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抗菌薬が効かない──アフガニスタンに広がる薬剤耐性と意識改善への取り組み

国境なき医師団 / 2024年12月10日 17時5分

国境なき医師団(MSF)が支援するアフガニスタンの病院で、ヘルスプロモーターを務めるハッジ・アブドゥルラフマン・ニアマトゥッラー。患者らに感染症の予防法や、処方された抗菌薬を適切に服用することの重要性を説明する © Abdul Wadood/MSF

抗菌薬(抗生物質)が効かなくなる薬剤耐性(AMR)は、世界的な脅威の一つだ。2021年には世界中で推定114万人がAMRによって死亡している。

AMRの問題が深刻な国の一つがアフガニスタンだ。2019年にはAMR関連の死亡者数が自傷行為や暴力、妊産婦や新生児の障害、呼吸器感染症や結核による死亡者数を上回った。アフガニスタンでAMR対策は急務だが、財政的、技術的な援助が足りないため、対策はなかなか進まず、AMRへの関心も低いままだ。

アフガニスタンでAMRのまん延を食い止め、その脅威に対する認識を広めるための国境なき医師団(MSF)の取り組みとは。

医療体制への深刻な影響

サイード・ダウードさんはこの2週間、アフガニスタン北部クンドゥーズ州にあるMSFのクンドゥーズ外傷センターの隔離室にこもり、8カ月前に負ったケガから回復する努力を続けている。

熟練工として働いていたダウードさんはビルの4階から転落し、両足を開放骨折した。3月に外傷センターから退院したが、感染症のため2度にわたる再入院を余儀なくされた。

ダウードさんの最新の検査結果は、彼の担当医師らの疑いを裏付けるものとなった。それは、感染症の原因となった細菌が、一般的に使用されている抗菌薬に耐性を持っているということ。そのため、的を絞った治療の必要性が明白になったのだ。

この報せに、AMRについて何も知らなかったダウードさんは衝撃を受けたという。しかし、MSFの感染症専門家であり、昨年アフガニスタンでAMRの研究に携わったレティツィア・オッティーノ医師にとっては、驚くようなことではない。

「毎日が抗菌薬耐性との戦いですよ」と、オッティーノ医師は言う。

「抗菌薬耐性は、医療体制へ甚大な影響を与えています」

多剤耐性感染症の治療にはより多くの資源が必要で、より長い入院期間、高価な抗菌薬、専門の医師が必要なのです。

多剤耐性感染症は非常に深刻で、特に新生児や妊婦、重度の急性栄養失調の子ども、外傷に関連した傷害を負った子どもなど、健康を脅かされやすい人びとの死亡リスクを高める。 南東部ホーストにあるMSFのホースト産科病院では、出産したばかりの女性たちが医療用のガウンを羽織り、新生児集中治療室のベッドで横になっている早産で生まれた我が子を見舞いながら、死亡リスクの恐怖に日々直面している。 MSFスタッフは患者から感染の兆候をつかむと、患者の血液サンプルを「携帯検査室」に送る。人員・設備・資金が不足している地域でMSFが導入している、簡単に持ち運びできる小型の独立型細菌検査室だ。ここで感染症の原因となる細菌を特定し、抗菌薬による治療を調整することができる。 MSFはアフガニスタン全土のプロジェクトにおいて、感染防止対策の強化や、抗菌薬の適切な選択と使用を保証する責任を持ったスタッフを動員した適正使用(スチュワードシップ)委員会の設置など、AMRに対処するための一連のサービスを実施している。 MSFはまた、クンドゥーズとホーストの2カ所に細菌検査室を開設。細菌を特定し、感染症治療に適切な抗菌薬を選択する手助けをしている。

AMR対策は患者と処方者の実践が鍵

これらの活動は、MSFのプロジェクトにおけるAMRへの取り組みとしては良いスタートだが、この問題に対処するには課題が山積しているとオッティーノ医師は言う。 また、アフガニスタン内の抗菌薬耐性のデータは限られているが、オッティーノ医師によれば、科学文献では、同国におけるAMRレベルが高いことが示されているという。 人道援助を要する地域における、AMRに関するMSFの新しい報告書(MSF report on AMR in humanitarian contexts)は、広範な構造的課題を指摘している。アフガニスタンのような人員・設備・資金が不足している地域でのAMRの要因としては、質の高い医療、水、衛生設備、感染予防策、ワクチンなどの欠如、医療・検査関連のサプライチェーンの未整備などを挙げている。 ただ、患者や処方者の慣行による部分も大きいと、MSFが支援するヘラート地域病院小児科の小児科医ザビフラ・ファゾイ医師は言う。

抗菌薬の過剰処方、過剰使用、誤用、市販薬の普及はすべて、AMR問題を深刻化させています。

このことは、MSFが2015年に首都カブール市内にある地区病院で、患者、処方者、薬剤師の間で抗菌薬とその使用に関する認識を調査した研究において、長年の課題だとされている。 この研究では、患者は抗菌薬について限られた知識しか持っていないことが多く、一般的な風邪や不妊症、体の痛みなど幅広い症状に対して過剰に使用したり、誤用したりすることが多いこと、そして、抗菌薬が民間薬局で広く入手できることがわかった。

AMRに関する意識向上を目指して

MSFのヘルスプロモーターたちは、AMRをテーマにした社会教育に力を入れ、地域でより良い実践を奨励しようと努めている。 MSFが支援する南部ヘルマンド州ラシュカルガのブースト地方病院で、ハッジ・アブドゥルラフマン・ニアマトゥッラーは患者を集め、図版を片手に以下を説明する。

  • 抗菌薬は細菌による感染症には効くが、咳や風邪、インフルエンザを引き起こす一般的なウイルスには効かない
  • 抗菌薬の服用を怠る、飲み切らないといった誤った使い方をすると、時間の経過とともに抗菌薬が効かなくなる抗菌薬耐性が起こる
  • 抗菌薬耐性が起こると、抗菌薬では細菌を殺すことができないため、病気の治療が難しくなる

クンドゥーズ外傷センターに戻ったダウードさんは、多剤耐性菌による感染症の治療がいかに難しいか、身をもって知った。彼の感染症は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と呼ばれる高度耐性菌によって引き起こされていた。 外傷センターの隔離病棟に2週間以上入院していたダウードさんは、感染症が治り始めていることを実感しているという。彼はMSFによる治療に感謝する一方で、もうすぐ家に帰れることを楽しみにしている。

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