コンゴ民主共和国:紛争下でも安全な妊娠・出産を──妊産婦の心と体に寄り添う産前産後ケア施設
国境なき医師団 / 2024年4月18日 17時16分
長年、紛争や治安の悪化が続くコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の北キブ州。その州都ゴマから東へ150キロメートルほどのところにある町ワリカレ。ここの総合病院内にある産前産後ケア施設「ビラージュ・ダキュイユ」には、毎月30人ほどの女性がやって来る。彼女たちは皆、妊娠や出産に高いリスクを抱えた妊婦たち。適切な医療と安全な出産を求めて、遠い地域や孤立した村からも、妊婦が日々訪れている。
「ビラージュ・ダキュイユ」は国境なき医師団(MSF)が2018年に設立した施設だ。妊産婦と新生児の死亡リスクを減らすことを目的としている。単なる「一時的な住居」ではなく、専門的な医療を提供し、母子の健康や安全にも配慮している。
「ここでは、医療を受けられるのはもちろん、妊産婦や新生児に欠かせない食事や清潔な水、シャワーもあります。また、性暴力から逃れるための避難所としても機能しています」と、病院の婦人科・出産部門の責任者であるセラフィン・キクワバントゥは話す。
長距離移動、高価な医療費──立ちはだかる出産への壁
コンゴで女性や女児がリプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)を受けることは、極めて難しい。近年、国内における性暴力の増加に伴って、リプロダクティブ・ヘルスケアの需要はさらに高まっているが、それ以前から、そもそもコンゴの医療インフラは資金難のため脆弱で、医薬品や医療スタッフも足りなかった。治療費が高価なことや、道路や公共交通網の貧弱さなど地理的なアクセスの難しさも相まって、コンゴの妊産婦と新生児の死亡率は世界で最も高い水準にある。
ワリカレから遠い地域に住む妊婦にとっては、病院までの長距離移動が障壁となり、早期のケアが受けにくい状況となっている。その結果、多くの女性、特にリスクの高い妊婦が、病院に来る途中の路上で命を落としたり、ようやく病院にたどり着いた矢先に亡くなったりしてしまう。MSFはこういった事例を防ぐことを目指している。
「私の母は、産後の出血で亡くなりました。それが、本当に辛かった──女性を助け、母親たちを救うためにこの仕事をしたいと思ったのです」とセラフィン・キクワバントゥは言う。
「ビラージュ・ダキュイユ」でケアを受けているアポリーヌ・ウエゾさんは、病院から37キロメートルも離れたイテベロ村に住んでいる。妊娠中の身重の体にもかかわらず、彼女は険しい道のりを2日間歩き続け、最善の環境で出産すべく施設の門を叩いた。
前回の出産では子どもを亡くしました。今回は双子を妊娠しています。経過を綿密にモニタリングしてもらいながら、安全に出産できることを願っています。
治療に加えて心のケアも 妊産婦に寄り添う施設
出産前にハイリスクと診断された女性は、地元の保健センターから「ビラージュ・ダキュイユ」を紹介される。また、胎児の発育に弊害となり得る健康問題を抱えている女性や、過去に帝王切開や多胎分娩、難産を経験した女性も対象となる。 「ここは、女性の命を救うための施設です」とキクワバントゥは話す。 「多くの女性にとって、近くに診療所はありませんし、たとえ診療所に行けたとしても、治療費や薬代が高くて、とても手が出ません。出産予定日前に『ビラージュ・ダキュイユ』に滞在することで、さまざまな合併症を減らし、母子の死亡リスクを軽減することができるのです」 「ビラージュ・ダキュイユ」に来た女性はすぐに、MSFスタッフによる診察を受ける。必要に応じて、梅毒やマラリアなど、胎児に悪影響を与える可能性のある病気の検査や治療も行なわれる。 また、医療ケアに加え、女性同士で個人的な経験を語り合うことも奨励されている。病院内にあるMSFトゥマイニ診療所(スワヒリ語で「希望」の意味)では、心のケアのセッションが行われており、カウンセリングを受けながらさまざまな避妊法について学ぶことができる。 5年前に「ビラージュ・ダキュイユ」がオープンして以来、約1800人の女性たちが入居し、ケアを受けてきた。「ビラージュ・ダキュイユ」があるワリカレ総合病院の産科病棟では、MSFと地元保健省が緊密に連携し、毎月440人以上の赤ちゃんが誕生している。そして2023年、MSFがワリカレ地域内で支援した分娩総数は5070件に上った。
ワリカレ地域でのMSFの取り組み
MSFは地元保健省と連携し、ワリカレ総合病院において妊産婦、新生児、小児などをケアするサービスと、一般診療を提供する10の医療センターを支援している。また、トゥマイニ診療所では、性別およびジェンダーに基づく暴力(SGBV)を受けた被害者の心のケアも提供している。
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