誰もが命を守る検査を受けられるために──国境なき医師団らが検査カートリッジの価格引き下げを訴え
国境なき医師団 / 2024年11月1日 17時5分
国境なき医師団(MSF)は、結核をはじめHIV、肝炎 、性感染症、エボラウイルス病などの検査を、必要な誰もが受けやすくするため、診断に使われる検査機器「GeneXpert」の検査カートリッジの価格引き下げを訴える「今こそ5ドルに」キャンペーンを推進してきた。
そして10月17日、MSFは「今こそ5ドルに」キャンペーンに参加しているグローバルヘルス団体、医療従事者、その他の市民社会組織とともに、世界194か国から集まった20万6937人の署名入りの嘆願書を、ワシントンDCにあるダナハー社の本社に出向き、提出した。しかし、同社はこの嘆願書の受け取りを拒否した。
ダナハー社は、米国の検査機器メーカーであるセフィエド社の親会社だ。この嘆願書は、両社が低・中所得国で販売しているGeneXpertの検査カートリッジの価格を、5米ドルに引き下げるよう訴えている。
5ドルでも相応の利益を上げられる
検査は、病気の人を診断し、必要な治療を開始し、感染症のまん延を防ぐための第一歩となる。ダナハー社のGeneXpertは、人びとが生活している、まさに「その場」で行う検査──つまり、検査室がない場所での診断に不可欠だ。
「ダナハー社とセフィエド社の皆さん、命を守る検査への即時アクセスを求めて、世界各地から上がった20万人超の声に、今こそ耳を傾ける時です」とMSF米国でグローバルヘルス政策責任者を務めるミヒール・マンカドは訴える。
「MSFの調査を見れば、両社は検査カートリッジ1個の価格を5ドルにしても、相応の利益を上げられることは明らかです」
それなのに、両社が製造しているほとんどのカートリッジに対して、最も貧しい国にまで、その3倍以上の価格を設定し続けるなど、容認できるものではありません。
MSFが2019年に発表した調査によると、セフィエド社製の各種GeneXpert検査カートリッジは、両社がかなり以前に達成した販売量であっても、5ドルの販売価格で利益を上げることが可能だと推定している。
2023年9月、ダナハー社は「今こそ5ドルに」キャンペーンや結核関連団体による要請に応え、結核診断に使用する主力カートリッジを10ドルから8ドルに引き下げると発表した。
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)によれば、この値下げによって年間3200万ドルを節約できるので、毎年360万回分、検査カートリッジを多く購入できる。より多くの結核患者が迅速に診断と治療を受け、最終的により多くの命が救われることにつながるのだ。 しかし、両社は他の同様の検査カートリッジの価格を15〜20ドルに据え置く意向を示している。具体的には、広範囲薬剤耐性結核(XDR-TB)、HIV、肝炎向けはそれぞれ15ドル、性感染症向けは16〜19ドル、エボラウイルス病向けは20ドルとしており、これは検査カートリッジ1個を製造し、利益を上乗せしても妥当な販売価格として推計される5ドルよりも200%から400%も高い。 両社がこの技術開発に2億5200万ドルもの公的資金を受け取っていたことを考慮すると、到底無視できない事態だ。
不透明な製造コスト 今すぐ監査情報の公開を
また、ダナハー社は2023年9月に、GeneXpert検査カートリッジの製造コストについて、第三者機関による審査を毎年受けることを約束した。価格を大幅につり上げていないと示す好機となるはずだったが、それから1年余り経過しても、監査がどう実施され、誰がその結果を見られるのか、同社からは何の情報も公開されていない。
「ダナハー社がGeneXpert検査カートリッジの製造コストを明らかにすると約束してから1年余りたった今も、反応なしです」とMSFアクセス・キャンペーン診断検査顧問、ステイン・デボルグレブは話す。
「私たちは9月に、ダナハー社に対し、監査を厳格で透明性のあるものにするよう提言を発表しましたが、同社からの回答は一切ありません」
世界中で検査を必要としている人びとは、これ以上待つことなどできません。計画した監査についての情報を直ちに公表し、命を守る検査カートリッジを購入しやすい価格に設定し直す措置が、ダナハー社に求められているのです。
MSFは毎年少なくとも200万ドル相当のGeneXpert検査カートリッジを購入し、約70カ国で医療活動に使用している。
※「今こそ5ドルに」キャンペーンは、MSF、国際保健医療団体であるパートナーズ・イン・ヘルス(Partners in Health)、米国のNGOであるトリートメント・アクション・グループ(Treatment Action Group)を含む、世界150の医療提供者と市民社会組織で構成されている。
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