小児結核の課題とニーズ:国境なき医師団の提言——子どもに有効な、より良い結核検査が必要
国境なき医師団 / 2024年3月1日 17時8分
結核に罹患した子どもたちは、非常に弱い立場に置かれた顧みられない存在だ。2022年には、推定125万人の子どもと青少年が結核にかかり、20万人以上の子どもが死亡した。
毎年多くの子どもたちが結核で命を落とす理由の一つには、結核の診断が慢性的に不十分であり、診断の際に子どもに合わないツールやアプローチに頼っている事実がある。子どものために特別に設計された、より効果的な結核診断薬の研究開発が切実に求められている。
国境なき医師団(MSF)はこのたび、ファクトシート『Tuberculosis in children can be cured, but only if it is diagnosed』(英文)を発表。小児の結核診断の現状を説明し、検査の開発者に向け、必要な改善を呼びかけている。日本語訳は以下になる。
子どもの結核は治る——しかし、それは正しい診断が行われた場合だ
子どもに有効な、より良い結核検査が必要
3分に1人の子どもが結核で亡くなっている。世界保健機関(WHO)の『子どもと青少年の結核終息に向けたロードマップ』によると、結核は5歳未満児の死因上位10位に入っている。
WHOの報告によると、2022年に結核に罹患した子ども(10歳未満)と青少年(10~14歳)は推定125万人で、これは結核患者全体の12%を占める。しかし、子どもと青少年の症例の半数以上は、診断されていないか、国の結核対策には報告されていない。
多剤耐性結核(MDR-TB)になると、診断の欠落はより深刻になる。MDR-TBの結核菌は結核患者の治療に使用される最も強力な第一選択結核治療薬のうち、少なくともイソニアジドとリファンピシンに耐性を示すものだ。年間推定2万5000人から3万2000人の子ども及び青少年がMDR-TBに罹患しているにもかかわらず、その80%以上は診断されていないか未報告にとどまっている。その結果、必要な治療を受けることができていない。
なぜ適切な診断を受けられないのか?
これほど多くの子どもが結核に苦しんでいるのに、なぜ適切な診断を受けていないのか? その根本的な原因は小児結核を検出するための優れた診断検査法がなく、小児結核の診断の大半は依然として臨床徴候及び症状を頼りにしているためだ。
ほとんどの子ども、特に5歳未満児にとって、結核菌を検出するための最も一般的な方法である喀痰(かくたん)検査は非常に困難を伴うものだ。たとえ子どもから喀痰検体を採取できたとしても、喀痰ベースの検査は結核に罹患した子どもから結核菌を検出できるとは限らない。子どもは肺内の結核菌が少ない状態で診察を受けに来ているためだ。(少菌型結核はこれらの検査では検出不可能であることが多い)。
さらに、小児結核は肺以外の場所にできることが多く、肺外結核とも呼ばれる。子どもの免疫系は成人ほど発達していないので、結核菌は体内他部位へより早く進展することが多いからである。肺外結核になると、検体及び正確な診断結果を得るのは、肺にできた結核(肺結核)よりさらに困難になる。
適切な診断を受ければ、適切な結核治療が受けられる
長年にわたって、子どもの結核の薬は投与計画にあった用量では出回っておらず、治療を提供する人や保護者は治療のために成人用の錠剤を砕いたり割ったりする必要があった。だが、子どもへの使用が承認されている結核治療薬は全て、現在では子どもにやさしい製剤で入手できるようになった。
つまり、結核の子どもが適切な診断を受ければ、適切な結核治療が受けられるようになったということだ。したがって各国は、WHOが推奨する小児結核治療レジメンの実施規模を拡充すると共に実施自体も早めなければならない。
小児結核の診断ツールは検出力が低い
2022年、WHOはこれらの課題に対処し、結核対策と医療従事者をよりよい方向に導くために、小児結核の管理ガイドラインを更新し、診断がつかないままの結核患者を減らすことを目的としたいくつかの勧告を発表した。
まず、胸部X線検査と臨床症状、あるいはX線検査ができない場合は臨床症状のみで小児結核を診断するための、エビデンスに基づく2つの治療決定アルゴリズムが開発された。
次に、WHOは診断に欠かせない『GeneXpert MTB/RIF Ultra』を胃の吸引検体などの他の検体とともに、便に使用することも推奨している。子どもは自分の喀痰の大半を飲み込んでしまうため、結核は便や、鼻から胃にチューブを入れて吸引した胃液からも検出できるからだ。
ただ、便検体に対するGeneXpert MTB/RIF Ultraの識別力は、喀痰検体を使用した場合をはるかに下回る。感度こそ便をわずかに上回るものの、胃から検体を採取することはより侵襲的であり、子どもがこの検査に耐えるのは難しいため、胃の吸引検体が使用されることはほとんどない。これらの理由から、臨床徴候と症状、そして胸部X線検査に基づく治療決定アルゴリズムは、医師が小児の結核をより適切に診断するために不可欠だ。
まとめると、小児結核の診断は、臨床徴候や症状の評価に加え、胸部X線やエコー(超音波検査機)などの放射線検査や、可能な場合にはGeneXpert MTB/RIF Ultraを使用した便または他の検体による検査など、複数の検査を組み合わせ総合的に行われている。ただ、利用可能なツールは検出力が低い上に、結核に感染した子どもの多くが治療を受ける基礎医療レベルの医療施設では、利用できないことも多い。
今後は何が必要?
小児に特化した結核診断薬のさらなる研究開発が必要とされる。また、子ども向けの診断検査法は以下の条件を満たしていることが望ましい。
• フィンガープリック採血や口腔スワブのように、検体を採取しやすいもの。
• 高感度かつ特異的であること、すなわち小児の結核を正確に同定できる確率が高いもの。
• へき地や人員・設備・資金が不足している現場の基礎医療レベルに適していて、使いやすく、医療従事者であれば誰でも使用できるもの。
• 低・中所得国にも購入可能な価格であること。
ある検査が子どもに有効なら、成人にも有効だろう。しかし、その逆はあり得ない。
MSFと結核
MSFは、結核治療を提供する世界でも最大のNGOであり、30年にわたり結核治療に携わってきた。紛争地域、都市のスラム、刑務所、難民キャンプ、農村部など、さまざまな場所で人びとを治療するために、活動国の保健当局と協働することが多い。2022年には、MSFは37カ国で結核治療に携わり、合計2万417人の結核患者を治療し、うち2596人がMDR-TBであった。子どもに対応しているMSFのほぼ全ての施設が、ほとんど全ての状況において、小児結核の診断と治療の難しさに直面している。
MSFはまた、3つの臨床試験を通じて、より短期間かつ安全なDR-TB治療レジメンの発見にも取り組んでいる。「TB-PRACTECAL」、「endTB」及び「endTB-Q」だ。WHOがDR-TBの治療に推奨した2種類の6カ月レジメン(BPaLMとBPaL)は、主にTB-PRACTECAL試験から得られたエビデンスに基づいている。
MSFは現在、WHOの最新ガイドラインの実施や調査研究、既存ツールへのアクセスや子どもに適したより良いツールの開発に関するアドボカシー活動を通じて、小児結核のマネジメントを改善するための統合プロジェクト「TACTiC」 (Test(検査)、 Avoid(回避)、Cure TB in Children(小児結核の治癒))を試験的に実施している。
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