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人道援助の「空白地帯」となったスーダンで何が──戦闘から1年以上 援助のない避難生活は続く

国境なき医師団 / 2024年5月28日 17時18分

略奪された消防署に避難した一家=スーダン、中央ダルフール州 Ⓒ Juan Carlos Tomasi/MSF

スーダンでスーダン軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の間で戦闘が始まって1年余り。医療、食料などさまざまな面での人道危機が深刻さを増す一方、支援は今もとぼしく、スーダン全体が人道援助の「空白地帯」となっている。

同国西部の中央ダルフール州。州都ザリンゲイのハサヒサ・キャンプで暮らす避難民の人びとも、戦闘に巻き込まれた。国連によると、11月までに、同キャンプは数カ月にわたり「即応支援部隊(RSF)」に包囲され、負傷者はキャンプの外で医療を受けることができず、水や食料の供給も妨げられていたという。

国境なき医師団(MSF)は、現地で医療活動を行うとともに、スーダン保健省の支援を行っている。戦闘が始まってから1年以上がたった現在も、人びとは過酷な環境での生活を強いられており、医療ニーズは増え続けている。

援助を受けられない避難生活

11月2日の夜、アイサさん(50歳)とその家族はロバにひかせた車に乗り込み、ハサヒサ・キャンプから避難した。持ち物はマットレス1枚だけだった。

「同行していた男性は殺され、拘束されました。武装した男たちに止められた際には、彼らは人びとを縛り上げ、若い男性に暴力をふるいました」とアイサさんは当時の様子を振り返る。

アイサさんと家族が、破壊された消防署で輸送用コンテナの一つに住み始めてから、すでに6カ月以上がたつ。スーダンで避難を強いられている650万人の人びとと同様、アイサさん一家も主に人道援助に頼って生活をしている。しかし、多くの場所で援助を受けることは難しく、水や食料、医療を含む必要不可欠なサービスへのアクセスも十分ではない。

消防署の向かいに暮らすのは、ナジャさん(30歳)と3人の子どもたちだ。一家はハサヒサ・キャンプからの避難民とともに、略奪された銀行に避難している。

「屋根もなく、食べ物もない。こんな状況で私たちは暮らしています」。そう、ナジャさん話す。

援助は一度も受けたことがないし、石鹸一個すらもありません。もうすぐ雨季がやってきますが、私たちはどこへ行けばいいのでしょう……。それも分からないのです。

医療を受けることも困難に

街の中心部にあるのは、ザリンゲイ大学だ。ここはかつて、医学、農学、科学技術を学ぶ学生の集う場所だった。しかし、いまではすっかり姿を変えている。講堂にはロバ用の干し草が保管され、キャンパスの建物は洗濯物の物干し竿がかけられている。

そこからわずか10分の距離にあるザリンゲイ教育病院で、娘のマラカさんが退院するのを待っているのがハディージャさんだ。その日は、MSFが救急治療室を再開した最初の日で、マラカさんは最初の患者の一人だった。家を追われたハディージャさんは、残った持ち物を売り、お金に換えた。しかし、彼女は娘のための薬を買うことができなかったという。

「この病院まで1時間以上かけてやってきました。マラリア検査で陽性だった子どもに治療を受けさせるためです」。そう、ハディージャさんは説明し、続ける。

以前住んでいたハサヒサ・キャンプでは、無料で薬をもらっていましたが、ここではそうはいきません……。でも今日、MSFの支援する病院で初めて無料で薬をもらうことができました。

崩壊した医療システムを支えるために

戦闘による大規模な暴力の中、スーダンでは医療従事者や医療施設が攻撃や略奪の対象となってきた。医療システムの大部分は破壊され、機能していない。中央ダルフール州に唯一残る二次医療施設であるザリンゲイ教育病院も、この紛争中に何度も略奪の被害に遭っている。

2023年5月に略奪があった後、保健省の職員は市内のボランティアを動員し、病院の機能を維持するために全力を尽くした。その時のスタッフの一人が、21歳の看護師アスマさんだ。そして5月の略奪から数週間後──。病院は再び襲われ、この時は患者が死亡する事態となった。

医師が首を撃たれたのです。帝王切開の手術の最中でした。その後、患者は廊下で息を引き取りました。

中央ダルフール州の専門的な医療を立て直すため、MSFはザリンゲイ教育病院で二次医療を提供している。保健省を支援し、スタッフの研修と給与サポートを行うとともに、救急、産科、小児科の再建に取り組んでいるところだ。

2024年4月には、MSFは900件以上の救急診療を行ったほか、400件近くの小児の入院を受け入れ、約100件の安全な分娩を支援。入院栄養治療センター(ITFC)では、50人以上の栄養失調の子どもたちに対応した。

スーダンは人道援助の「空白地帯」に

MSFの緊急対応コーディネーターを務める、ビクトル・ガルシア・レオノールは、スーダンの状況について次のように話す。

「医薬品や食料品の価格は高騰し、特に避難民には手が届かないものになっています。また、ほとんどの医療施設は正常に機能していません。スーダンは援助の届かない、人道援助の『空白地帯』になっており、膨大な医療ニーズはさらに悪化しています」

この紛争はスーダンの人びとの医療アクセスを完全に破壊しました。

また、スーダンでは世界最大の避難民危機が起きているにもかかわらず、多くの人道支援団体は、昨年の戦闘が激化した際に退避して以降、戻っていない。紛争が始まってから1年以上が経過したいまでも、スーダンは人道援助の空白という問題に直面し続けているのだ。

MSFは引き続き、すべての紛争当事者に対し、国際人道法で保障されている医療従事者と医療施設への特別な保護の尊重、スーダン全域における安全な人道アクセスの確保、物資とスタッフが移動する際の妨害の停止を呼びかけている。また、人道支援を確実に必要としている人びとに届けるためには、人道支援の迅速かつ大規模な拡大に向け、国連の積極的な貢献も欠かせない。

スーダンにおけるMSFの活動

現在、MSFはスーダンの10州において、30以上の医療施設で活動および支援を続けている。(ハルツーム州、ジャジーラ州、白ナイル州、青ナイル州、ゲダレフ州、西ダルフール州、北ダルフール州、南ダルフール州、中央ダルフール州、紅海州)。また、カッサラ州でも活動を展開している。

MSFは、スーダン軍(SAF)と「即応支援部隊(RSF)」の双方の支配地域で活動し、外傷治療、妊産婦ケア、小児医療、栄養失調などを提供。また、南スーダンとチャドでも、スーダンからの難民や帰還民への支援を行っている。

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