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イエメンの人びとを襲う「死に至る下痢」──熱が下がらず意識を失う子どもたち

国境なき医師団 / 2024年6月24日 17時10分

急性水様性下痢症にかかった現地の子ども © Athmar Mohammed/MSF

アラビア半島の南端に位置するイエメン──その南西部に、タイズという都市がある。国境なき医師団(MSF)は、この地で産科や小児科を専門とする母子病院を運営してきた。その中には、急性水様性下痢症を治療するセンターもある。
ある日、シーラさんという女性が、娘のアシーラさんを連れて、2時間かけてMSF病院に駆け込んできた。アシーラさんは、4日間ものあいだ、下痢と嘔吐を繰り返しているというのだ。 「病院までのバス代を捻出するために、借金をしてしまいました。夫は働いていませんし、ほかに収入もありません。毎日の食事のために、よその村に行って、小麦粉や米を分けてもらっているのです」とシーラさんは語る。 イエメン保健当局によると、イエメン22県のうち20県において、急性水様性下痢症が急増しているという。5月31日時点において、6万3000人以上の患者数が報告されている。

また、限られた検査体制の中、コレラについて陽性と確認されたケースも2700件以上に上っている。 MSFチームは、そのうち8つの県で対応に入っている。患者の治療だけでなく、医療/非医療スタッフへの研修、医療物資の供給、健康推進活動にも当たってきた。

子を2人亡くした母親 「病院はあっても治療費が払えない」

同じタイズ県内にある港町モカ──ここでも、MSFは治療センターを運営している。そこに搬送されてきたのが、1歳半になるアマットちゃんだ。

彼女は、たびたび意識を失う症状にあった。熱も下がらず、下痢もおさまらない。そこで、母親は、まず2つの診療所に彼女を連れて行った。

しかし、いずれにおいても誤診され、誤った治療に終わっていたのだ。 アマットちゃんの母親が、次のように話す。
「私の村は、モカから3時間の距離にあります。近所に診療所はありますが、治療費が高額で、とても払い続ける余裕はありません。実はすでに、子どもを2人亡くしているんです。1人は高熱が原因でした」

診療所に連れて行きましたが、命を救えなかった。今回も同じことが起こるんじゃないか──それが心配なんです。

この急性水様性下痢症 は、数年前からイエメンでよく起きている病気だ。最近は、さらに患者数が急増しており、医療アクセスが困難な人びとにとっては、生命の危険に関わる状況である。

「急性水様性下痢症は治療できる」 しかし──

タイズ県の隣にイッブ県という地域がある。ここにもMSFの支援する病院があり、その中には下痢治療センターも設置されている。

そこに来院してきたのがオサマさんだ。彼は重い脱水症状に苦しんでおり、子どもたちを家に残して医療を求めに来た。 「ここまでたどり着くのに1時間半かかりました。厳しい道のりでしたよ。私の地元には私立病院があるのですが、基礎的な治療を受けるのにも経済的負担が重いのです」とオサマさんは語る。 イエメン北西部にあるハッジャ県アブスにも、MSFが支援する総合病院がある。今回、MSFは、その病院から5分の距離にある学校に、60床のベッドを備える下痢治療センターを開設した。 「今回、私たちが設置した下痢治療センターは、この広大なアブス一帯において、急性水様性下痢症の治療を担っている唯一の施設です」とアブスで活動するMSF医療チームリーダーのエバンゲリーナ・ラックスマン医師は言う。

急性水様性下痢症は治療できる病気です。しかし、何らかの病気を併発している患者や妊娠している女性にとってはリスクが高い。

「妊婦に関しては、胎児死亡率を高める要因にもなります」 しかも、MSFが支援している地域の中には、雨季の始まっているところが多い。汚染された水源から水系感染症にかかる人びとがさらに増えるものと考えられる。

こうした事態に対して、多くの国際団体は、資金不足の上にリソースが限られている関係から、対応が後手に回りがちである。

MSFは、急性水様性下痢症やコレラ──適切な治療がなければ短時間で死に至る病──の治療に当たっている数少ない団体の1つとなっている。

患者はさらに増え続ける 予防に向けた対策が急務

イエメン南西部の港湾都市アデン──ここでも、MSFは、保健当局と協力して、市内唯一となるコレラ治療センターを運営している。

このセンターは、MSFが支援するアル・サダカ病院の中にあり、70床のベッドを備えている。現在、当センターはフル稼働の状況にあり、しかも患者数はさらに増える一方だ。 こうした状況について、MSFのイエメン活動責任者フェデリカ・フランコは、次のように語る。
「患者数は増加し続けており、さらなる対策が必要になっています。特に、私たちMSFが訴えているのは、予防措置の重要性です。具体的には、安全な水の供給、衛生設備の整備、衛生習慣の確立、健康推進活動などが挙げられます」 4月から5月にかけて、MSFはイエメン各地で1万500人以上の患者を治療した。 そういったMSFが対応している多くの地域において、患者数が治療可能規模を上回る可能性がある。その場合、MSFとしては、医療スタッフ、パラメディカル(医師以外の医療従事者)、ロジスティックスタッフなどを増員し、研修体制も整えなければならない。 感染者数が多い県においても、水・衛生活動は十分な規模となっていない。さらには、地域レベルにおけるアウトリーチ活動(医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動)も実施されていないため、衛生習慣を啓発していくことも、患者を早期発見していくことも難しい。

こうした状況下において、今後数カ月間わたって、急性水様性下痢症の患者の増大が波状的に続いていくものと予想されている。

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