都立大など、細胞が外部シグナルをDNAにまで伝える過程を分子レベルで解明
マイナビニュース / 2024年9月17日 20時19分
GRB2は、機能部位(ドメイン)が3つ(NSH3、SH2、CSH3)接続した構成だ。従来研究から、NSH3とCSH3がSOS1との相互作用に関わることがわかっていたことから、両者はSOS1に対してほぼ同一に関与すると考えられてきた。しかし今回の解析により、NSH3のSOS1への結合親和性はCSH3と比較して10~20倍も強いことが判明。これにより、NSH3とCSH3では異なる役割を持つことが示唆されたとした。
また、NSH3とCSH3の運動性も大きく異なっていることが確認され、ここからSOS1との相互作用の様式もドメイン間でかなり異なることが解明された。この発見は、細胞内でのGRB2とSOS1によるシグナル伝達機構が、これまでの理解よりもはるかに複雑で、シグナルの強さや種類に大きく影響を与える可能性があることを示唆しているという。
さらに近年になって、GRB2とSOS1が液液相分離を引き起こすことで、細胞内シグナル伝達を微調整している可能性が示唆されている。そこで、両タンパク質の複雑な相互作用様式と液液相分離との関係が注目され、両タンパク質の相互作用モデル「LLPS(液液相分離)形成機構」が、以下の通りに推測された。
GRB2が単独で存在する際は、GRB2のCSH3ドメインは大きく揺らいでいる。NSH3とCSH3がSOS1の結合領域と相互作用すると、CSH3ドメインの位置が大きく変化し、GRB2の2量体化が促進される。
GRB2のNSH3とCSH3のSOS1への結合親和性は10~20倍異なるため、SOS1の1分子が持つ複数の結合部位に対して結合ステップが異なり、結果的にGRB2が複数のSOS1を架橋する構造を取る。これにより複数の分子が1か所に集合し、全体として液液相分離を引き起こすことが考えられるとした。
今回の研究で、中でもGRB2が液液相分離を介してシグナル伝達の強度を調節する可能性が示唆されたことから、この発見は細胞内シグナル伝達の異常によって起こるがんなどの病気の新しい治療法の開発につながる可能性があるとした。またNMRの活用により、従来手法では観察できなかった動的なタンパク質相互作用を高解像度で観察できることが示され、今後の生物物理学的研究にも大きな影響を与えることが期待されるとしている。
(波留久泉)
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