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栄養失調が深刻化するナイジェリアから、日本に伝えたいこと

国境なき医師団 / 2024年9月20日 10時37分

重度の急性栄養失調と診断された1歳の子ども。MSFが支援する施設に入院している  © Miguel Godonou/MSF

「なんて不思議な静けさなんだろう──」
重度栄養失調の子どもが入院しているテントでは、何十人も子どもがいるとは思えない静けさが広がっていた。子どもの泣き声も、笑い声も聞こえない。
ナイジェリア北東部、バウチ州のカフィン・マダキ病院。国境なき医師団(MSF)はこの病院で、栄養失調児のための入院栄養治療センターを支援している。アドボカシー担当として日本からナイジェリアに派遣され、調査のため病院を訪問したベヒシュタイン紗良はこう語る。

重度の栄養失調の子どもたちの多くは、ぐったりと静かに母親の腕に抱かれていました。泣いたり笑ったりする気力もないのです。

「日本では赤ちゃんというと、ぷくぷく、ムチムチとした体を想像するかもしれませんが、栄養失調の赤ちゃんは全く違います。顔にはしわが寄り、腕はあまりにも細い。私が出会ったある子どもは、腕の太さが9cmしかありませんでした」


重度の栄養失調の基準である11.5cmを大きく下回る数値だ。ペットボトルのキャップ(約10cm)より細い計算になる。

コロナ禍で予防接種が止まり……

ナイジェリアにおける栄養失調は、激しいインフレ、食料不足、弱い医療体制、予防接種を受けていないために防げなかった病気、そして不安定な治安状況など、さまざまな要因が絡まり合って深刻化している。
「はしかなどの予防接種がコロナ禍で止まった影響が、今出ているんです。すでに低かったワクチン接種率が、コロナの影響でさらに悪化しました」とベヒシュタインは言う。本来は予防できるはずの感染症に、多くの子どもが今、感染している。

栄養失調で免疫力が下がっている子どもが感染症にかかると、命を落とす危険性が格段に上がる。また感染症にかかると病気と闘うためにエネルギーが大量に消費され、栄養失調になる可能性も上がるという悪循環が起こる。
さらに、季節的な問題も栄養失調の背景にあるという。
「今は雨期で収穫ができる作物が少ないので、わずかな備蓄で食いつながなければなりません。蓄えがなく、食料を買うお金もない家族は食べられません。さらに、雨期は蚊が増えてマラリアのリスクが上がります。栄養失調とマラリアのピークが重なって、毎年この時期には子どもの患者が増えるのです。気候変動の影響で雨期が長くなっていることも、事態を深刻にしています」
では、この問題の解決のために何が必要なのか。

まずは、今起こっている栄養失調の診断と治療を確実にできるようにすることです。さらに、予防接種を強化して感染症を食い止めることが、新たな栄養失調を防ぐために必要です。

日本政府は援助の増額を

子どもたちを栄養失調から守る活動は、MSFだけでは限界がある。ナイジェリア政府の対応力を高めることが重要だ。しかし、国際社会からナイジェリアに向けられる支援は減っている。資金拠出国の経済状況悪化や、新型コロナ、ウクライナ、ガザ危機など他の緊急事態への対応もあり、資金拠出国政府がナイジェリア国内の人道援助活動へ向ける支援は毎年減少傾向にある。
日本政府は、ナイジェリアにとって主要な資金拠出国の一つだ。日本には何が求められるのか。
「急激に広がっている栄養失調に対応し、未来の栄養危機を止めるために、日本政府は支援を拡大することが必要です。ナイジェリアではすでに人道援助プログラムが稼働している地域がありますが、より広い地域に目を向け、緊急事態にタイムリーに対応できるよう柔軟に使える資金の援助などが求められます。

このような援助を得ることで、栄養失調の治療に欠かせない栄養治療食(RUTF)やワクチン、感染症の予防・治療薬などを人びとに届けられるようになります。そして、資金を出す国の責任として、必要としている人すべてに援助が届くよう、体制を整えることにも働きかけてほしいと思います。
また、日本の皆さんには、ナイジェリアで起こっている危機にもぜひ目を向けてほしいです。栄養失調をこれ以上広げないために、日本を含め多くの力が必要です」

栄養失調での入院数が2倍に

今、バウチ州はどのような状況で、MSFはこの問題にどう取り組んでいるのか。

ナイジェリア北部の多くの地域と同様に、バウチ州では栄養失調に陥る子どもが急増している。2024年1月から6月までの間に、5780人余りの子どもが入院栄養治療センターに入院。この数は、前年同時期と比べて2倍以上だ。さらに、栄養失調の子どもが入院を必要とする前に支援する外来栄養治療センターを訪れた子どもは、州内の3カ所で1万7220人に上り、こちらも昨年同時期の2倍を超えている。

「栄養失調による入院患者の激増に衝撃を受けています。栄養失調のピーク期を迎えたばかりなのに、MSFの施設は定員超過のため、ベッド数を増やして拡張しなければなりません」とバウチでMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるラビ・アダムーは話す。MSFは雨期のピークに備え、入院栄養治療センターを250床から350床に増床した。

地域と家庭の力を活かす

今MSFは、地域に根ざしたアプローチを拡大している。栄養失調の治療を地域で行える状態を目指すというものだ。「包括的地域症例管理」と呼ばれる活動で、従来はマラリアや下痢の診断と治療を地域レベルで行うものだが、MSFはこの活動に栄養失調の治療を加えた。7月中旬、ミヤにある8つの村でのこのパイロット・プログラムが始まった。 栄養失調の子どもを見つけるために使われているのが、二の腕の太さを測って栄養状態を判別する「命のうでわ」(上腕周囲径計測帯/Mid-Upper Arm Circumference:MUAC)だ。
バウチでは「保護者によるMUAC測定」活動も行っていく予定だ。この活動では、親や保護者が家庭でMUACを使って子どもの栄養状態を測定し、栄養失調が深刻になる前に早期発見できるよう研修を行っている。
プロジェクト・コーディネーターのラビ・アダムーはこう訴える。
「さまざまな努力にもかかわらず、予防接種の欠如などの医療不足、医療スタッフの不足、医薬品や栄養治療食(RUTF)の供給不足など、多くの課題が残っています。バウチ州の関係者だけでなく、国内外の関係者が協力し、対応を拡大することが極めて重要です」

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