ナイジェリア:北西部で顧みられない人道危機が深刻化──対応の拡大が急務
国境なき医師団 / 2024年3月12日 16時31分
ナイジェリア北西部では人道危機が続き、壊滅的なレベルの栄養失調と予防可能な病気の流行が繰り返し起きている。人びとは切迫した状況下にあるにもかかわらず、資金拠出者や援助団体はこの状況を無視し続けており、人道援助のレベルは、劇的に低下。国境なき医師団(MSF)は人道援助機関やナイジェリア当局に対し、資金、資源を投入し、人道ニーズに対処するよう求めている。
人道援助が圧倒的に不足
ここ数年、同国北西部では、極度の暴力、経済状況の悪化、気候変動の影響で、60万人以上が家を追われている。2023年には、人道援助関係者や資金拠出者から資金の投入、援助が展開される兆しがあったにもかかわらず、MSFは現在利用可能な資金や援助が、増加する人道ニーズに対して圧倒的に不足していると警鐘を鳴らしている。
北東部と北西部の両地域は、依然として栄養失調と予防可能な病気の多大なる影響を受けているが、過去のすべての人道対応計画に後者が含まれていないことは憂慮すべきことである。MSFの活動責任者、アフメド・ビラルは「私たちは北西部の人道危機が警戒域にあり、さらに悪化し続けていると、国連や資金拠出者に繰り返し懸念を表明してきました。しかし、『危機』という認識の欠如が、住民の健康や人道ニーズに深刻な影響を与え、切実に必要とされている対応を遅らせています」と憤る。
多くの子どもが栄養失調に
ザムファラ州、ソコト州、カツィナ州、ケビ州に住む人びとは、同国北西部における武装盗賊や拉致を中心とした暴力に繰り返し襲われている。紛争のデータを集計し、地図上に分布を示して公開している米NGO「武力紛争発生地・事件データプロジェクト」(ACLED)の調査によると、2023年にこの地域では1000件以上の暴力事件で2000人以上が死亡した。人びとは自宅を追われるだけでなく、生計を失った上、治安上の理由から農場に行くこともできず、食料の確保や医療、その他の生活インフラへのアクセスも難しく、危険度も増している。
この危機によって栄養失調やその他の病気は急増。国連児童基金(ユニセフ)とナイジェリア当局による全国栄養調査によると、国内では約260万人の子どもが重度の急性栄養失調に陥っていると推定され、そのうち53万2163人がソコト州、カツィナ州、ザムファラ州にいる。
2023年、ケビ州、ソコト州、ザムファラ州、カツィナ州、カノ州で活動したMSFの医療チームは、栄養失調外来で17万1465人の子どもを治療し、命にかかわる重度の急性栄養失調になった3万2104人の子どもに入院治療を行った。この数字は前年と比べ14%も増加している。2023年にカツィナ州でMSFが行った調査からは高いレベルの急性栄養失調が明らかになった。北部のニジェールとの国境近くにあるジビア地方行政区域では、調査対象となった子どもの17.4%が、食糧難が最も深刻な時期ですらない収穫の端境期の初めで既に急性栄養失調になっていた。
入院施設への入院率の高さはすなわち高い死亡率を意味している。ザムファラ州のMSFが支援する施設では死亡率が23.1%に達した。悲しいことに、多くの子どもたちが、危篤状態のため来院後48時間以内に命を落としている。医療機関にたどり着くまでの障害が多く、手遅れになってしまうのだ。2023年には、北西部にあるMSFの施設に入院した子ども854人が、入院後24時間から48時間以内に亡くなった。
暴力の激化が援助に打撃
現地の人びとは、家族の誰かが病気になった場合に、医療施設に行くリスクと、医療を受けずにじっとしているリスクを天秤にかけざるを得ない。ザムファラ州西部グミにあるMSFの医療施設で赤ちゃんにマラリア治療を受けさせているアイシャさんは「私の村は何度攻撃されたか分かりません。誰もが移動することを不安に思っていましたが、赤ちゃんが重病だった上に村の診療所では医療スタッフも薬も不足していたので他にどうしようもなかったのです」と振り返る。
マラリア、コレラ、髄膜炎、はしか、ジフテリアなど、予防可能な病気が広域で繰り返し流行している。2023年、MSFは同国北西部でマラリア16万9954件、コレラ4462件、髄膜炎1548件、はしか1850件、ジフテリア1万3290件の治療を行った。
援助機関にとっては、治安上の制約から特定の地域へのアクセスがますます困難になっている、一方、暴力の激化は残った活動にまで打撃を与え、活動を妨げている。昨年9月、ザムファラ州にいたMSFのチームは、州中部アンカの入院栄養センターの支援を中止せざるを得なくなり、12月には病院の隣で起きた激しい戦闘を受けて、同北部ズルミにいたMSFスタッフも一時的に避難した。
世界的な人道援助削減の流れ
2023年は資金拠出者や援助団体から、同国北西部への関心と資金や活動が高まる兆しが少しずつ見えていた。しかし、資金援助は進んでおらず、世界的な援助削減の流れの中で、この地域で活動する数少ない援助機関は、活動を拡充する余力がない。
同国でMSFの代表を務めるシンバ・ティリマ医師は「世界的に人道援助予算が削減される風潮の中で、一部の団体への資金援助削減を非常に警戒しています。MSFは活動資金を政府や他の機関の資金に頼っていませんが、北西部で活動するほとんどの援助団体は、資金の大半を国連の人道対応計画に頼っています。昨年は北西部には人道援助が展開される希望の兆しが見られましたが、いくつものチャンスを逃してしまいました。2024年に同じ事態が繰り返されることはなんとしても防がなければなりません。人道ニーズと住民の苦しみという点で、今年は最悪の年になるかもしれないのですから」と事態の深刻さを強調する。
MSFは、弱い立場に置かれた人びとの苦しみを軽減するために、栄養失調の予防と治療に最優先で取り組むべきだと考えている。また、予防可能な病気に対する定期予防接種と後追い接種の改善、病気の流行に対応した集団予防接種の実施も必要だ。これは、特に5歳未満の子どもの発病率と死亡率を減らすための最重要課題となっている。
さらなる人道危機の悪化が懸念される中、MSFは人道援助団体とナイジェリア政府に対し、アクセスが可能な限り同国北西部各地に展開し、この顧みられない人道的緊急事態に対応するよう要請する。
MSFは1996年からナイジェリアで活動。同国北西部では現在、ザムファラ州、ソコト州、カツィナ州、カノ州、ケビ州にある28カ所の外来栄養治療センターと7カ所の入院栄養治療センター(ITFC)で活動している。北東部ではボルノ州のマイドゥグリ病院とバウチ州のカフィン・マダキ病院で活動している。2023年には全国で20万2083人の栄養失調児が外来栄養治療プログラムの治療を受け、5万2124人の重度急性栄養失調児が入院治療を受けた。
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