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国境なき医師団が結核治療法の臨床試験費を公表 公平な医療アクセスを実現するため研究開発費の透明性を訴え

国境なき医師団 / 2024年6月18日 17時11分

結核の臨床試験「TB-PRACTECAL」のレジメン(治療計画)を待つ女性=2018年8月5日 © Oliver Petrie/MSF

国境なき医師団(MSF)は、2024年4月25日にスイス・ジュネーブで開催された「第5回世界保健機関(WHO)医薬品価格・償還政策会議」において、結核の薬剤耐性に関する臨床試験「TB-PRACTECAL」*の費用総額が3400万ユーロ(約58億円)だったと発表した**。 「TB-PRACTECAL」は、経口薬だけで完結する薬剤耐性結核(DR-TB)短期治療レジメン(治療計画)の発見に貢献した、画期的な臨床試験だ。 臨床試験費は、検査・診断製品や治療法の開発費全体の中で、最も大きな部分を占めることが多い。一方で、実際の費用は公表されず、生物医学研究開発費に関する詳細なデータも公開されていない。

現在、新薬開発における研究費の推定総額は4340万米ドル(4000万ユーロ、約67億円)*** から42億米ドル (39億ユーロ、約6558億円)という巨額に及ぶ。また、医薬品の第II相と第III相臨床試験費は、推定500万~1億4200万米ドル(470万~1億3300万ユーロ、約7億8000万~222億円)となっている。

特定の臨床試験費における明細が公開されるのは今回が初めてであり、医薬品開発をめぐる透明性の低さを覆し、巨額の研究開発費を回収するには医薬品を高価にする必要があるという主張に異論を唱えるものである。

このMSFの発表は、生物医学研究開発費の透明性を高めるための意義ある第一歩であり、より公平な研究開発モデルを形成し、救命治療を緊急に必要とする世界の人びとのアクセス改善に寄与することが期待できる。

臨床試験費を「見える化」するツールキットを開発

MSFはこの分析に基づき、臨床試験費の報告ツールキット「Transparency CORE」を開発した。関係する全ての公的機関と非営利団体に対し、臨床試験費を公表し、標準化された費用報告を義務付ける国際政策の策定を支援するよう要請する。

「私たちは、より良い薬剤耐性結核のレジメンを見つけるために、臨床試験費を公開しました」とMSFの医療ディレクターであり、TB-PRACTECAL臨床試験の責任者でもあるバーントーマス・ニャングワ医師は語る。

「この発表をきっかけに、他の公的機関や非営利団体も、臨床試験費の公表と研究開発費の透明性確保の流れに加わってくれることを願っています。臨床試験の依頼者や実施者に、MSFの『Transparency CORE toolkit』を試していただき、費用データの公表を促進するための手引きとして発展させることができればうれしく思います」

研究開発における支出の透明性はほとんど達成されていませんが、この臨床試験費の公開は、医療技術の開発にかかる実際の費用を明らかにし、また、高価であることを理由に医薬品や検査用品の利用を妨げられない未来を築くための一歩です。

価格設定の政策を策定したり、研究開発に資金を提供する革新的な方法を知るためには、臨床試験費の「見える化」が欠かせない。

医療用品の価格設定にまつわる言説や政策の説明は、「これまでの高い研究開発費を回収し、かつ、これからの技術革新を維持するためには、医薬品を高価に設定する必要がある」という、製薬業界の長年の主張を反映したものだ。 しかし、調査によれば、薬価が高いことと製薬業界の研究開発費との間に関連性はない。にもかかわらず、製薬業界が公表する研究開発費の推定額は、医療用品に関する政策や価格設定の議論に依然として利用されている。

研究開発費の透明性を高めれば、薬価は大幅に下がる

一方で、製薬業界以外のアナリストが、公共部門や慈善部門からの多額の資金援助など、研究開発費に関する多角的なデータにアクセスできるようになるにつれ、その情報は価格設定の議論に反映され、薬価引き下げを求める世界的な活動に拍車をかけてきた。
結核治療薬「ベダキリン」は、TB-PRACTECALレジメンを含めた全てのDR-TBレジメンの中核を成す重要な医薬品であるにもかかわらず、法外な価格のために10年以上も患者に届かないままだった。

学術調査で明らかになった、ベダキリンの研究開発への公的投資は、民間投資の5倍にも上る。この事実は、極めて重要な情報となり、結果的に、ベダキリンの価格は大幅に引き下げられた。 MSFのアクセス・キャンペーンの政策顧問であるロズ・スコースは「べダキリンの大幅な値下げを求めた世界的な運動は、研究開発費の透明性が治療薬・検査用品などの医療技術の利用を増やし、より多くの命を救うことにつながることを証明したのです」と語る。 「『巨額の研究開発費を回収するには、医薬品の価格を高く設定しなければならない』という、根拠のがないのに力を持つ主張は、もはやエビデンスなしには語れません。この情報は、医療用品の価格と誰が入手できるかを決定する、政策パズルの重要なピースなのです」

私たちは、この主張に異議を唱え、詳細な臨床試験費の公表は可能で、かつ必要不可欠であることを示しました。MSFは、臨床試験、さらに広く言えば研究開発における資金援助および実施に携わる全ての関係者に対し、その費用を公表するよう求めます。

「そうすることで、各国政府、政策立案者、研究者、アクティビスト、影響を受けるコミュニティが、価格設定の政策を議論するために必要な、エビデンスに基づく重要情報を手に入れ、研究開発の取り組みを公平な医療アクセスの実現につなげていけるのです」

公平な医療アクセスの実現には、情報開示の義務付けが急務

臨床試験費に関する詳細なデータは、革新的な研究開発インセンティブや資金調達メカニズムなど、将来の研究開発イニシアチブの制度設計をする際に、より的確な情報源となる。特に、結核、抗菌薬耐性、パンデミック(世界的大流行)を引き起す可能性のある病原体など、収益性の高い市場が存在せず、商業的関心が低い分野への影響は大きい。

また、臨床試験費の詳細は、試験の予算編成や財務計画にも役立つ。とりわけ、非営利または公的資金によって開発された薬剤や、高所得国以外で臨床試験を行う場合には欠かせない。TB-PRACTECAL臨床試験が計画されたとき、このようなデータの欠如が課題となった。

「今年の世界保健総会で、透明性改善決議の採択から5年目を迎えます」とスコースは言う。

今こそ、公的資金を受けた研究開発はもちろん、臨床試験費を含む研究開発費の内訳開示を義務付ける法律の制定に向けた緊急措置が、全ての政府に求められているのです。

*MSFはTB-PRACTECAL第II相と第III相 ランダム化比較試験を主導し、2022年にDR-TBに対する新しい治療レジメンを特定。この画期的な試験を受けて、WHOはリファンピシン耐性結核の治療法として、べダキリン、プレトマニド、リネゾリド、モキシフロキサシン(BPaLM)の6カ月間の経口投与レジメンを推奨するに至った。既に40カ国がこのレジメンを採用している。 **費用は合計3390万ユーロであった。WHOのPPRI会議では概略的な結果が発表されたが、臨床試験の詳細な費用については、専門誌の査読を経て論文として出版された。論文では、高い透明性を提供するために、費用を27の勘定科目に分類し、年ごと、臨床試験実施場所別に掲載している。 ***2024年4月22日時点の換算レートに基づく。

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