ウクライナ:ダム決壊から1年 洪水被害を受けた村は今
国境なき医師団 / 2024年6月21日 12時5分
2023年6月6日、ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムが破壊され、大規模な洪水が発生した。多くの住民が被害を受け、国境なき医師団(MSF)は飲用水の提供や移動診療を行ってきた。それから1年。被害を受けた地域は今──。スタッフと住民の声を伝える。
ボートで医薬品を運ぶ
国連によると、この決壊で少なくとも15人が死亡、80の集落が浸水し、3万7000以上の家屋が損壊、100万人分の給水システムが破壊された。
ダム決壊から3~4日の間に、18立方キロメートルの水がドニプロ川に流れ込み、支流を含め川の水位が大幅に上昇した。MSFの移動診療で医師として働いていたウラジスラフ・ブツキー(現・医療活動マネジャー)は当時をこう振り返る。
朝、私たちはいつものように活動に向かいましたが、ダムの決壊で増水し、その日の終わりには、橋で川を渡ることができなくなったのです。
「あらゆる井戸があふれ、飲み水が不足しました。渡れなくなった対岸では、唯一の医療援助団体であるMSFの助けが必要とされていました」 翌日、MSFは大量の水と保存容器を用意し、住民への配布を開始。しかし、川の対岸に渡るのは非常に難しいことが分かった。
そこで、MSFはボランティアの協力を求めた。MSFは水や医薬品を詰めたキットを持ち込み、住民がこれらすべてをボートで対岸へ運んだ。
村の医師から、血糖値が急に高くなった女性患者がいると連絡を受けました。そこで、必要なものすべてを対岸の村からボートで運んだのです。
MSFはその後住民の協力で、浸水していない一本の橋を発見。対岸の患者を診察し続けることができた。
1年後の村
ダム決壊の影響を受けたミコライウ州の村で今、MSFの移動診療チームが診察を行っている。廊下には住民の列ができており、そのほとんどが高齢の女性だ。ヘルスプロモーターが、彼女たちにお茶を勧めながら、心血管疾患の予防法を伝えている。
血圧の検査や薬の処方を受けた女性は、1年前の出来事を思い出して涙を流した。「そこの下の通りも川岸も浸水しました。住んでいた人たちはその地域を離れて、高台に移りました」
MSFの医師は「この村はかつてロシア軍の占領下にあり、一部が水没しました。住民は病気になっても質の高い医療を受けることができません」と話した。
村で唯一の看護師
カホフカ水力発電所ダムの破壊は、戦闘の影響を受けているウクライナ南部の医療システムに大きな影響を与えている。破壊された病院、医療スタッフの不足、連日の砲撃──。それが、ヘルソンとミコライウの医療従事者が日々直面している現実だ。
保健省の看護師であるオルハ・バレニクさんは村の医療事情についてこう話す。
「今、ここには200人強の住民が残っています。ロシア軍の占領中、施設は破壊され、略奪されました。当初、私は自宅で診察を行っていたのですがが、最近になって庭に簡易的な設備を置いて、そこで診察できるようになりました。さらに、MSFの移動診療が定期的に村を訪れて、診察を行っています」
彼女は、ひとりで仕事をするのは簡単なことではないと認めながらも、ここを離れたくないという。
ここは私が育った場所です。私は困っている人を助けます。皆仲間ですから。
MSFは、紛争の最前線近くで活動を続けている。ミコライウ、ハルキウ、ドネツク地方において移動診療を展開し、住民に医療サービスと医薬品を提供している。また、救急車で患者を病院に搬送する活動も行っている。さらに、医療物資を提供を通して最前線の病院を支援している。
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