コンゴ民主共和国:史上最多の性暴力が起きている──必要な援助と対策をまとめた報告書を発表
国境なき医師団 / 2024年10月21日 17時10分
国境なき医師団(MSF)は2024年9月、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)における性暴力に関する報告書『 "We are calling for help" Care for victims of sexual violence in the Democratic Republic of Congo(助けを求めて:コンゴ民主共和国における性暴力被害者のケア)』(英文)を発表した。
報告書は、MSFが2023年に同国で治療にあたってきた性暴力の被害者数が前例のない規模になったこと、2024年に入っても被害規模が増加し続けていることを伝えている。また、同報告書では、コンゴ国内外の関係者に対して、事態を未然に防ぎ、被害者ケアに向けた緊急対応をとるよう要請している。
性暴力の被害が過去最多に
2023年、MSFのチームは、コンゴ全土において、性暴力被害者2万5166人の治療を支援してきた。これは1時間あたり2人以上に相当する。
この数字は、MSFが、コンゴ保健省を支援するために、国内5州(北キブ州、南キブ州、イトゥリ州、マニエマ州、中央カサイ州)で立ち上げた17のプロジェクトのデータに基づくものだ。その被害規模は、MSFがコンゴで記録をつけ始めて以来の最高値である。 過去数年間(2020年、2021年、2022年)にわたって、MSFは、コンゴ国内で同様の被害者治療にあたってきたが、その数は年間平均1万人程度だった。2023年の数値がいかに大きいかが分かる。
2024年に入ると、こうした増加傾向がさらに加速する。北キブ州だけ見ても、1月から5月までの間に、MSFが治療に関わった被害者の数は、1万7363人となった。年の半ばにも達していない段階にも関わらず、前年2023年における5州全体の被害者治療件数の69%に及んでいる。
真っ先に被害を受ける避難民女性
今回の報告書で示された2023年の治療データによれば、MSFが治療に関わった被害者の91%は、北キブ州の人びとだった。同州では、2021年末から、反政府武装勢力「3月23日運動(M23)」とコンゴ軍、それぞれの支持勢力との武力衝突が続いており、数十万人の市民が避難を余儀なくされている。
被害者の大半(1万7829人)は、ゴマ周辺の避難民居住地で治療を受けたが、その数は2023年を通して増大し続けた。
MSFのオペレーション・マネジャーとして同国で活動しているクリストファー・マンブラは、次のように語る。
「患者たちの証言によると、3分の2ほどの人びとは、銃を突きつけられて襲われたそうです」
避難民居住地の中で発生したケースもあれば、女性たちが薪取り、水汲み、畑仕事などのために居住地の外に出かけた際に襲われたケースもあります。
性暴力が急増しているのは、避難民居住地の周辺に、大規模な武装集団が存在しているからだ。しかし、それだけではない。避難民たちへの人道対応が不十分なままであり、彼らが非人道的な生活環境に置かれていることこそ、事態が深刻化している背景にある。
食料や水を手に入れなければいけない。仕事をして生計を立てないといけない。それゆえ、避難民の女性たちも、武装集団が大勢いる周辺エリアに足を踏み入れざるを得ないのだ。それに、トイレやシャワーといった衛生設備が不足していることも大きい。家計を支えるために、意に沿わない性交渉を強要されている人びともいる。また、性暴力被害者の10%は未成年者となっている。
先ほどのクリストファー・マンブラが、さらに語る。
「形式上は、性暴力被害を防止したり、その被害者を支援するプログラムが数多くあるように見えます。避難民の居住地では、MSFのチームも、助けを求める被害者たちのために日々奮闘しています。しかし、実際には、現場で十分に機能しているプログラムは数少ないのです。しかも、短期的視点のものばかりで、資金も人材も極めて不足しています」
女性を守り、被害者の声に応えていくには、もっと大きな取り組みが必要です。
報告書が訴える3つのポイント
今回の報告書は、被害者たちが求めているニーズを基に、20ほどの緊急対策を挙げている。MSFがコンゴにおいて長年にわたって取り組んできた活動実績を踏まえた上で、紛争当事者、コンゴ当局、国際人道団体がいかなるアクションを取るべきかを示している。提言する対策は大きく分けて、以下の3つとなる。
第一に、MSFは、すべての紛争当事者に対して、国際人道法を遵守するよう要請する。特に、性暴力は全面的に禁止しなければならず、避難民居住地の人びとは民間人として尊重されなければならない。戦闘に巻き込まれた市民の保護は最優先であるべきだ。こうした民間人保護の姿勢は、紛争当事者のみならず、人道援助関係者たちも強く意識すべきである。
第二に、MSFは、避難民居住地の生活環境を改善するよう求める。とりわけ、食料、水、生計手段といった基本的ニーズを満たしていくことが重要だ。明るく安全な衛生設備やシェルターも増やしていく必要がある。さらには、こうした分野に投資していくにあたって、性暴力に対する啓発活動も併せて強化すべきだろう。また、こうした人道援助の資金は、新たに発生する緊急ニーズに対応できるよう、十分な柔軟性を持つべきである。一方で、人道対応にあたる団体は、自らの活動内容に対する説明責任を果たさなければならない。
第三は、医療的・社会的・法的・心理的に性暴力被害者をサポートするための資金を投入することだ。具体的には、医療研修、被害者へのケア用キットを施設に供給すること、被害者への法的支援、被害者用シェルターの提供などに向けた長期投資が必要となる。被害者が社会的な差別や排除を恐れて声を上げることができない──そのような事態を防ぐために、啓発活動にも資金を投じるべきだろう。さらには、多数の被害者から中絶手術の要望も出ている。この点、MSFは、包括的な中絶医療ケアを整備すべく、コンゴ国内の法的枠組みを是正することも訴えている。
性暴力は、コンゴにおける医療上・人道上の深刻な危機である。コンゴ12州において「ジェンダーに基づく暴力」への対応にあたっている人道援助団体のデータをまとめると、同国では、2024年第2四半期において、性暴力被害を受けて治療を受けた人びとの数は、すでに5万5500人に及んでいる。
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