千葉大など、光を当てて物質を冷却する「半導体光学冷却」の実証に成功
マイナビニュース / 2024年9月3日 21時9分
そこで研究チームは今回、丈夫で高い発光効率が維持される「ドットインクリスタル」という、「CsPbBr3」という組成のペロブスカイト量子ドットが、「Cs4PbBr6」結晶中に埋め込まれた構造(CsPbBr3/Cs4PbBr6)のペロブスカイトに注目して研究を行うことにしたという。
半導体に光を照射すると、電子と正孔のペアである励起子が生成され、発光は、励起子が再結合する際に起きる。一方で、励起子の密度が高くなると、発光せずに熱を放出して再結合する「オージェ再結合」という過程が現れてくる。半導体量子ドットでは、オージェ再結合が起きるため、強い光強度によって光冷却ではなく、光加熱が生じてしまう。
今回の研究ではまず、時間分解発光分光を用いて、オージェ過程がどの程度起こりやすいのかが調べられた。その結果、比較的弱い強度でも光加熱が生じてしまうことが判明。つまり、光学冷却を観測するためには弱い強度での実験が必要ということがわかったのである(弱すぎても冷却もされないというジレンマもある)。なお今回取り扱った試料では、理論的には室温から絶対温度10K(約-263℃)ほどが冷却の限界であることがわかった。
続いて、光学冷却実験が行われ、発光効率の高い部分だけを選択的に光照射するため、マイクロサイズの結晶が作られた。試料の温度は、発光スペクトルの形状から推定する方法が確立され、数多くの資料で実験が行われたところ、複数の試料で冷却が観測され、励起光の強度を変えていくと、冷却から加熱へと移り変わる様子も観測されたとする。
半導体での光学冷却は、これまでにもいくつかの物質で報告されているが、温度推定の方法に問題があるなど、十分な信頼性がなかったという。今回の研究では信頼性の高い手法で光学冷却が実証され、時間分解分光の結果から、光学冷却の限界と可能性が明確に示された。
より低温への光学冷却を実現するには、量子ドットの密度を上げること、オージェ再結合が起こらないようにすることが必要。サイズの大きな量子ドットを使うことも1つの方法だが、発光効率を上げるのが難しくなる可能性があるとする。今後は、量子ドットの周囲の物質を工夫することで、オージェ再結合の確率を減らす試みが必要となるとしている。
(波留久泉)
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