秘義務という医療倫理を遵守しながら活動を遂行しています。危害を加えられることなく医療を提供し、危機にある人びとを助ける義務があるのです。こうした活動は何としても守らなくてはなりません。これからも、子どもたち、妊娠中の女性、負傷した人びとを治療していかなくてはなりません」
MSFは、1985年からマリで活動してきた。2022年の1年間で見ると、55万2800人の外来患者を診療し、6万8000人に入院治療を施し、1830人の外科手術を行い、暴力や紛争による負傷者900人を治療している。
現在、MSFは、首都バマコ、キダル、ガオ(アンソンゴ)、トンブクトゥ、ニアフンケ、モプティ(テネンクー)、ドゥエンザ、コロ)、セグー(ニオノ)、シカソ(クティアラ)の各州でも活動中だ。 活動の内容は多岐にわたり、妊産婦ケア(健診、分娩介助、帝王切開)、小児科、新生児科、心のケア、予防(予防接種と健康づくり)、がん検診と治療、保護、避難民への支援(救援物資キット、水の供給、トイレの建設)、医療施設の建設と復旧、患者の症状に適した医療施設への搬送などを行っている。
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