チャンドラセカール賞にプラズマ加速器技術研究の国立台湾大・陳氏
マイナビニュース / 2024年10月16日 19時2分
プラズマ物理学の進歩に貢献した研究者に贈るチャンドラセカール賞の第11回受賞者に、国立台湾大学教授の陳丕シン(チェン・ピシン、シンの漢字は火の下に火2つを横並び、その下に木)氏が選ばれた。物理学実験をはじめ医療、産業に広く用いられているプラズマ加速器の技術に関する重要な発明などが評価された。アジア太平洋物理学会連合プラズマ物理分科会(菊池満代表理事)が発表した。
授賞は「プラズマ航跡場加速器(PWFA)の発明とその加速および収束過程を含む基礎プラズマ物理学における集団相互作用の理解を深めたことに対して」で、9月20日に発表した。表彰式はマレーシア・マラッカで開かれる第8回アジア太平洋プラズマ物理学国際会議で11月4日に行われる。
プラズマ加速器は電子や陽電子、イオンといった荷電粒子が高エネルギーを持つよう加速する技術が鍵を握る。田島俊樹氏とジョン・ドーソン氏が1979年、レーザーパルスによってプラズマの強い波動を生み、電子をこの波に乗り続けさせることで加速できることを示した。水面を進む船やアヒルの後ろには、かき分けられた水により航跡ができる。同様にレーザーパルスによってプラズマの波ができる状態は「航跡場」、2人が見いだした手法は「レーザー航跡場加速(LWFA)」と呼ばれる。
これに対し陳氏らは1985年、レーザーではなく、プラズマを横切る荷電粒子のビームがLWFAと同様にプラズマ波を起こせることを示し、「プラズマ航跡場加速(PWFA)」の概念を発明。実証や研究が進展した。LWFAとPWFAは現在、主要なプラズマ加速器技術として盛んに研究されている。陳氏はその後も、PWFAを発展させる多くの成果を上げた。
2002年には田島氏と共に、超高エネルギー宇宙線の起源としてPWFAを提案するなど、陳氏の研究対象は宇宙物理学や宇宙論を含む多方面に及ぶ。また、ブラックホールが放射によって縮小し消滅するとの説を検証する国際研究を率いている。
陳氏は国立台湾大を卒業後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で桜井純氏の指導の下、理論素粒子物理学の博士号を取得。米SLAC(スラック)国立加速器研究所などを経て、米スタンフォード大学、国立台湾大で素粒子宇宙物理学や宇宙論に関する研究所の設立を主導した。今年に入り、国立台湾大の研究所の創設名誉所長に就任した。
チャンドラセカール賞は、インド生まれの米国の天体物理学者で1983年にノーベル物理学賞を受賞し、プラズマ物理学にも貢献したスブラマニアン・チャンドラセカール氏(1910~95年)を記念したもの。アジア太平洋物理学会連合プラズマ物理部門(現分科会)が2014年に創設した。
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