あなたの大切なものは何ですか?──命がけで海を渡った人びとの、いちばん大切なもの
国境なき医師団 / 2024年6月13日 17時18分
世界で最も過酷な移民ルートとされる地中海。中東やアフリカでの戦争や迫害、貧困から逃れようと毎年、大勢の人びとが欧州をめざし横断を試みます。しかし、小さなボートに大勢が乗る危険な渡航により、人びとが海上で命を落とすケースが後を絶ちません。国境なき医師団(MSF)はこのような人びとの命を守るため、捜索救助船「ジオ・バレンツ号」で救命活動を行っています。
保護と安全を求めて故郷を後にし、すべてを置き去りにした人びとが、携えてきた大切なものとは何か──。ジオ・バレンツ号の船上で尋ねてみました。生存した人びとが語るエピソードから浮かび上がってきたもの。それは一人一人のかけがえのない人生です。
もし、人生で最も危険な旅に出かけることになったら──あなたは何を持っていきますか?
思い出は、いつも心の中に
夫、子ども、きょうだい、親友などの写真です。そして、大学の学生証に使っていた写真も。中でも一番大切なのは、亡くなった父の写真です。 写真はすべて、思い出を失わないために持ち歩いています。
シリアの内戦で、私たちは皆、離れ離れになりました。ノルウェーに行った友人もいれば、オランダに行った友人もいます。国内でダマスカスにとどまった人もいました。私はコバニへと行きました。大学を辞め、近所の人びとや友人、育った場所を離れなければなりませんでした。
内戦で私たちは散り散りになり、もう何年も会っていません。それでも、写真とともに、彼らの思い出は私の心の中に残っています。
ディルバさん、30歳、シリア出身
今年2月5日、ディルバさんは過密状態の木造船で地中海を横断しようとしていた際に、他の約130人とともにMSFに救助されました。
母から渡された、旅の「相棒」
この帽子は私にとってとても大切なものです。伝統的なものではないけれど、それでも美しいでしょう? 2年前にシリアを離れてからずっと持っています。母から渡されたもので、ずっと持っているようにと言われました。
この帽子は私の旅の相棒でした。拘束されているときでさえね。リビアで拘束されていたときは、この帽子で目を覆って、眠りました。そうすれば、人びとがどれほどひどい状況に置かれているかを目にしなくてすんだから。
もしこの帽子を失くしてしまっても、他の帽子では代わりにはならないでしょう。
モハマドさん、33歳、シリア出身
モハマドさんも、今年2月5日に地中海中部で木造船で漂流しているところをMSFに救助された一人です。
初めて恋に落ちたときの…
夫のモアタズと私が出会ったのはずいぶん前のこと。初めて恋に落ちたとき、彼がこの時計をプレゼントしてくれました。その後、私たちは結婚しました。それ以来、私はこの時計を身につけない日はありません。 リビアに行ったときも、失くしたり盗まれたりするのを恐れながらも、この時計を持っていました。この時計は彼の私への愛を象徴しているから。 寝ているときも、洗濯をしているときも、何をしているときも、この時計を身に着けています。だって、この時計は私と彼を強く、結びつけてくれるものだから。
マドリッドさん、28歳、シリア出身
今年2月5日、マドリッドさんは夫、息子、義理の母とともに、欧州を目指し、リビアから木造船に乗り込みました。その約15時間後、4人は他の約130人とともに、地中海中部でMSFに救助されました。
希望をくれる、ガールフレンドからの贈りもの
苦しくてあきらめそうなとき、あるいは心が折れてしまいそうなとき、この小さなアイテムが私に希望を与えてくれました。これを見ると思い出すのです。なぜ私が、自分とシリアで私を待っているガールフレンドのため、より良い未来を求めて、地中海を渡ろうと決心したかを──。 ここには、たくさんの思い出がつまっていて、特別な意味が込められています。壊れてしまわないように、国境を越え、持ち運ぶのは大変でした。砂漠を横断するときも、谷を歩くときも、いつでも抱えていました。持っている服を手放す準備はできていたけれど、これだけは失いたくなかった。 暑さと湿気のせいで木製の部分が傷んでしまったけれど、修理するつもりです。この木製の飾りとノートは、詩や文学を書くのが好きな私のために、ガールフレンドがくれたものなのです。
アメールさん、31歳、シリア出身
アメールさんと弟のハリルさん(26歳)は、2021年までシリアのダマスカスに住んでいましたが、地中海を渡ろうと決意しリビアに向かいました。2人は2023年11月30日、遭難したグラスファイバー製のボートからMSFに救助されました。
※本人の希望により仮名を使用
私と祖母を結びつけてくれるもの
祖母が用意してくれた伝統的なハーブや植物(ラベンダー、セロリ、クローブ、スプラウト)が入っている袋が、私の大切なもの。モロッコでは髪や肌のお手入れに使い、中には消化を助けるものもあります。
これ以外に、私と家族──特に祖母を結びつけるものは何も残っていません。地中海を渡る船に乗っているとき、書類を失くすことは気にしませんでしたが、この袋だけは失くしたくありませんでした。
ハディージャさん、35歳、モロッコ出身で以前はリビア在住
ハディージャさんは以前、リビアの結婚式場でウェイトレスとして働いていました。彼女は最初の夫と両親をリビアでの爆撃で失っています。その後、いくつかの暴力的な事件を経て、彼女はリビアから出国することを決意。ハディージャさんと2番目の夫、そして娘たちは、2023年7月に初めて地中海を渡ろうとしましたが、リビアの沿岸警備隊に阻止され、収容施設に拘束されました。 再び出国を試みたハディージャさんとその家族は、2023年11月30日、遭難したグラスファイバー製のボートからMSFに救出されました。
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