戦闘の続くミャンマー・ラカイン州──国境なき医師団の医療活動にも深刻な影響
国境なき医師団 / 2024年7月18日 17時18分
ミャンマー国軍とアラカン軍の間で激しい戦闘が続く、ミャンマー西部ラカイン州。国境なき医師団(MSF)は2024年6月、紛争の激化と同州北部のブティドンにあるMSFの事務所が全焼したことを受け、ラカイン州北部での医療・人道活動の無期限停止を余儀なくされた。 MSFは同州中央部のいくつかの地域で最低限の活動を維持しているものの、深刻なアクセス制限や暴力の影響にさらされている。
患者にたどり着けない
紛争が再燃した2023年11月以降、MSFはアクセスの面で大きな困難に直面していた。患者にたどり着くことができないのだ。8カ月もの間、MSFはラカイン州内で移動診療を運営する許可を得ることができず、その中には、MSFが唯一の医療提供者となっているパウトー郡の国内避難民キャンプも含まれていた。 これらのキャンプにはボートでしか行くことができない。しかし、紛争の激化に伴い移動が難しくなり、緊急治療を必要とする患者が州都シットウェの病院にたどり着くことも不可能となった。これは慢性的な健康問題を抱える人や救急医療が必要な人、母体や乳児にとってリスクの高い妊娠をしている患者にとって大きな問題となっている。 6月、MSFはシットウェのアウン・ミンガラー地区で、移動診療を1カ月間再開する許可を得た。ここでは主にロヒンギャの人びとを対象に医療活動を行っているが、深刻な物資不足の影響もあり、規模を縮小しながら活動を続けている。しかし、パウトーやほかの郡のMSFの診療所はいまもアクセスが断たれたままだ。
移動制限はMSFだけでなく、救命・支援活動や医療活動を行う他の組織や機関にも影響を及ぼしている。
また、MSFはパウトーのキャンプに医薬品を送る許可を与えられていない。現地で活動するMSFのスタッフは、医療サービスの提供をなんとか続けようとしているが、医薬品が減少し、医療スタッフも患者のもとに向かうことができない中では、人びとに基礎医療を提供することは難しい。
緊急搬送にも制限が
2023年11月以前は、MSFが支援するキャンプや村の人びとが二次医療を必要とする場合、MSFは患者を車やボートで病院まで搬送する緊急紹介を行っていた。しかし、当局による移動制限のため、このような活動も不可能となり、人びとは専門的な医療を受ける選択肢を失っている。
個人で病院に行こうとする人びとにも困難がつきまとう。パウトーの患者が海路でシットウェに向かうことは事実上、不可能だ。他の郡で受けられる医療も限られているうえ、どこも同じように紛争の影響を受けており、より長い旅路を強いられることが多い。
医療を受けに行く途中で命を落とす人もいる。あるいは、法外な費用と移動の難しさのために、その旅を試みることさえできずに命を落とす人も──。その結果として、MSFは妊産婦と新生児の死亡について、憂慮すべき傾向を目の当たりにしてきた。1月には、母親とその双子の子どもたち、そして自宅分娩を余儀なくされたために赤ちゃんを亡くした2人の母親の死亡が報告されている。また6月にも、4月から妊婦健診を受けられなくなった母親の死亡が報告された。
公的医療機関も機能せず
紛争が再び始まってから、安全と治安の理由により、多くの医療従事者が公的な医療施設の職を離れた。中には完全閉鎖を余儀なくされた施設もあり、現在も稼働を続けている施設は、スタッフや医薬品、燃料の不足に直面している。ラカインでは電力が供給されていないため、医療施設は発電機に頼っている。しかし、発電機を動かすための燃料は入手が容易ではなく、それが医療活動にも影響を及ぼしている。
遠隔診療が唯一のつながりに
MSFの医療チー ムは、患者と連絡をとるため、電話やテキスト・メッセージで診察を行っている。しかし、多くの地域で電話が断続的にしか通じないため、この方法にも課題が残る。患者やコミュニティで活動するボランティアスタッフは、電波を得るために、長距離を歩いたり、丘を登ったりしなければならないことが多い。
それでも、「テレコンサルテーション(遠隔診療)は、コミュニティとMSFとの間に残された唯一のつながりで、大きな意味があります」と、退任する医療チームリーダーのキャロライン・ド・クレイマーは話し、次のように続けた。
「看護師やヘルスプロモーター、医師に連絡を取ることができれば、それは患者にとってある種のメンタルヘルスのサポートになります。人びとは、『自分たちは忘れられていない』と感じることができるから。そしてそれは、MSFがまだ存在しており、頼りにすることができると感じてもらう、唯一の方法なのです」
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