「トイレは数百人に1つ」 不衛生な過密環境でコレラ流行の懸念──コンゴ、戦闘から逃れた人びとが直面する危機
国境なき医師団 / 2024年4月3日 17時15分
コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部の北キブ州では、反政府武装勢力「3月23日運動(M23)」とコンゴ軍およびその同盟国との2年にわたる戦闘が1月下旬に激化。30年にわたる紛争ですでに荒廃している地域で、この2年の間に160万人以上の人びとが家を追われた。避難先では、過密で不衛生な生活環境によるコレラをはじめとした病気のまん延が懸念されている。
国境なき医師団(MSF)で副医療コーディネーターを務めるアブドゥ・ムセンゲツィが、現地の状況と医療ニーズについて伝える。
副医療コーディネーター アブドゥ・ムセンゲツィからの報告
食料も水も手に入らず
避難してきた人びとは、雨をほとんど防ぐことのできない仮設住居で何家族も身を寄せ合っている状態です。毎日食料と清潔な飲み水を手に入れるのに苦労し、それらがないまま過ごす人も多くいます。トイレは数百人に一つしかなく、洗い場の類もありません。 最近、北キブ州の州都ゴマに逃れてきたある女性は、子どもと着の身着のままで家を出たと語りました。紛争が拡大するにつれ、何度も移動を余儀なくされたそうです。今、この女性はキャンプで苦しい日々を送っていますが、治安があまりに悪いので元の家に帰ることはできません。
戦闘の負傷者であふれる病院
ゴマの西のマシシ郡でMSFが支援する2カ所の病院と診療所は、戦闘で負傷した患者でいっぱいです。この2カ月で、保健省が運営するムウェソの病院でMSFは146人の紛争負傷者を治療しましたが、そのほとんどは銃による傷と爆発による負傷でした。 ゴマの北、西、南に至る幹線道路は、治安の悪さと戦闘のために通行できず、ゴマ市内の施設に物資を運ぶことは困難を極めています。
MSFが支援している地域の医療施設では、生活環境の悪化で病気になった人や、性暴力や戦闘で負傷した人が増えています。ミノバの病院では、3月7日の1日で40人の負傷者を受け入れましたが、7人は来院時すでに死亡していました。
患者は複数人で一つのベッドを使わざるを得なくなっている状況です。前線はわずか5キロ先で、付近を銃弾が飛び交うなか、スタッフは限られたリソースで24時間体制を敷いて勤務しているのです。
最大の懸念はコレラ
数千人が過密で不衛生な場所で過ごしていることから、健康面では特にコレラの流行が心配です。
清潔な水が手に入らないことも重なり、コレラが流行する条件がそろいつつあります。数カ月前から、MSFは複数のキャンプでコレラ対応を始めていますが、新たに避難民が押し寄せれば、現在の流行に輪をかけた事態に発展しそうです。
紛争再燃前から北キブ州と南キブ州の医療事情は非常に悪く、5歳未満の子どもの予防接種率は低いものでした。世界保健機関(WHO)によれば、接種率は過去30年間で最低です。医薬品不足や必要な研修を受けた医療従事者不足など、医療施設が十分に機能していないことも一因となっています。
コレラはコンゴ東部では新しい病気ではありません。しかし、ここ1年半の間、過密な避難先で暮らす人びとが増えたためリスクが高まっています。何十万人もの避難民が新たに来る前から、衛生面や衛生・排水設備、安全な飲み水が足りなかったのは明らかです。
コレラ患者の増加は、不衛生な環境、安全な飲み水の不足、清潔なトイレ・シャワーなど衛生施設の不足に直接関係しています。この病気は治療が遅れると命に関わります。特に子どもは最もコレラにかかりやすい上に、わずか数日で命を落とすこともあるのです。迅速な経口補水か静脈内補水を必要とする患者が多いので、経口補水ポイントを設置することで、地域で治療を受けられるようになります。
ここ数カ月、MSFのチームは、ゴマとその近郊の避難先で、数千人のコレラ患者を治療してきました。避難先に到着したばかりで、清潔な水、トイレ、石けんなどの衛生用品を利用できず、他人と近い距離で生活していた人びとです。数日の間に、避難場所の人口は1.5倍になりました。これらの要因が、強い感染力を持つこの病気を急速にまん延させていることは明らかです。
コレラの予防を進めるMSF
飲用に適した水が大幅に不足していたので、MSFは昨年、キブ湖畔に揚水・塩素消毒ステーションを建設し、毎日最大200万リットルの飲み水を汲み上げ、消毒しています。また、1日に何十万ガロンもの飲み水をトラックで避難者の居住地に届け、トイレやシャワーも設置しました。
しかし、緊急対応ということもあって、新たな避難民どころか、現地にいる避難民のニーズを満たすにも至っていません。他の人道援助団体やコンゴ当局による、給水車の追加や緊急トイレの増設が急務です。
MSFはコレラの予防接種と患者の治療を続けています。2023年だけでも、北キブと南キブで2万人余りの患者に治療を行いました。しかし衛生状態が改善されない限り、MSFの医療対応だけでは足りません。公衆衛生上の大惨事を避けるため、他の人道援助団体も活動を拡充することが求められています。
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