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コロンビア:紛争で孤立した地域に医療を──住民と対話しながら、保健医療の普及に挑む

国境なき医師団 / 2024年5月15日 17時18分

紛争の影響を受けたコミュニティをMSFスタッフが定期的に訪れ、住民との対話を重視しながら、一般的な病気の予防や基本的な治療法、早期発見などの知識を広めている=2024年3月1日 © Natalia Romero Peñuela/MSF

政府軍と武装勢力との間で、50年以上に渡り内戦が続いていたコロンビア。2016年に和平合意が成立したものの、翌2017年には複数の地域で暴力が再燃。人びとは未ださまざまな武装勢力の殺害や脅迫にさらされ、一般的な医療や最低限のサービスを受けることも難しい状況が続いている。 特に孤立した地域に住む人びとにとって、事態はより深刻だ。長年紛争に見舞われているチョコ県では、先住民に加え、アフリカ系住民も数多く住んでいるが、そのコミュニティの多くは川に阻まれて孤立している。

診察を受けたくても、武装勢力による暴力や移動制限が後を絶たず、移動手段であるボートを手に入れることも難しいため、医療へのアクセスが非常に困難なのが現状だ。 そのような人びとのため、国境なき意識団(MSF)は2022年3月からアルトバウドという町で活動を続けている。


チョコ県の実態、そしてMSFが進めるこの地域独自の保健医療モデルとは──。

突然の破水──移動しながらの壮絶な出産

イエシカ・モスケラさんは、チョコ県南部イストミナから県都キブドまで続く、わだちだらけの道路脇に止められた救急車の中で出産した。
出産の20時間前、彼女は不安のあまり、バウド川沿いに住む地域保健担当者マリア・ダイシー・モスケラさんの家のドアをノックした。出産予定日はまだ2カ月も先だったが、イエシカさんは破水し、激しい陣痛に襲われたからだ。そこから1時間、川を上ったところにある診療所に向かうよう、マリアさんは彼女に勧めた。
診療所で、イエシカさんは病院での治療が必要と告げられ、さらに2時間、川を進み、そこから救急車で4時間かけてキブドに向かった。出産は、そのさなかに行われたのだ。 誕生した赤ちゃんは、バイタルサインが極端に弱い状態だったが、看護師が蘇生を行い、1年半後には健康な幼児となった。

「もしイエシカを診療所に紹介していなかったら、この子は亡くなっていたでしょう」とマリアさんは語る。この地域では、誰もがマリアさんを知っている。彼女は医療を受けることが難しい133のコミュニティを支援するため、MSFから訓練を受けた地域保健担当者の一人なのだ。

移動制限、地雷、天候──治療を受けられるかは運次第

この地域で医師の診察を受けるには、ある程度の運が必要だ。日中に病気になるなら運の良い方と言える。なぜなら、夜間になると武装集団の命令で、人びとは移動の主な手段である川での移動を避けるからだ(武装集団側はそんな命令は出していないと否定している) 。
このような移動制限は日常茶飯事で、コロンビアの市民権と人権の保護を監督する国家機関「コロンビアン・オンブズマン事務局」によると、2023年にはチョコ県全域で124件の強制監禁(村から出ないように命じられる)が発生し、4万人以上が影響を受けたとしている。 また、チョコ県の住民の多くは、強制集団移住の犠牲となっており、大勢の人が家を追われ、別の場所に移ることを余儀なくされている。さらに、人びとは強制失踪や対人地雷、不発弾という絶え間ない脅威にさらされ、医療従事者も暴力の標的になっている。 医師の診察を受けるには、雨が降り、川に十分な水が満たされて、最寄りの大きな町まで3~15時間の間に移動できることが条件だ。また、モーター付きのボートを所有している、あるいは貸してくれる友人がいることも重要になる。というのも、ボートを持っているコミュニティはほとんどなく、この周辺地域に暮らす約10万人のための救急船もないからだ。

合併症予防や死亡率低下に成功 MSFの保健医療モデル

MSFは、このような日常生活におけるさまざまな課題を考慮し、プロジェクトを運営している。それは、とりわけ辺鄙で、十分なサービスが行き届いていない場所に住む人びとに医療を届け、医療ケアを受けることが最も困難な民族に焦点を当てている。 MSFのプロジェクト・コーディネーターであるハビエル・マトスは言う。「紛争の複合的な影響、医療提供における大きな格差、そしてこの地域の地理的な条件も考慮すると、MSFの保健医療は地域密着型、分散型、そして民族重視でなければならないと考えています」 MSFがこの地域で行っている保健医療モデルには、3つの重要な要素がある。

一点目は、アフリカ系住民および先住民の健康に関する認識や習慣について、MSFがよく理解していることだ。この知識を活用して、一般的な病気を予防し、治療が容易なうちに早期発見できるよう、彼らに伝え続けてきた。 MSFの医療アドバイザーであるジョハナ・ビナスコ医師は、「私たちが受ける医療相談のほとんどは、マラリア、下痢、呼吸器症候群、皮膚疾患に関連するものです」と言う。

これらの病気はすべて予防可能、または基本的な医療を受けていれば解決できます。

また、MSFは衛生的な食物の調理と保存方法、蚊帳の使い方、清潔で安全な飲料水を提供するためにMSFが設置した貯水タンクの使い方などについて、地域のヘルスプロモーターにトレーニングを行っている。

さらに、一般的な病気に対する基本的な治療に加え、専門的な治療の必要がある患者を診療所に紹介できるよう、病気の危険なサインを識別するための訓練も行っている。 二点目は、MSFはネットワークを通じて、患者が診療所に行くための交通費と、コミュニティから離れる日数分の食費を負担していることだ。
そして三点目として、患者が紹介された先の医療施設のサービス強化を支援している。
これらを行うことで、プロジェクトは過去2年間、幼児の重篤の合併症の減少や、2歳未満児の死亡率の低下など、多くの顕著な結果を残してきた。
「私たちの分散型モデルは、紹介患者数が最も多い5歳未満児の重篤な合併症を予防し、マラリアなど予防・治療可能な病気による2歳未満児の死亡率を下げるのに役立っています」とビナスコは言う。 2022年3月から2024年2月までに、MSFの訓練を受けた地域保健担当者は、9985件の医療相談を行い、72人に心理的応急処置を施した。また、2097人を診療所に紹介し、うち1388人は緊急であった。一方、MSFの訓練を受けたヘルスプロモーターは、健康問題の予防に関する5172件の講演を行い、4万6915人の参加者を集めた。

1万人に対し医者は2人以下 深刻な状況は続いている

こうした成功にもかかわらず、この地域の困難な状況は続いている。移動制限や地雷のために、多くの人びとは診療所にたどり着けず、十分な食事もとれない。また、畑に行けず、漁業や狩猟もできないため、特に子どもたちが栄養失調に陥る危険もはらんでいる。 加えて、既存の保健システムにも深刻な欠陥がある。
「外傷、事故、出産時の合併症など、何の前触れもなく発生する病状に対しては、緊急の紹介が必要ですが、不安定で非効率なシステムで対処せざるを得えません」とビナスコは言う。
世界保健機関(WHO)は、人口1万人に対して最低23人の医師を配置することを推奨している。コロンビアの平均は24人だが、アルトバウドには人口1万人に対して医師が2人以下だ。 僻地に住む人びとは、病院にたどり着くまでに丸一日かかることもある。より高度な治療が必要な場合は、キブドのサンフランシスコ・デ・アシス病院に行かなければならないが、同病院は4年前からコロンビア当局の調査・管理下に置かれているため、治療の保証はされていない。

さらに、先住民の中には、医療スタッフから差別を受けていると訴える者もいる。 「私たちは、この地域に住む人びとの医療アクセスの改善と、民族に焦点を当てた分散型ケアの推進を求めています」とマトスは言う。
ビナスコも「MSFの保健医療モデルは、患者の生活実態に基づいています」と同意する。

患者の生活習慣を尊重し、医療などの基本的権利へのアクセスを強化することで、彼らの尊厳を回復する一助となるのです。

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