私たちの見た、ウクライナ──紛争激化から2年 国境なき医師団スタッフの声
国境なき医師団 / 2024年2月14日 10時23分
国境なき医師団(MSF)はウクライナで医療・人道援助の活動を続けています。2022年2月の紛争激化以降も、日本から多くの海外派遣スタッフが活動に携わってきました。
彼らの見たウクライナ、そしてそこに生きる人びとの姿とは──。 ウクライナで活動を行った4人のエピソードを紹介します。
なぜ市民を、なぜ普通の町を撃つのだろう。
日本の報道で分かるのは、ロシアとウクライナがお互いに攻撃しあっていること。でもそこで生活している人たちのことはなかなか伝わってきません。
私が目にしたのは、事情があって町から離れられない人たちが、戦争の巻き添えになっている現実でした。患者さんは、誰もが日常生活の中で負傷していました。
戦争は激化してからすでに2年たち、この先も続くのかもしれません。そうなったときに、ウクライナで暮らす人びとのために何ができるのか──すべてを行うことは難しいかもしれない。しかし、そこには助けを必要とする人たちがいます。その人たちのために活動を続ける限り、MSFができることがある。そう信じています。
久留宮隆(外科医)
活動地:コスチャンティニウカ
「静かな夜を」と笑顔で別れた翌朝、皆の顔を見てほっとする毎日。
2022年9月、MSFの活動に参加し、ウクライナのミコライウで財務・人事のマネージメント担当として、経理から採用まで幅広く担当しました。
現地では12人のウクライナ人のスタッフと一緒に仕事をしていました。いつも明るく、でも真剣に仕事に取り組む、頼もしい仲間たちです。帰宅前の別れ際には、笑顔で「Have a quiet night(静かな夜を)」とあいさつを交わしました。
私は、本当に心からそれを願っていました。砲撃があるため、静かな夜などありえないからです。安全な場所にある私の宿舎でさえ、夜中から早朝まで砲撃で揺れ、とても緊張しました。翌朝、オフィスで皆の無事を確認して、ほっとする毎日でした。
森川光世(アドミニストレーター)
活動地:ミコライウ
多くの人が心の中にトラウマを抱えている。
MSFが開発したマネジメント研修を実施するために、ウクライナに行きました。当初は首都キーウで行う予定でしたが、安全上の理由から直前で西部ビンニツァでの開催になりました。
参加者はウクライナで勤務するMSFのスタッフ16人。中でも特に印象に残ったメンバーが2人います。一人は東部の激戦地ハルキウから来たスタッフです。研修中もとても明るく活発な発言をしてくれましたが、休憩時間などに話す話題は、家族のこと、自分の街のこと、戦争のことだけだということに気がつきました。もう一人はビンニツァから来たスタッフで、以前はギターが好きで弾き語りをしていたけれど、戦争が激化してからは歌えなくなってしまったと言っていました。
ビンニツァの街は、空襲警報が鳴ったりしますが、ぱっと見た限りでは日常が繰り広げられているように感じます。食べ物も物資もあるし、路面電車やバスも通常どおりに動いている。ただ、街の様子をよく観察してみると、若者の髪型がみな同じだったり、両親ではなく祖父母と一緒にいる子どもが多いことに気がつきました。
そしてスタッフと話しているうちに、もしかしたら、いまこの国では、多くの人が心にトラウマを抱えているのかもしれない。日常が繰り広げられているのではなく、誰もが必死に日常にすがろうと努力しているのかもしれない──そんなことを思いました。
小林信久(マネジメント研修担当)
活動地:ビン二ツァ
避難当日。救急車は涙の合唱になった。
武力衝突が拡大する中、前線の近くに残されていた老人ホームの身寄りのない患者さんを安全な場所へ移送する活動に携わりました。
ある施設でのことです。終身型の施設なのでスタッフと患者さんは家族のような関係。そのため、患者さんにとって避難することは、家族との別れに近いものだったかもしれません。
出発の朝、9人乗りの救急車に患者さんを一人ずつ乗せていると突然、ストレッチャーに横たわった一人の患者さんが歌を歌いだしたのです。すると先に救急車にのっていた患者さんも歌い始めて合唱に。別れの歌のようでした。見送る介護スタッフも感極まって、「帰るときがきたらまた来てね」。胸のつまる別れの場面でした。
倉之段千恵(看護師)
活動地:ドニプロ、ドネツク州
ウクライナにおけるMSFの活動地はこちら
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