東大、電子回折パターンの減少とエントロピー増加の対応を実証
マイナビニュース / 2024年6月3日 12時26分
今回の研究で、巨視的結晶の「融解エントロピー」(ΔSf)が報告されている14種類の結晶について、電子線照射に伴う電子回折信号の減少速度が、速度論的に解析された。その結果、「アレニウスの頻度因子」(A)と、ΔSfが線形関係にあることが発見され、「ln(A)=ΔSf/R+ln(AINT)」(以下「式3」)として表された(すなわちΔSf=Rln(A/AINT)。なおAINTは、電子線と分子の散乱断面積に対応する定数である。
式2のkBをR/NA、ΩをWNA(NAはアボガドロ定数)に置き換え、モルエントロピーを書き直すと「ΔS=RlnW」(以下「式4」)となり、式3と式4を参照すれば、微視的状態数の増分WdがA/AINTから求まることがわかる。低温の結晶中で固定された分子の微視的状態の数Wdは1と考えられることから、無秩序化後に求まったWdは、測定後にその分子が取り得る立体配座の総数が示されていることが明らかだ。ヒルシュベルク准教授らが行った分子動力学計算は、この結論を定性的に支持したという。
実験値Wdから無秩序化エントロピーΔSdが、「Wd=A/AINT」(以下「式5)」、この式から「ΔSd=Rln(A/AINT)」(以下「式6」)に直せる)に従って求められる。それにより、14種類の結晶について、電子回折から求まるΔSdが熱測定で求まるΔSfと一致することが判明したとしている。
続いて研究チームは、上述の14種類の結晶に加え、さらにタンパク質やtRNA(転位RNA)などの生体高分子を加えた、全部で24種類の結晶で同様の測定を行ったとのこと。比較的堅い構造を持つ膜タンパク質は、小さなペプチド分子である「グルタチオン(16)」より数倍小さなWdを示したのに対し、比較的緩い構造を持つ「カタラーゼ」は逆に大きなWdを示すことが確認された。このことは、電子回折から得られたWdの情報が、タンパク質などの巨大分子の持つ構造自由度の評価に活用できることを意味しているとする。
今回の研究は、有機結晶に電子線を当てると速やかに分解するというこれまでの常識とは異なり、電子線照射がまず引き起こすのは結合の切断ではなく、結合の回転であることを明確に示したものだという。研究チームは今回の成果に対し、クライオ電子顕微鏡法(極低温環境でも観察可能な透過型電子顕微鏡)などにおける生体分子の観察結果の解釈にも役立つ可能性があるとしている。
(波留久泉)
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