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北大など、「カオス軌道」を用いた探査機の月までの高効率軌道設計に成功

マイナビニュース / 2024年6月3日 17時48分

このようにこれまでは避けられてきたカオス軌道だが、研究チームは今回、発想を転換。逆にそれを活用することで、今よりも燃料を節約したり、月に早く到着できたりするような軌道を設計できる可能性を考察し、力学系理論の立場から軌道設計に取り組むことにしたとする。

今回の研究では、地球-月円制限三体問題の最小モデルであるヒル方程式系における、地球周回軌道から月周回軌道への旅程が扱われた。まず、同系においてカオス軌道が集積している領域(カオスの海)の周期軌道を1つ選び、この周期軌道に常に近づいていく状態の集合(安定多様体)と、常に離れていく状態の集合(不安定多様体)を、二体が最も近づく状態(近点)の切断面上で計算する。その切断面上で、安定多様体と不安定多様体に囲まれる領域は「ローブ」と呼ばれる。ある近点に到達してから、次の近点に到達するまでに、あるローブは別のローブに遷移し、カオス的な動力学により変形を受けて複雑に変形していく。ただし、ローブに囲まれている軌道はローブの外に出ることはない。

このようなローブの系列は、出発地点の地球周回軌道と目的地点の月周回軌道の間にあるカオスの海に無数に存在する。そこで、いくつかのローブ系列を選んで、あるローブが大幅に変形する前に次のローブへとジャンプさせていく制御を考える。つまり、地球周回軌道から出発した探査機は、選ばれたローブ系列を順に渡り歩くことによって、月周回軌道に到達できることになる。このジャンプで生じる誤差もカオスで増幅されるが、それがローブ内に収まっていれば、次のジャンプの制御に支障を来すことはないという。つまり不安定なのに、頑健な軌道なのである。

そして可能なローブ系列の組み合わせを最適化した結果、ヒル方程式系において、既知の旅程よりも少ない燃料で、しかもより短時間で月に到達できる軌道を設計できたという。ローブの動力学を使って、カオス軌道を宇宙機の軌道設計に役立たせることに成功した形だ。

今回の研究で提案された解析法と制御法は、さまざまな力学系における高効率な軌道設計に対する一般的かつ有力な方法であり、特に、月周回有人拠点への貨物輸送や、惑星探査機の軌道設計などへの応用が期待できるとしている。
(波留久泉)



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