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癒しの知恵、写真に刻む──コロンビア紛争の地を「修復」する女性たちの物語

国境なき医師団 / 2024年12月12日 17時5分

プロジェクトの一員として写真を撮影するMSFスタッフ © Natalia Romero Peñuela/MSF

南米コロンビア共和国の太平洋沿いに、チョコ県という地域がある。国境なき医師団(MSF)は2022年から、このチョコ県のへき地で医療環境の改善に取り組んできた。

MSFはまた、写真家でありドキュメンタリー作家でもあるフェルナンダ・ピネダ氏と協力し、この地で生きるアフリカ系コロンビア人や先住民らが、紛争の傷跡をいかに乗り越えてきたかを記録してきた。

そのプロジェクトの成果として生まれたのが、写真集『リオグラフィアス・デル・バウド』。日本語訳すれば「バウド川の記録」だ。この作品では、先住民の女性ヒーラーや薬草使い、分娩介助者らが「傷つけられた地」を、伝統的手法によって癒していくモチーフが描かれている。ここではその一部を紹介する。

写真集『バウド川の記録』

この写真集は、 MSFや地元住民たちの協力の下に制作が進められた。ピネダ氏は、チョコ県のなかでも、最も人里離れたところにあるアフリカ系住民の集落をいくつか訪れた。 住民たちは、武装組織同士の抗争を受けて、強制収容されたり隔離状態にされたまま暮らしている。政府も、この地域紛争に対応しきれていない。この先住民の土地に、いかなる傷跡が刻まれていったかを記録する──それがピネダ氏の使命だ。

ピネダ氏は、MSFの女性スタッフ数名とともに、地元のバウド川をさかのぼって、アフリカ系住民や先住民の集落にたどり着いた。彼女らは異文化仲介の活動に従事しており、地元の言語や習慣や知識を尊重しながら、MSFの医療活動を地域に根付かせる役割を担っている。

プロジェクトはいかにして始まったか

このプロジェクトはもともと、ピネダ氏がMSF異文化連携チームのために開いた写真ワークショップから始まった。この異文化連携チームは主として、先住民やアフリカ系住民によって構成されている。

ワークショップでは、先住民を単なる「被害者」として表現するのではなく、それ以上の何かを描くことが重要なのだという点が強調された。そして、いかにして先住民らが豊かな人生を築いているかに焦点を当てるべきだ、ということで、参加者たちの意見は一致した。

ピネダ氏は語る。 「先住民の集落のなかには、植物に関する知識を持つ女性たちが重要な役割を担っているところもあります」

私たちは取材を通して、武力紛争で『傷つけられた地』に足を踏み入れました。そして、彼女たちの知恵に導かれながら、癒しを象徴する場にたどり着いたのです。

プロジェクトの軌跡

プロジェクトでは3つの先住民集落において、7人の女性が紛争の傷跡が刻まれている場所を見定めていった。そして、縫合糸、伝統的療法、花などを用いて、その傷を治癒していくのである。いずれも普段から仲間たちの痛みを和らげるために使っているものだ。

そうした象徴的素材を通して生まれたのが、今回の作品なのである。なかには、知恵ある女性たちが「傷つけられた土地」を癒していく写真が収められている。そして、集落の指導者たち、紛争を生き残った人びとが恐怖と不安を語る様子が物語風に表現されている。そこから、政府当局や国際社会から顧みられない現地の実情も見えてくる。

ピネダ氏は語る。
「私たちは、この地について、世界の人びとに関心を持ってもらいたいのです。ただ過酷さや困難さに目を向けるだけではありません。彼女たちに象徴される伝統、文化、豊かさ、知恵について知ってほしい」

この地の人びとは、確かに苦難と理不尽に直面しています。しかし、そうしたものを超えた何かがあるのです。それを見てほしいのです。

傷つけられた地

チョコ県アルト・バウド市のへき地で暮らすアフリカ系住民および先住民らは、武力紛争や医療過疎によって、深刻な状況に置かれている。医薬品、医療施設、飲料水、教育機会などへのアクセスに支障が出ているうえに、農村地帯に武装組織が入り込み、そこに爆発物が置かれることで、食料不安のリスクも高まっている。こうした状況全体が、住民たちの心身の健康に絶え間なく影響を及ぼしているのだ。

コロンビア政府のオンブズマン事務所(市民権と人権の保護監督にあたる国家機関)によると、2023年において強制拘束の件数が最も多い地域はチョコ県だった。その数は124件にのぼり、4万414人が被害に遭っている。

また、同年には、コロンビア国内において154件の大規模避難が起きたが、そのうち19件はチョコ県で発生している。これは地域別で国内2位となる。さらには、武力紛争による人権侵害を受けた被害者数を見ても、チョコ県は3万7832件にも及んでおり、国内5位となっている。

今回の記事の舞台となっているアルト・バウドだけを見ても、5758件の人権侵害が記録されている。このような暴力にさらされているにもかかわらず、政府や国際社会による対応は行き届いていない。 一方で、バウド川やその支流は、地域住民の主たる交通経路になっているが、移動するコストが高すぎる。それゆえ、人びとは基礎的な医療にアクセスすることすら困難となっている。

医療を身近にするために

コロンビアとパナマにおいてMSF医療コーディネーターを務めるアルテア・サーベドラ医師は、次のように語る。

「私たちMSFのチームは、この地において武力紛争が激化していき、人びとのウェルビーイング(心身ともに良好で満たされた状態)が侵されていく状況をこの目で見てきました」

現地において、MSFは地域保健職員やプロモーターを対象にした包括的研修プログラムを実施している。アルト・バウドの最へき地に住む人びとが、基礎医療をもっと身近に受けられるようにするためだ。

2022年3月から2024年7月にかけて、こうした研修を受けた地域保健職員やプロモーターたちが実際に担った相談件数は約1万に及んでいる。そのほかにも、彼らは予防健康に関する教育講座を5233件ほど開催し、4万7384人の参加者を集めた。

一方、この間、MSF支援の下、孤立地域から診療所に搬送された人は2000人を超えた。その多くが緊急医療を要するものだった。

アルト・バウドの人びとが医療を受けるには、最大13時間の船旅に出なければならない。しかも、その交通費を工面できたら、の話だ。サーベドラ医師は言う。

「コロンビア政府は、この医療の過疎状態を改善し、あらゆる住民が医療をはじめとする公共サービスを受けられるようにすべきです。そのためには、国内外の団体の支援も活用すべきでしょう」

現在のように、チョコ県のアフリカ系住民や先住民たちがぜい弱な状況に置かれていることは、決して正当化できるものではありません。

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