「1分ごとに爆弾が──できることはもう限界に」 ガザ、医師が語る極限状態の医療
国境なき医師団 / 2024年1月31日 17時32分
パレスチナ・ガザ地区でイスラエル軍の大規模な攻撃が続く中、国境なき医師団(MSF)はガザ地区の南部に活動を集中して医療援助活動を行っている。ガザで活動したMSFプロジェクト・コーディネーターのトマ・ローバン医師が、極限状態に置かれた現地の医療について語った。
100日を超える戦闘の中で医療は
ガザの北半分の地域では、病院はほとんど機能していないか、もはやまったく機能していません。 南部では、1月11日現在、9カ所の医療施設が一部の機能に限って稼働しています。その中には、砲撃と地上戦によって特に大きな打撃を受けているハンユニスの、ナセル病院とヨーロッパ病院があります。それぞれ大きな総合病院です。 MSFはガザ地区の保健省と連携し、最南端のラファで、建設がほぼ完了していたインドネシア仮設病院での稼働を始めました。術後の外傷とやけどの治療に重点を置き、ナセル病院とヨーロッパ病院、そしてラファにある小規模なアルナジャール病院の負担を軽くすることにしたのです。
ヨーロッパ病院の敷地内には推定約1万人が避難しており、さらに1万人がその近辺にいて、夜には敷地内に戻って寝泊りしている状況です。院内も避難者、とりわけ患者の家族らが、スカーフや毛布、布切れなどを使って仕切りを作り、プライバシーを保とうとしています。院内を移動するには、こうした場所の間を縫うようにして進まなくてはいけません。
安全が奪われた病院
病院は安全な場所だと思われますが、全くそうではありません。病院周辺や病院内でひどい出来事が多発しています。1月6日には、イスラエル軍からの退避要求を受けて、ガザ中部に位置するアル・アクサ病院から一時退避せざるを得なくなりました。狙撃、ドローンによる空爆、爆撃によって、状況は手に負えなくなっていたからです。
南部でも、医療施設のすぐそばに爆弾が落ちて被害が出ています。12月17日、ナセル病院の産科病棟が銃撃を受け、患者1人が亡くなり、他の患者もけがをしました。
1月にはヨーロッパ病院周辺では非常に激しい砲撃があり、爆弾が1分ごとに何時間にもわたって病院周辺に落ち続けました。ガザの住民にとって、病院へ治療を受けに行くことは非常に危険で難しいことなのです。
スタッフの心理的負担も大きく
このような緊迫した状況で仕事をするのは困難を極めています。MSFスタッフも多くは移動を余儀なくされました。ほとんどの場合、戦闘や砲撃のある地域から逃げるほかなかったのです。皆ものすごいストレスを感じています。一晩中爆弾の音を聞いていると、たとえ直接被害を受けていなくても、眠れなくなるのです。非常に大きな心理的を受けています。 安全の観点からは、できることの限界に来ています。イスラエル軍に、MSFが活動する医療施設やチームが滞在する建物の位置座標を伝えても、爆弾や戦車による砲撃を受けない保証はありません。
1月8日、イスラエル軍の砲弾が、ハンユニスで約100人のMSFのチームメンバーとその家族が避難する建物を突き破りました。これにより同僚の娘がけがのため亡くなりました。まだ5歳なのに……。他に3人の同僚がけがをしました。砲弾は爆発しませんでしたが、もし爆発していたらさらに悲惨なことになっていたでしょう。
追い込まれる南部
イスラエル軍がエジプト国境に向かって南下するにつれ、ラファの街も徐々に狭い場所に追い込まれつつあります。その結果、人道的な空間、簡単に言えば、動ける場所はますます狭く、人口密度も高くなっている状況です。
MSFはラファのインドネシア仮設病院で、外傷とやけど治療を始めました。ほとんどの患者は別の病院から搬送されてきており、大半は、爆撃やビルの崩壊、爆発の爆風で負傷した人たちです。応急処置を受け、その後救命手術を受けた人も多いのですが、傷の性質や感染の危険性から、現在は比較的長期にわたる入院を必要としています。患者のなかには重篤な骨折が起きた人もいて、開放骨折で創外固定器が必要になった人もいました。
とにかく、患者の傷が感染する事態はなんとしても防がなくてはなりません。適切なケアがないと、命に関わります。壊疽(えそ)や切断、全身性敗血症につながる深刻な感染症も発症しかねません。
体の傷に加えて、これらの患者は心にも大きな傷を負っています。ショック状態で、何も話そうとしない人も少なくありません。患者だけでなく、街で出会う多くの人たちも同じです。多くの人が避難してくるガザの最南端ラファの街は、不安と恐怖で重苦しい雰囲気に包まれています。
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