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吉川明日論の半導体放談 第312回 ファウンドリ会社切り離し案の報道で株価が上がるIntel

マイナビニュース / 2024年9月3日 21時3分

当時、パソコン市場、それに続くサーバー市場を完全に掌握したIntelにとって、製造キャパシティーの増強は成長戦略そのものであった。しかし、先端生産技術を移植したキャパシティー増強の競争には大きなリスクが伴う。「本当の男だったらファブを持て」と豪語したAMDの創業者ジェリー・サンダースが、実際にはその資金繰りのために投資会社を奔走し、「ジャンクボンドの帝王」などと揶揄された時代、AMDで勤務していた私は市場評価が定まらない製品を大量生産するための工場建設が突貫工事で進められる状況の恐ろしさを身をもって体験した。Intel互換戦略から大きくステップアップして満を持して設計したK5プロセッサーの出来が悪そうだという観測の最中に、テキサス州オースチンに建設中だったFab 25を訪れた時に感じた半導体ビジネスの恐ろしさは、今でも記憶に残る。

その後、AMDはK5に代わるK6デザインをNexGen社の買収によって手に入れ、奇跡の復活を遂げた。K6デザインはAMDをK7/K8へと導き、それと並行するようにAMDはドレスデンの自社工場(後にGlobalFoundries社となる)を切り離しファブレス企業に生まれ変わった。半導体ビジネスとは本来高いリスクを伴うものである。

Intelファウンドリに対してIntel以外に生産委託のコミットを表明している顧客はまだなく、今後Intelファウンドリはまだ完成していない工場のキャパシティーを埋める大口顧客を複数取り込まなければならない。
ファウンドリモデルとファブレス企業の成功の条件

ゲルシンガーの成長戦略のゴールにあるのが、ファウンドリビジネスの6割以上のシェアを誇るTSMCだ。Apple、NVIDIA、AMD、Qualcommといった大口顧客の先端デザインの生産を一手に引き受けるTSMCも、米国、日本を皮切りに生産拠点を世界に拡大している。しかし、業界レジェンド、モーリス・チャンが1987年に創業したTSMCが現在のポジションに至るまでの道のりは非常に険しいものであった。今でこそファウンドリというビジネスモデルは確立されたものになっているが、「委託生産」を複数の顧客から請け負うこのビジネスモデルは各顧客との緊密な信頼関係の基にのみ成り立つ。しかも、最先端のプロセス/パッケージ技術をタイムリーに準備するためには投資リスクを覚悟した上で、市場全体についての強かな読みに基づいて大胆な決断をする経営チームと、それを実行する優秀な技術チームの信頼関係が必須である。

これまで、常に自社ブランドで市場をリードしてきたIntelが巨大なキャパシティーを用意したとしても、大口顧客からの信頼を得るには王者TSMCに対抗しうる「独自の企業価値」を創造しなければならない。ファウンドリビジネスによる成長戦略を推進するゲルシンガーには今後も大きな仕事が待っている。

9月中旬に予定されているというIntelの取締役会には大きな注目が集まる。

吉川明日論 よしかわあすろん 1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を機に引退を決意し、一線から退いた。 この著者の記事一覧はこちら
(吉川明日論)



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