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日本の災害にどう動く? 国境なき医師団の災害援助活動とは

国境なき医師団 / 2025年2月7日 9時11分

世界のさまざまな場所で緊急援助活動を行う、国境なき医師団(MSF)。自然災害の多い国や地域では、活動に備え常に態勢を整えています。地震や津波、豪雨といった災害の多い日本も、その例外ではありません。

MSFは緊急援助にどうやって乗り出すのか。国際組織であるMSFは、日本国内での災害にどう備えているのか。私たちが取り組む、災害援助活動について伝えます。

緊急事態発生!MSFはどう動く?

「緊急事態にいち早く駆けつける」。それがMSFの特徴であり強みの一つです。でも一体どうやって活動をはじめるのでしょうか。MSF日本事務局長の村田慎二郎が答えます。

村田慎二郎(むらた・しんじろう) シリアやイエメンなどで現地活動責任者として緊急援助活動を統括。2020年よりMSF日本事務局長。

Q1.援助活動の実施はどのように判断しますか?

緊急の医療・人道援助のニーズがあること、ほかからの援助がない、または行き渡っていないこと、そして安全確保などの面に制約が少ないこと。主にこの3つの基準で進めます。その大前提にあるのが、「独立・中立・公平」という活動原則。特に重視するのが、「公平性」です。「平等」とは異なり、医療が「ある」ところではなく「ない」ところに提供するという考え方。ニーズに対して医療が圧倒的に不足している場合に、その解消を目指します。

援助が必要であると判断した際は、現地にすぐさま緊急チームを派遣します。独自の調査に基づき、活動の詳細を決定していきます。

MSFの強みは、政治的な理由によりほかの援助機関などが入りづらい地域にも入れること。MSFの活動資金は、その9割以上が個人をはじめとする民間からの寄付に支えられています。資金の独立性が保たれていることで、いかなる権力からの影響も受けず、医療を必要とする人びとへ援助を届けることができるのです。

Q2.判断に必要な情報はどのように集めていますか?

緊急事態の発生地域にすでにMSFの拠点がある場合は、現地やその国の首都にいるスタッフが中心となり、情報を収集します。拠点がない場合は、緊急チームがその役割を担います。現地の保健省や国連機関、ほかの人道援助団体も重要な情報源です。

援助を必要とする人すべてに、迅速に援助を届けるため、日ごろから情報交換や連携、援助が重複しないような調整を行っています。

Q3.活動を行うのは緊急事態の発生直後だけでしょうか?

発生直後でなくても、援助の必要性が確認されれば活動します。例えば2024年1月に起きた能登半島地震の対応では、1月下旬より被災者の方々での心のケアを開始。ニーズに対し、援助がかなり不足しているとMSFの調査で確認されたためです。 また日本では、災害派遣医療チーム(DMAT)のトレーニングや自治体の災害対策に参加し、日ごろから緊密に連携。必要に応じて出動できるよう、備えています。

MSFが取り組む、日本の災害への備え

日本での災害発生時、MSFはどのように活動を決定するのでしょうか。現在、日本の災害援助の準備を担う、MSF日本スタッフの川邊洋三に話を聞きました。

川邊洋三(かわべ・ようぞう) テレビ局国際部記者を経て、2008年よりMSFに参加。東日本大震災や能登半島地震の対応でも活動した。

Q1.MSFは日本で災害が起きた時も活動しますか?

MSFには東日本大震災や能登半島地震などで活動した実績があります。災害が起きると、私たちは災害の規模や被災地の状況、政府や民間の支援の動きなど刻々と変わる情報をあらゆるネットワークから収集・分析し、活動方針を決めていきます。このとき、最も重視するのは、被災地の医療ニーズと現地で提供される医療のバランスです。それは日本でも、海外でも変わりません。

世界的に見て、日本は医療体制が比較的整っています。そのため医療ニーズを満たすのに十分な官民の支援が見込める場合、MSFは出動しません。支援が届かず、医療がより不足しているほかの場所へと向かいます。

Q2.MSFの強みが発揮できる領域は?

被災地が広範囲に及び、かつ交通の便が悪い地域や孤立した地域があると、地元自治体も把握しきれない勢いで自主避難所がつくられます。MSFはアウトリーチ活動(援助を必要としている人びとを積極的に見つけ出し、サービスを提供すること)に慣れていて機動力もあるため、こうした自主避難所の情報収集や支援にも向いています。

もう一つが「心のケア」です。投薬が必要な精神疾患の方に対する支援は整ってきましたが、家族や自宅、仕事を失って途方に暮れる人びとに寄り添う支援はいまも足りていません。不眠不休で被災者支援に携わる自治体職員へのケアも同じです。

制度の隙間を地道に埋めていく。このような活動は、医療制度が整っていない場所で活動してきたMSFの経験を生かしやすいはずです。

Q3.災害援助の準備はどのようなことをしていますか?

日本の災害医療関係者との関係強化、手順書の作成、医薬品や資材の手配、移動手段の準備などが中心です。例えば、日本の災害現場でまとめ役となる災害派遣医療チーム(DMAT)とはパートナーシップ協定を締結しました。DMAT主催の訓練にも参加し、官民を超えた連携を目指しています。また南海トラフ地震の被害が想定される複数の自治体とも、援助計画について協議を続けています 。

これまでの日本での災害援助活動

1995年——阪神・淡路大震災

6400人を超える犠牲者を出した阪神・淡路大震災。MSFは、震災翌日から緊急援助を開始し、水や毛布などの物資の提供のほか、無料診療所での診察を行いました。

2011年——東日本大震災

東北地方を中心に未曽有の被害をもたらした東日本大震災。MSFは大地震の発生直後に緊急援助プロジェクトを立ち上げ、被災地での医療活動を開始しました。

2016年——熊本地震

2016年4月14日、16日に最大深度7の揺れを観測し、地震による直接の死者50人を出した熊本地震。MSFは被災地にいち早くチームを派遣。南阿蘇村の仮設診療所を拠点に医療援助を行い、被災者の緊急ニーズに対応しました。

2018年——西日本豪雨

西日本を中心とする豪雨被害を受けて、MSFは被災地に調査チームを派遣。最も深刻な被害を受けた広島・愛媛県内の7つの自治体を視察し、広島県に赴いたチームは、仮設避難所での診療も実施しました。調査の結果、現地の医療体制で対応可能と判断できたため、医療チームの派遣を行うなどの医療活動には至りませんでした。

2024年——能登半島地震

MSFは1月25日より石川県輪島市に「心のケア」チームを派遣。避難所で暮らす被災者や不眠不休で被災者の支援を続ける自治体職員の心理面をサポートする活動を行いました。また「洗濯をしたい」という被災者のニーズを受け、洗濯機20台を輪島市に寄贈しました。

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