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カレー沢薫の時流漂流 第324回 気がつけば、「ニホンジン、ハタラカナイデスネー」と言われた社畜の憂鬱

マイナビニュース / 2024年11月4日 17時18分

しかし、日本人が全員私レベルになるということは電車が定時に来ない世界の到来とも言える。

むしろ今までの勤勉さが狂気であり、それが弛緩してきたのは良いことなのかもしれないが、狂気のおかげで我々の便利な生活が成り立ってきたともいえる。

今後は人力マッドパワーに頼らずとも便利な生活を実現させる技術やシステムの方が重要ということだろう。

しかし、私から見れば、日本人はまだまだ勤勉であり、みんなよく働いているように見える。

一体、どこで誰に日本人は働かないと評されたかというと、熊本にTSMCという、有名な台湾の半導体企業の工場が建てられ、現地で人材を激しく募集しているが、それが難航し、離職者も多いことからTSMCに「日本人は想定より働かない」と評されたことがきっかけらしい。
○時代は会社でリゲインより自宅でエナドリなんだ

大体予想はつくと思うが、これは日本人が平均以下しか働かないという意味ではない。

日本人は無茶な労働に耐えると思っていたのに思ったより耐えないではないか、ということであり「死ぬまで殴っても死なないと聞いていたのに意外と死んだ」と嘆いているような感じである。

もはや日本の「社畜」は「忍者」や「侍」と同ポジであり、日本に行けばそこら辺を忍者や侍が歩いており、気をつけないとマキビシを踏むという勘違いが起こっていたように、「日本で求人をかければもれなく1日48時間働く奴が集まる」というイメージを持たれていたのかもしれない。

そういう板金と一緒に時空すら曲げる能力者を想定していたのに、8時間しか働かない上に、それを倍にしただけで辞める人間しか集まらなかったとなれば、「想定より働かない」という感想になるだろう。

また、現地はおらが村に世界的半導体企業がやってきて盛り上がっているが、逆に言えば、今まで地元から出たこともない工業高校卒の若者を世界的企業で働かせようと言うのが無理、という意見もある。

台湾で半年ほど研修を受けさせてからの勤務になるようだが、中国語はもちろん英語もできないであろう若者が、それで満足に技術習得できるはずがなく、そこで脱落する者が多いという噂もある。

そんな過酷な研修にも食らいついていくのが日本人、言葉は通じなくても根性、最終的に殴り合いにより分かり合っていくだろう、と思われていたのなら、やはり「想定以下」と言われるのは仕方ないだろう。

台湾の労働意識がみんなそうなのか、TSMCという会社がそうなだけなのかは不明だが、もしかしたら、台湾は今、日本でいうところのリゲイン期に来ており、数十年後には「台湾人は死んでも働くと聞いていたのに死んだら動かなくなった」と言われているのかもしれない。

日本人が働かなくなったというより、今までが働きすぎであり、日本の社畜イメージが海外に大げさに伝わりすぎている、という可能性はある。

また、昔の日本人が働きすぎていたのも、昔の日本人の方が勤勉だったからではなく、やればやるほど手ごたえを感じられた時代だったからというのもある気がする。

現在の日本はやる気を出したところで手ごたえが感じられず、むしろ搾取対象となり、手で空を掴みだす病(ビョウ)を発症してしまう恐れすらある。

そんな日本に対して現在台湾は好景気らしいので、やればやるほど成果がでるから昼夜問わず働こうと言っているのに、日本人がそれに全くノッてこないことに戸惑っているのかもしれない、

日本人が怠惰になったのか、それとも台湾人が今働きすぎになっているのかは定かではない。

しかし「うま味がないことに自分の時間や命を費やしたくない」という気持ちは人類共通なのではないだろうか。
(カレー沢薫)



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