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紛争下のスーダンで病院を再開するための5つのアクション

国境なき医師団 / 2024年8月23日 19時34分

壁に大きな穴が開いた、スーダン・南ダルフール州のニヤラ教育病院 © Jennifer Hulse/MSF

国軍と準軍事組織による武力衝突が1年以上にわたって続いているスーダン。南ダルフール州の州都ニヤラでは、病院が大きな被害を受け、機能停止状態に陥った。 しかし、医療ニーズは高まる一方だ。「なんとかして医療を取り戻さなければならない──」。住民の生命線である病院の再開に取り組んだジェニファー・ハルス医師が、現地での経験を語る。

1. 素早く動く──人も設備も足りない中で

昨年4月に内戦が始まる前は、専門医療を受けるために、地域のいたるところから多くの患者がニヤラ教育病院に来ていました。しかし病院は紛争で被害を受け、MSFのロジスティック・チームが発電機や水道、衛生設備といったインフラ復旧に懸命に取り組んできました。

足りないのはインフラだけではありません。暴力のピーク時には、家族を安全な場所に避難させるため、多くの人が市外に出ていきました。病院に残ったスタッフのほとんどは若手医師と看護スタッフで、少ない人数で困難に直面しながらも、診療をなんとか続けようとしてきました。この状況下で、可能な限り効果的なケアを行えるようサポートするのが私の役目でした。

病院内の全部門が助けを必要としていた一方で、使えるリソースは限られていたため、私たちは命を救う可能性が最も高い小児科、産科、救急医療に集中しなければなりませんでした。

2. 物資を運ぶためには砂漠も越えて

ダルフール地方にある病院の多くは略奪され、人道援助は全く足りず、必要な医療物資を新たに確保することは不可能に近い状態でした。

そのため、病院スタッフがニヤラの薬局を回って、緊急帝王切開のための脊髄針など、基礎的な品目がないか探していました。見つかった頃には残りが少なくなっていたために、紛争前の5倍に値上がりしているものもあったそうです。

隣国チャドの砂漠を通る長く困難なルートがあります。道路というより砂についたわだちの跡ですが、物資調達のチームはここから運ぼうと決意していました。そして私の活動が終わる直前にようやく、必須物資を満載したトラックが到着したのです。

3. 酸素を止めるな!

重症患者の多くにとって、医療用酸素は最も重要なものの一つです。しかしある日、病院で酸素を生産する場所が壊れてしまったのです。酸素がなければ命を落としてしまう人が何人もいるのに──。

内戦で携帯電話のネットワークがダウンしていたため、修理を依頼する手段もありません。私たちは病院内を走り回って、いま酸素吸入をしている患者は何人いて、どの患者の酸素吸入量を減らしても大丈夫か、酸素が完全になくなるまでどれくらいかかるか計算しました。

一方、ロジスティック・チームは、システムを修理できるエンジニアを街中で探しました。患者にとっての刻限が迫るなか、スタッフはついにエンジニアを見つけたのです。さらには代わりの部品も調達し、酸素が必要な患者が無事に酸素吸入を続けられるようになりました。

4. 電気がなくても冷やし続ける

命をつなぐ輸血において、ニヤラでは病院の血液バンクが頼りでした。産後出血の女性や、危険なレベルの貧血(マラリアの合併症や食料不足によるものが多い)、そしてもちろん、負傷後に救急処置室に運ばれてきた人たちの治療に使うためです。

ただ、一つ問題がありました。安全に保管するためには、血液製剤を一定の温度以下に保たなければなりません。ニヤラの病院に電気を供給していた発電機は内戦で破損していました。あるものは銃弾を浴びせられ、あるものは部品が盗まれたといった具合に。発電機の一つは修理に成功しましたが、病院全体に24時間電力を供給するには足りません。このため、血液製剤用冷蔵庫はずっと電源をオンにしておくことはできませんでした。

2台の強力な新しい発電機があれば別ですが、調達には時間がかかる上に、そこまでもたない患者さんが多いのです。幸い、MSFのチームはあらゆる環境で働くことに慣れており、使えるアイデアやツールはたくさんあります。

ある日、一台のトラックが病院にやってきました。新しい発電機は乗っていませんでしたが、新型冷蔵庫が届いたのです。電気がなくても12時間は冷たさを保てるように設計された、断熱性の高いものでした。つまり、発電機が停止している間も血液バンクは一晩中安全になるのです。

5. ワクチンを守る

冷やす必要があるのは血液製剤だけではありません。ワクチンも大切です。しかし、内戦のあおりを受けて1年余りもワクチンが届いていませんでした。感染力が強く、幼児にとって危険な「はしか」の患者が出始めていました。多くの人びとが窮屈な避難民キャンプで暮らしているため、壊滅的な大流行が予想されていました。

ただ、ワクチンは安定した温度を保つ必要があります。それを、砂漠の暑さの中をトラックで運ばなければならないのです。

ワクチンがいつ届くかは1日前になるまで分かりません。明日着くということが分かったら大急ぎで、ワクチンを冷やせるよう準備します。冷蔵庫1台では全く足りません。私たちは、野菜用に使われていた市場の冷蔵室を見つけ、ロジスティック・チームは24時間発電機を動かすための燃料を調達しました。

トラックで運ばれてきたワクチンは、断熱材入りクーラーボックスに入っていました。ボックスは内側に温度監視タグがつけてあります。運搬の後もワクチンは無事だったか確かめると、大丈夫でした。きちんと低温管理が行き届いたのです。そして私たちは保健省と連携して、免疫のない子ども全員を守るために1週間以内に使い切れるように予防接種を行うことができました。

医師 ジェニファー・ハルス

スーダン内戦は世界最大の人道危機の一つです。何千人もの人びとが死傷し、暴力から逃れるために1200万人以上の人びとが家を追われました。経済と医療制度は崩壊し、生活必需品すら買えない人が大勢いるのです。この危機について、一人でも多くの方に知ってほしいと思います。

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