地中海:イタリアがMSFの救助船を不法に出港差し止め リビア沿岸警備隊の脅迫と救助妨害
国境なき医師団 / 2024年4月1日 17時16分
アフリカや中東などでの紛争や混乱、迫害などから逃れるため、アフリカ北部のリビアを経由し、地中海を渡って欧州を目指す人びとがいる。小さなボートに大勢が乗った命がけの渡航で、海上で命を落とすケースが後を絶たない。国境なき医師団(MSF)はこのような人びとの命を守るため、地中海で捜索救助活動を行っている。
MSFが運航する捜索救助船「ジオ・バレンツ号」が3月下旬、イタリア当局から20日間の出港差し止めを命じられた。イタリア当局側はその理由を「地中海中部での救助活動中に、リビア沿岸警備隊の指示に従わず、生存者の生命を危険にさらした」としているが、MSFは当局側の主張を強く否定している。
MSFは、リビア沿岸警備隊と組織的に示し合わせ、安全と保護を求めて欧州に向かおうとする人びとを何としても阻もうとするイタリアによる、同船への制裁措置を非難する。
地中海で実際に何が起きたのか
イタリア当局は「MSFがリビア沿岸警備隊の指示に従わなかった」としているが、実際には何が起きたのか。 MSFは3月16日、地中海中部で3つの救助活動を行い、計249人を救助した。この日午後、グラスファイバー製ボートから28人を救助した。 続いて木造ボートから146人の遭難者を救出したが、この活動をリビア沿岸警備隊が妨害した。リビア沿岸警備隊員らは、2023年にイタリア政府から寄贈された巡視船に乗って現場に接近。救助作業中、MSFの救助ボートに無理やり乗り込もうとした。さらに、MSFスタッフと遭難者を「拘束してリビアに連行する」と脅した。警備隊員らは2時間以上にわたって危険な妨害を繰り返し、MSFスタッフを含む数十人の命を危険にさらした。 MSFはこのあと、別のボートから75人を救出。多数の子どもを含む遭難者ら249人全員が、3月20日にイタリア北部のマリーナ・ディ・カッラーラで下船した。 「イタリアの行動は言語道断です」 MSFの捜索救助責任者のフアン・マティアス・ギルは語る。 「ジオ・バレンツ号が指示に背いたと非難するリビア沿岸警備隊こそが、あの日、人びとの命を危険にさらしたのです。そして、リビア沿岸警備隊はイタリアに支援されています。一方、私たちは、海上で人命を救助するという法的義務を果たしたことにより、制裁を受けているのです」
さらにギルは続ける。 「欧州連合(EU)と加盟国はこれまでも偽善行為を行ってきましたが、この出港差し止めはその最新例と言えます。彼らは、あらゆる手段を講じて救助活動に携わる人びとを罰しようとしています。その一方で、毎年何千人もの人びとを暴力的にリビアに送り返すことに加担しています」
リビアが難民や移民にとって安全な場所ではないこと、そして、海で遭難した人びとをリビアに戻すことは違法行為であることを十分承知しているにも関わらず、イタリア当局は何度も何度も、リビア沿岸警備隊と救助を『調整』するよう私たちに要請してくるのです。
難民を阻む各国の意図的な救助妨害
2023年初頭にイタリアで海上での非政府組織(NGO)の人命救助活動を意図的に妨害する新法令、通称「ピアンテドージ令」が施行されて以来、人道目的の捜索救助船の出港が差し止められるのは、今回のジオ・バレンツ号の件で20回目となる。
「近年、NGOはイタリアを含むヨーロッパ各国政府から嫌がらせを受け、犯罪者として扱われています。このような行動は、人びとを何としてもヨーロッパに到着させまいとする汚い政治戦術です。ジオ・バレンツ号は、常に国際海事法にのっとって活動しています。私たちは、この不当な出港禁止令を巡り、裁判に訴えました」とギル。
海上での人命救助を阻止されれば、最終的な代償を払うのは、またしてもリビアから逃れようとする人びとなのです。
制定した内務相の名から呼ばれる「ピアンテドージ令」は、国際法や欧州法に違反するだけでなく、すでに不十分な海上での捜索・救助能力をより悪化させ、世界で最も危ない移動ルートのひとつである地中海中部をさらに危険なものにしている。
MSFはイタリア当局に対し、NGOによる海難捜索救助活動の妨害を直ちに中止するよう求める。さらに、EUとその加盟国に対し、リビア沿岸警備隊および人権侵害の記録がある当局に対するすべての物的・財政的支援を停止するよう訴える。
MSFの海難捜索援助活動
2015年から海難捜索救助活動に取り組むMSFは、これまでに8隻の救助船(単独または他のNGOとの連携)で91,000人以上を救助してきた。2021年5月に「ジオ・バレンツ号」で活動を開始して以来、11,300人以上を救助し、13人の遺体を回収、1人の出産を支援した。
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