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公衆トイレで出産した女性も──ガザ、5万人の妊婦が直面する現実

国境なき医師団 / 2024年2月5日 18時49分

ガザで誕生した新生児=2024年1月15日 © Mariam Abu Dagga/MSF

「陣痛が来た──」。ガザ南部のラファで避難生活を送る妊婦のマハさんは、出産のため病院へ向かった。しかし、患者であふれる病院の分娩室はすべて満室。受け入れてもらうことができず、寒空の下、痛みに耐えながらキャンプに戻った。そして、マハさんは公衆トイレで出産。生まれた赤ちゃんは息をしていなかった。 世界保健機関とユニセフによると、今ガザでは推定5万人の女性が妊娠中で、昨年10月に紛争が激化してから推定2万人の赤ちゃんが生まれている。必要な人道援助が届かず、医療施設が攻撃を受け続けているガザ。医療へのアクセスを阻まれた女性たちが直面している現実を伝える。

出産する場所がない

ガザ南部のラファには、爆撃や退避要求により北部から大勢が避難してきている。30万人だった人口は150万人へと膨れ上がった。多くの人がテントや学校、病院で生活している。

この街で、妊産婦の医療ニーズにかろうじて対応しているのがエミラティ病院だ。分娩の対応数は、紛争激化前の3倍に急増。高まるニーズに対し病院の受け入れ能力は追い付かず、命に関わる緊急の分娩にしか対応できない状況だ。

ガザでは基礎医療をほとんど受けられない状態のため、妊産婦は何カ月も健診を受けられずにいる。稼働を続けるわずかな病院も燃料不足や受け入れ能力不足のため、妊産婦を受け入れることが難しい。

そのため避難生活を送る妊娠中の女性たちは、ビニールテントや公共の建物などでの出産を余儀なくされている。病院で帝王切開を受けた女性たちも、数時間後には病院から出されて避難場所に戻らざるを得ない。

リスクの高い産後24時間

MSFは母親と新生児の命を守るため、エミラティ病院を支援している。より多くの女性が産後ケアを受けられるよう、12床のベッドを増設した。

産後24時間は合併症のリスクが最も高い。困難な環境の避難所にすぐ帰すのではなく、できるだけ長く入院させることが重要だ。

妊娠6カ月で33歳のラナさんは、妊娠合併症のためエミラティ病院の産科病棟に入院した。10月に紛争が激化して以来、一度も妊婦健診を受けたことがなかった。ガザ北部から避難し、冒頭のマハさんと同様に今はテントで生活している。

「避難してからは、交通手段を確保するのも、医療を受けられる場所を見つけるのも難しくなりました。毎月の診察を再開するのは困難です。食べ物や水を探すことも、厳しい環境で寝ることも大変なのです」

産前・産後ケアを提供 即時停戦と医療の保護を

妊婦が医療や十分な食料、適切な避難場所を得られないと、本人や新生児は感染症などのリスクが高まる。妊婦や授乳中の母親が栄養失調だと子どもの健康が脅かされ、長期的な発育上の問題につながる可能性もある。 産前ケアを受けた女性の3分の1以上が貧血を呈していた。貧血は鉄分不足から来ることが多く、鉄分の補給を必要とする妊婦にとっては重大な問題だ。さらに、これらの女性の半数近くが、尿路感染症などの泌尿器感染症を患っていた。 MSFはラファにおいて、エミラティ病院で産後ケアと心のケアを提供。またアル・シャボウラ診療所では栄養失調の検査を含む産前ケアを行い、必要に応じて栄養治療食を提供している。 しかし、ガザへの十分な人道援助と、医療施設の保護がなければ、これらのケアは大海の一滴であり続けるだろう。 MSFは、即時かつ無条件の停戦と、医療の保護を改めて求める。ガザへの人道援助の搬入を今すぐ回復し、医療システムを立て直さなくてはならない。ここに、多くの母子の命がかかっている。

※プライバシーの保護のため名前は仮名です。

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