蚊で蚊を制する! デング熱を劇的に減少させるプロジェクトの驚くべき結果とは?
国境なき医師団 / 2024年11月15日 8時5分
アフリカ大陸を中心にいま、大きな脅威となっているデング熱。ウイルスを媒介する蚊に刺されることでヒトに感染する病気だ。
熱帯気候の都市部などで多く確認され、発熱や頭痛、体の痛み、吐き気などの症状が見られる。重症化した場合は病院での治療が必要になり、命にかかわることもある。 デング熱は特にホンジュラスで流行しており、2024年現在16万件以上の感染が報告され、警戒レベルに達する非常事態となっている。国境なき医師団(MSF)は、1998年よりホンジュラスでデング熱の対応を開始。そして昨年、蚊で広まるデング熱を蚊で予防するという、革新的なプロジェクトを開始した。 それは蚊のウイルス感染能力を低下させる共生細菌のボルバキアを蚊の体内に保有させること。実際に蚊の集団にボルバキアが定着している地域では、デング熱が減少するという。 そこでMSFは、ボルバキアを意図的に感染させた蚊を800万匹以上、ホンジュラスの首都テグシガルパ郊外の街エル・マンチェンに放した。この蚊が繁殖してボルバキアを代々受け継ぎ、この地域のデング熱の発生率を根本的に減少させるためだ。
取り組みから一年。その成果を報告する。
蚊で広がる病気を、蚊で防ぐ
エル・マンチェンの空は、相変わらず青い。そして、仕事に向かう人びとやクラクションを鳴らす車で賑わっている。 人口が密集しているこの街は、一見、1年前とほとんど変わっていないように見える。しかし、MSFはここで小さな変化──とはいえ、人命を守る可能性を秘めた変化を起こそうと、ある取り組みを行っている。 それが、ボルバキアを保有した蚊を定着させ、デング熱を減少させるプロジェクト。蚊で広がる病気を、蚊で防ぐという革新的な試みだ。 プロジェクト開始から1年が経ち、最近の調査では、エル・マンチェンで捕獲された蚊の10匹のうち8匹がボルバキアを保有していることが判明した。 1年前には、この地域でボルバキアを保有している蚊はほとんどいなかったのだから、特筆すべき成果だろう。
しかし、うまくいかないこともたくさんあった。プロジェクトのコーディネーター、エドガード・ボキンは振り返る。 「蚊を放ち続けたことで、蚊の数はますます増え、地域住民に不安を与えました。同じ頃、首都では再びデング熱が流行していたんです。そのため、デング熱について人びとにアプローチすることがより難しくなりましたが、地域の人びとに対してプロジェクトの説明をし、蚊を放す活動に一緒に参加してもらうことで、計画通りに行うことができました」 さらにボキンはこう付け加えた。 「私たちは地域のコミュニティ、ホンジュラスの保健当局、ホンジュラス国立自治大学(UNAH)、ワールド・モスキート・プログラム(WMP)と協働してきました。 まさにチームワークの賜物です! MSFとWMPがデング熱のようなアルボウイルス(*)の予防について協力するのは、今回が初めてです」
私たちの強みであるコミュニティとの連携と、WMPの技術的な専門性が互いに補完し合い、このプロジェクトが実現しました。
成果のほどは?
エル・マンチェンは以前、デング熱の罹患率が市内で最も高かった。 しかし、この1年間は例年よりも感染者が少なく、市内の他の地域と比べても感染率は低い。 しかし、「勝利だと宣言するのはまだ早すぎます」とボキンは慎重に言う。 「9月に294匹の蚊を調査したところ、85.7%がボルバキアを保有しており、それはとても喜ばしいことでした。 しかし、これはあくまで暫定的な結果です。2025年の第1四半期に、この戦略がエル・マンチェンのデング熱の影響をどの程度まで軽減できたかを示す、最終的な検査を行う予定です」 早すぎる興奮は禁物だとしつつも、ボキンは希望を抱いている。 「この作戦は間違いなく有望です。このまま進めていけば、デング熱を減らすための有効な手段となるでしょう」
長い間、私たちは人びとがデング熱に苦しむ様子を見てきましたが、ボルバキアを保有する蚊を放出してから、何かが変わりつつあるという前向きな声を聞くようになりました。これはデング熱を経験した人や、身近な人がデング熱にかかった人に希望を与えるものです。
*アルボウイルス(節足動物媒介ウイルス):特定の吸血性節足動物である昆虫(蚊、ハエなど)とクモ形綱動物(マダニ)を媒介してヒトおよび脊椎動物に伝播するウイルス。
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