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閉じ込められ、忘れ去られたロヒンギャの人びと 安息の地はどこに──

国境なき医師団 / 2024年9月11日 11時37分

バングラデシュ・コックスバザールにあるロヒンギャの人びとのキャンプ。100万人以上が暮らす世界最大の難民キャンプだ=2024年1月8日 © Jan Bohm/MSF

2017年8月25日、ミャンマーでイスラム系少数民族ロヒンギャの人びとに国軍が武力弾圧を始め、70万人以上が隣国バングラデシュに逃れてから7年。ロヒンギャの人びとは絶え間ない暴力にさらされてきた。

2023年11月には、ミャンマー西部にあるラカイン州北部で、国軍とアラカン軍の紛争が始まった。重火器の使用、ドローンによる空爆、放火攻撃などの過激な暴力は、村全体を破壊し、民間人を殺傷し、避難せざるを得ない状況に追い込んでいる。

さらに、紛争当事者はいずれも民間人を強制的に徴用し、複数の地域で民族間の緊張が高まっている。

紛争の激化によってラカイン州が荒廃していく中、ロヒンギャの人びとはますます窮地に追い込まれている。国境を越えてバングラデシュに入ろうにも、その費用を出せない人びとは、保護も援助も受けられないまま放置されている。

各地で勃発する衝突 巻き込まれる民間の人びと

今年5月17日と18日には、ラカイン州ブティドンで民家や財産が焼き払われ、他の地域から避難してきた人びとも含めて、何千人ものロヒンギャの人びとが逃げ出した。 「爆発音、銃声、人びとの叫び声が聞こえたので、混乱の中、家族と私は安全を求めて近くの丘に逃げました」と、当時ブティドンに住んでいたロヒンギャの青年ルフルさんは話す。 「両親とはぐれてしまい、飢えと恐怖におびえながら、いとこや他の若者とジャングルに数日間、隠れていました」

その時、私は地雷を2つ、踏んでしまったのです。1つ目では無傷でしたが、2つ目の爆発で足を吹き飛ばされました。

ルフルさんは国境を越えてバングラデシュに入り、コックスバザールにある国境なき医師団(MSF)の病院にたどり着いた。それまでの9日間、ルフルさんは治療を受けることができなかった。

モジブラーさんもまた、同じ日にブティドンから避難してきたロヒンギャの男性だ。 「迫撃砲の弾が我が家に当たり、妻の命を奪ったほか、数人がケガをしました。それで、バングラデシュに向かうという悲痛な決断を下したのです」

家、家畜、作物を置き去りにするのは、信じられないほどの苦痛でした。

ブティドンの西20キロメートルに位置するマウンドーでは、今年5月に紛争当事者間の過激な衝突が急増し、8月から再び激化している。その特徴は、ロヒンギャの集団に対する武力攻撃であり、その中にはブティドンの襲撃事件を生き延びた人もいた。

8月5日から17日にかけて、MSFはバングラデシュのコックスバザール・キャンプで、暴力によってケガをしたロヒンギャ患者83人を治療。その48%は女性と子どもだった。この83人はマウンドーと国境線通過の間に受けた襲撃から逃れて来たと話している。

MSFの施設に着いた患者は、銃で撃たれた、地雷で負傷して身体が不自由になった、HIVや結核といった命の危機となる病気に使う薬を切らした、などの理由で重体となっている。これらの医薬品は、ラカインではもう手に入らない。

ナフ川を渡ることも含め、人びとは国境越えの旅は危険だと語る。国境は公式に閉鎖されているため、国境を越えるには当局や武装集団、密入国者に多額の賄賂を支払わざるを得ない。

「旅のあらゆる局面で試練に見舞われました」とモジブラーさんは話す。 「危険な船旅では、法外な料金を要求する密入国仲介業者に遭遇しました。そして、バングラデシュに到着したら、待っていたのは国境警備隊の敵意です。孫の応急処置も含めて助けを求めたにもかかわらず、ミャンマーに押し戻されてしまいました」 ラカイン州北部において、医療へのアクセスはほぼ存在していない。医療施設も稼働していない。戦闘による被害、医療スタッフの避難、紛争地の力関係、必要な物資の移動許可を得られず在庫が尽きた、などが主な理由だ。

繰り返される民間・医療への攻撃

6月、MSFはブティドン、マウンドー、ラテドンの3カ所で、事務所と医療倉庫を焼かれ、医療・人道援助の無期限の中断を余儀なくされた。

この活動停止の前から、MSFは市場や村落のような人口の多い民間地域への攻撃、そして、医療施設に対する攻撃を目撃していた。これらは、患者や医療従事者の生命を脅かす行為である。

紛争当事者が民間人を保護し、国際人道法の義務を守るためにとった努力は、あったとしてもごくわずかだ。

この人命軽視がもたらす犠牲は計り知れない。2024年7月以来、MSFはバングラデシュで、過激な暴力に巻き込まれて負傷した男性、女性、子どもなど115人のロヒンギャ患者をMSFの施設で受け入れている。

新たにコックスバザールに着いたロヒンギャの人びとは、なんとか紛争地域を逃れ、ある程度の医療を受けられるようになったものの、ミャンマーへの強制送還を恐れて常に身を隠さざるを得ない。

一方で、120万人が鉄条網の向こうに暮らすキャンプは、ますます不安定な状況に直面している。

ミャンマーの武装集団への強制徴用を含め、キャンプでの暴力や誘拐の増加もさることながら、多くの人びとは、自ら体験してきたことや、バングラデシュや故郷にいる家族の身を案じて、恐怖と不安のなかで暮らしている。

ようやくバングラデシュにたどり着いたモジブラーさんも、苦難から解放されないままだ。

親族を失い、この先どうなるか見通せないこともあって、現状に折り合いをつけるにも苦労しています。

一刻も早く公平な人道・医療援助を

国連の統計によると、2023年11月にミャンマーで紛争が再燃して以来、チン州のパレッワとラカイン州で約32万7000人が避難している。すでに避難した人びとを加えると、この地域の避難民の総数は53万4000人を超える。

MSFは紛争の当事者に対し、国際人道法上の義務と「区別」、「均衡性」、「予防」の原則を順守するよう求めている。その内容には、無差別攻撃の禁止だけでなく、直接攻撃や攻撃の影響から民間人を守ることも含まれる。

MSFは国境両側の当局と全関係者に対し、一刻も早く公平な人道・医療援助を増やすよう要請する。

※身元を保護するために仮名を使用しています。

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