スーダン:妊産婦の死亡数、日本全体の年間数を南ダルフール州の2病院が超える──惨状をまとめた報告書を発表
国境なき医師団 / 2024年9月30日 13時52分
2023年4月からおよそ1年半にわたり内戦が続いているスーダン。全土で続く戦闘で医療は壊滅的な影響を受け、南ダルフール州では妊産婦と子どもの健康が世界最悪レベルに陥っている。同州で国境なき医師団(MSF)が支援する2つの病院では、今年1月から8月の間に合計46人の妊産婦が死亡した。これは、日本全体における昨年1年間の妊産婦死亡数(26人*)を大きく上回る数だ。 MSFはこのたび、報告書『忘却の彼方へ:南ダルフールの母子の健康に及んだ紛争と放置の代価』(英文) を発表。南ダルフール州で妊産婦や子どもが予防可能な症状で命を落としており、これ以上の死を防ぐためには、必要な人びとに援助が確実に届くよう国連があらゆるリソースと政治的影響力を駆使することが必要だと訴える。
機能している医療施設はわずか
「新生児や妊産婦の死者数は驚くべき数です。これほどの状況は経験したことがありません」。MSFでリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)マネジャーを務めるジリアン・ブルクハルト医師が南ダルフールの州都ニヤラで語った。
「国連も他の団体も対応していない中で、人びとの健康上の危機が複数同時に起きているのです。医療が崩壊し、防げるはずの死が次々と起こっています」 南ダルフールでは1月から8月にかけて、MSFが産科などの診療を行っているニヤラ教育病院とカス村落病院で、46人の妊産婦が死亡した。そのうち78%は、入院後24時間以内に亡くなっている。要因としては、地域で機能している医療施設がわずかしかないこと、医療施設へ行くための交通費の工面が難しいことなどから、多くの女性がすでに危篤状態で病院に来るためだ。 MSFが支援する南ダルフールの全施設で起きた妊産婦死亡において、最も多い死因は敗血症だった。機能する医療施設は少なく、女性は石けんや清潔な分娩マット、滅菌された器具といった基本的な物品がない不衛生な環境で出産せざるを得ない。それにより感染のリスクが高まる。抗菌薬が足りず、病院に来ても治療ができないこともある。 南ダルフールでMSFの医療チームリーダーを務めるマリア・フィックスはこう話す。
「ある地方から来た妊婦は、地元の診療所で治療を受けるのに必要なお金を用意できるまで2日待ったそうです。しかし診療所に行っても薬はなく、治療を受けられないまま家に戻りました。3日後に容体が悪化した時には搬送までさらに5時間待たされ、私たちのところに来た頃にはすでに昏睡状態でした。予防できる感染症で亡くなったのです」
3割以上の子どもが急性栄養失調に
南ダルフールの危機は子どもにも及んでおり、何千人もの子どもが死と飢餓の瀬戸際に立たされている。2024年1月から6月までに、ニヤラ教育病院とカス村落病院で48人の新生児が敗血症で死亡した。敗血症の新生児5人に1人は助からなかったのだ。
8月に南ダルフールで2歳未満の子ども3万人が栄養失調のスクリーニングを受けたところ、32.5%が急性栄養失調であることが分かった。これは、世界保健機関(WHO)が定めた緊急事態を示す基準値である15%の倍以上だ。さらに、スクリーニングを受けた子どもの8.1%は重度の急性栄養失調だった。
国際的な対応の拡大が急務
ニヤラは内戦の前までは複数の人道援助団体の拠点だったが、内戦が始まってから、ほとんどの団体は去ったままだ。国連も国際スタッフを置いていない。MSFはニヤラで活動する数少ない団体の一つだ。 1月から8月にかけて、MSFは南ダルフールで1万2600件の産前・産後ケアを行い、4330件の正常分娩と異常分娩の介助に当たった。 ブルクハルト医師はこう訴える。
「医療、食料、生活インフラに膨大なニーズがあるにも関わらず、国際的な対応は全く足りていません。MSFは、国連、国際機関、資金拠出機関と援助国に対し、妊産婦の健康と栄養対策における資金の増額、活動の拡充、物資の供給を緊急に行うよう求めます。 スーダンは確かに活動するのが難しい場所です。しかし待っていても事態は解決しません。多くの母子にとって、すでに遅すぎると言えます。これ以上の命が失われないよう、リスクを管理し、解決策を見つけなければなりません」 紛争で家を追われ、暴力にさらされることが、母子保健の危機に拍車をかけている。紛争当事者が傘下の武装グループと共に人道援助を妨害・制限し続けていることで、物資不足が深刻化している。 この危機によって、栄養失調や病気、健康状態の悪化といった悪循環が何世代にもわたって続きかねない。 患者に付き添っていたある女性はこう話した。 「双子の母親は大量出血で死亡し、他に8人の子どもが残されました。私たち夫婦はこの子どもたちの世話をしようと思いますが、全員に食べさせるだけの稼ぎがないのです。今、我が家には13人います。おかゆと、油はほとんど使わず塩だけを少し入れたソース、そして緑の葉っぱを食べて何とか生きています」
南ダルフール州におけるMSFの活動
MSFは2024年1月に南ダルフールに戻って以来、保健省管轄病院や基礎診療所における産科診療を支援している。また、ニヤラ郊外のカルマ国内避難民キャンプなどでも女性の健康を支えている。
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