いまガザ南部で何が起き、何が必要なのか──国境なき医師団の現地担当者が語る3つのポイント
国境なき医師団 / 2024年6月7日 17時7分
イスラエル軍は5月26日、パレスチナ・ガザ地区南部ラファのタル・アル・スルタンにある避難民キャンプを空爆し、少なくとも49人のパレスチナ人を殺害した。その2日後にはラファ西部マワシ地区の避難民のためのキャンプを砲撃し、21人のパレスチナ人が死亡、64人が負傷している。 これらの虐殺は、国際司法裁判所(ICJ)が5月24日、イスラエルに対しラファでの軍事攻撃を「直ちに」停止するよう命じた直後に行われた。ガザで国境なき医師団(MSF)の緊急対応責任者を務めるキャロライン・セギンが、攻撃後のガザの状況について伝える。
Qイスラエルが5月26日に行ったタル・アル・スルタンの避難民キャンプ空爆で、何が起きたのですか?
イスラエル軍は、パレスチナ人の生命を完全に軽視
イスラエルの空爆が行われた場所のすぐそばで、MSFは24時間体制の外傷センターを支援していました。私たちのチームは、爆弾の破片による傷や骨折、重度のやけどを含む180人以上の負傷者を治療しました。
また、外傷センターでは到着した時点ですでに死亡していた28人、あるいは到着直後に負傷が原因で死亡した28人を受け入れていました。チームは夜を徹して患者の容態を安定させ、さらに西のマワシ地区近郊にある医療施設に搬送しました。翌日の夜、この地域で戦闘が激化したのです。MSFは退避を余儀なくされ、ガザの人びとにとって不可欠な医療活動は再び中断されました。
犠牲者の中には女性や子どもたちがいました。人びとは数十人からなる家族とともにテントで寝泊まりし、極めて困難な状況で生活しています。彼らのような民間人が、イスラエルによる人口密集地への爆撃によって、またしても負傷し、殺されているのです。
この攻撃は、イスラエル軍がパレスチナ人の生命を完全に軽視していることを改めて示しました。
空爆が行われた地域は避難民のためのキャンプで、そこにいる人びとはイスラエルから退避要求を受けていません。市民にとって安全な場所はガザのどこにもないのです。
ラファとその周辺に対するイスラエルの攻撃が始まって以来、90万人以上の人びとがラファから避難しています。彼らは何度目かの強制退避を余儀なくされ、今回は地中海沿岸のマワシ、デールバラハ、ハンユニスへと避難しました。
およそ8カ月続く虐殺 誰もが殺される可能性
イスラエル軍は、ガザの住民を安全だと宣言した地域に押し込め続けていますが、実際には人びとは爆撃や戦闘にさらされています。5月16日には、ガザ地区の78%がイスラエル軍から退避を要求されました。ガザに住むパレスチナ人はいま、戦闘に巻き込まれ、狭い地域に押し込められ、安全が保証されないという不可能な状況のなかで、生き延びようとしています。
イスラエルによる大規模かつ無差別な空爆は、パレスチナ難民キャンプであるヌセイラトへの度重なる空爆を含めガザ北部と中央部を壊滅させ続けています。そしていま、ラファへの攻撃によって南部も壊滅状態となっています。
今回の戦闘が始まって以来、3万5000人以上のパレスチナ人が死亡しました。また、少なくともその2倍の数の人びとが負傷し、複雑な外科手術を含む治療を必要としています。
MSFはこの7カ月間、攻撃を受けた9カ所を含む12の医療施設から避難を余儀なくされました。また、私たちの同僚に対して23件の暴力事件(直接攻撃およびイスラエル軍による身柄拘束や拷問)が起きています。 これは8カ月近く続く虐殺です。女性と子どもが主な犠牲者となっています。現在のガザでは、すべての住民が爆弾や銃撃、戦車による砲撃の射程圏内にあり、2023年11月のMSFへの攻撃や2024年4月のワールド・セントラル・キッチン(WCK)スタッフへの攻撃のように、人道支援従事者と明確に示された車両にいたスタッフを含め、誰もが殺される可能性があります。
Q5月6日以降、MSFはガザに物資を搬入できていません。5月26日には、イスラエル軍が管理するケレム・シャローム検問所に、人道援助物資を積んだ約130台の車両の通行が許可されましたが、活動は戦闘によって中断され、約70台のトラックが引き返すことになりました。
このことは、ガザのパレスチナ人にどのような影響がありますか? また、MSFはどのように活動を続けているのでしょうか?
水の供給は危険なレベルに
5月7日のラファ検問所の完全閉鎖から、私たちはガザのさらなる締め付けを目の当たりにしてきました。これはパレスチナ人に対する新たな集団的懲罰です。MSFは医療活動の再編成を余儀なくされたため、患者をラファのインドネシア病院とエミラティ病院からハンユニスのナセル病院に移送し、そこで外傷ややけどの治療と経過観察を行っています。
また、ガザ全域で水の供給は危機的な状況です。燃料不足のため、海水淡水化プラントの稼働状況は落ちています。前の週は40万リットルの水を供給できていたのに、次の週は5万リットルしか供給できないという状況です。一部の市場では、民間企業による輸入食料が入手できますが、ガザのほとんどの人びとには手が届きません。
イスラエルによる人道援助の妨害のために、人びとが命を落としている
イスラエルは人道援助活動の妨害を続けています。援助物資が米国によって建設された「浮き桟橋」や、ケレム・シャローム検問所を通ってガザに入って来る──。そう人びとに信じ込ませるための見せかけと妨害をMSFは目の当たりにしています。
現実には、8カ月近くたったいまでも、患者の治療に必要な医療機器──発電機や給水ポンプ、スキャナー、X線装置、酸素、滅菌装置など──の輸送は、封鎖や妨害によりひどい遅れが生じています。完全封鎖がされていない場合でも、援助は少しずつしか届かず、人びとの膨大なニーズを満たすことはできません。
イスラエル政府が、人道支援活動を意図的に妨害するのをやめれば、MSFはもっと多くの命を守ることができます。
爆撃に加え、イスラエルによる援助妨害のために、人びとは毎日命を落としているのです。
いま、ガザに援助を届ける唯一の方法は、ケレム・シャローム検問所のように最前線ではなく、人道援助に携わる人びとの命が危険にさらされない地域での通過地点を増やすことです。しかし、これは実行可能な解決策ではありません。
住民の膨大なニーズを満たすために、十分な人道援助をガザに届ける必要があります。私たちは援助を届ける手段を持ち、それを妨害されることなく、安全に行わなければいけないのです。戦闘が始まってから、220人以上の人道支援従事者がガザで命を落としています。その事実も忘れてはいけません。
Q国際司法裁判所(ICJ)はイスラエルに対し、パレスチナ人の「物理的破壊」をもたらす可能性のある「ラファにおける軍事攻撃やその他の行動を直ちに停止する」よう命じました。
この判決によって、具体的に何が変わるのでしょうか?
ガザの民間インフラは意図的に破壊されている
空爆を受け、戦闘に巻き込まれているパレスチナ人にとって、ICJの判決は彼らの日常生活を根本的に変えるものではありません。裁判所が命じた措置には法的拘束力があるものの、執行する手段はありません。
1月26日、ICJはイスラエルに対し、大量虐殺行為を防止・処罰し、ガザの人びとに基本的なサービスや援助が行き届くようにすることを命じる暫定措置を出しました。ICJの判決は、イスラエルへの圧力とメディア報道という両方の意味で、イスラエルによる民間インフラ破壊の組織的かつ顕在的な性質を浮き彫りにしました。
MSFがここ数カ月で記録してきた病院への攻撃をはじめ、学校やモスク、大学、道路、農地など、ガザにおけるさまざまな施設が、意図的かつ計画的に破壊されています。ガザの社会基盤全体が、壊されているのです。
各国はイスラエルの軍事作戦の支持を止めよ
ガザ北部の病院は、アル・アウダ病院やカマル・アドワン病院のように、攻撃の標的となり続け、大規模な被害を受けています。ラファでは空爆によりクウェート病院のスタッフ2人が死亡したため、完全に稼働する病院はなくなりました。
戦闘が始まってから、病院、救急車、医療従事者、患者を含む医療体制は、イスラエル軍による意図的かつ組織的な攻撃対象となっています。また現在、イスラエルはガザで治療できない患者、特に子どもの受け入れを拒否しており、イスラエルが国境を掌握して以来、エジプトへの医療目的の避難は不可能となっています。
ガザにおけるあらゆる生命の源を破壊する政策を、イスラエルに直ちに中止させることが、極めて重要であり緊急に求められます。
停戦を求める国連安保理決議に組織的に反対している米国は、イスラエルと同盟を結んでいる英国や欧州諸国と同様に、この破壊政策に加担し、それを煽っています。
これらの国々は、市民の命を守り、パレスチナ人の大量虐殺を防ぐために、イスラエルの軍事作戦を支持することを止めなければなりません。
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