私たちに与えられたすべての認識手段を用いて今を「考え抜く」にはどのような訓練が必要なのか? 荒川修作「BOTTOMLESS—60年代絵画と現存する2本の映画」
NeoL / 2021年4月8日 12時0分
Arakawa, BOTTOMLESS No. 1, 1965, ink and oil on canvas, 149.7 x 120 x 2.5 cm
© 2020 Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins
SCAI THE BATHHOUSE(谷中)とSCAI PARK(天王洲)に続く第三の展覧会場として、現代アートシーンのさらなる交流と進展を育む企画展スペースSCAI PIRAMIDE(六本木)がオープン。ギャラリーの既存の枠組みを超え、新たな切り口を提示をすることで時代に即したコンテクストの更新を図ることを目指す。
初回は没後10周年を経て再評価の高まる荒川修作の初期作品を取り上げる、荒川修作「BOTTOMLESS—60年代絵画と現存する2本の映画」。過去の価値観や理解の体系が見直しを迫られるなか、私たちに与えられたすべての認識手段を用いて今を「考え抜く」にはどのような訓練が必要なのか? 荒川の絵画は、イメージと知覚、思考が集合する場として機能し、自然科学と哲学のエクササイズを通じてこの問いに答えようとする。不完全な理解という蒙昧な霧の中で、異なる認識の次元を束ねる羅針盤として、まだ見ぬ覚醒の地平線を望むことがそこに企図されていた。その試みは今日の現実を受け入れることでさらに更新され、新たな解釈に向かって開かれていく。
平面作品《BOTTOMLESS No. 1》(1965年)では、上下に引き伸ばされ底部が開いた立方体が描かれている。フリーハンドで引かれた図形は、得体のしれない巨大な装置のようであり、血液や精神の内部が流れ出てしまう身体を意味すると言われている。鑑賞者を導き入れる矢印や機械的なダイヤグラム、日常のイメージやタイポグラフが配された「図形絵画」の多くは、大きなキャンバスに描かれ、身体的に知覚し思考できるように作られている。このシリアスな厳格さと奇妙な仕掛けの狭間に、見るものは新たな認識の開発へと促されていく。
マドリン・ギンズとの共同制作となる二本の実験映画は、こうした平面における知的な探求に時間軸を加えた情念的な表現の模索と考えられる。《Why Not (A Serenade of Eschatological Ecology)》(1969年、110分)では、裸の女性が部屋にあるドアやテーブルと格闘し、閉鎖空間における身体パフォーマンスのように存在のあり方を問うが、《For Example (A Critique of Never)》(1971年、95分)では、その主題をさらに突き詰め、ニューヨークの路上を徘徊するホームレス少年の身体と周囲の環境の変化を記録し、荒川+ギンズのテキストを繰り返し重なり合わせている。
キャンバスに、そしてスクリーンに飛び交う記号論的なアイデアの数々――。当時まだ30歳前後の若きアーティストが投げかけた問いの作法は、鑑賞者の知覚を揺さぶり、新たな理解の手段を開発する可能性に向けられていた。それは難解な言葉による認識の手続きさえも巧みにかわし、意味という現象の総体を掌握しようとする。荒川の試みは、世界の分断と二極化が進みこれまでの体制が機能しなくなった混迷の時代にこそ、相応しいと言えるのかもしれない。
「私達は願う――未来の世代がこのユーモアをとらえ、彼らの思考モデルと逃走ルートの構築のために役立ててくれることを!」*
* 大坂絋一郎訳、荒川修作とマドリン・ギンズによる共著『意味のメカニズム』序文より引用|日本語版:1979年ギャラリーたかぎ出版
Arakawa, My properties, 1969, acylic, felt tip pen, ink and pencil on canvas,123.5×183.6×2.4cm
© 2020 Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins
Arakawa, Film-still from For Example (A Critique of Never), 1971, black and white 16mm film transferred to DVD, 90 minutes
© 2020 Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins
Arakawa, Film-still from Why Not (A Serenade of Eschatological Ecology), 1969, black and white 16mm film transferred to DVD, 110 minutes
© 2017 Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins and Reversible Destiny Foundation
荒川修作
1936年名古屋市生まれ。2010年ニューヨークにて逝去。1960年に吉村益信、篠原有司男、赤瀬川原平らと前衛芸術グループ「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」を結成するも、同年に離脱。1961年に渡米。翌年、共同制作者でありパートナーともなるマドリン・ギンズと出会い、ニューヨークを拠点に活動を始める。1968年ドイツ・カッセルで開催された国際展「ドクメンタIV」に参加、1970年「第35回ヴェネチア・ビエンナーレ」では日本館代表として「意味のメカニズム」シリーズを発表し、世界的に注目を集める。1977年には大規模個展がクンストハレ・デュッセルドルフを皮切りにヨーロッパを巡回し、同年、再び「ドクメンタVI」(カッセル)に招かれる。1979年 日本では初めて、ヨーロッパ巡回展に準ずる本格的な個展が西武美術館(東京)で開かれる。そのほか日本での主な個展に、1979年「意味のメカニズム」国立国際美 術館(大阪)、1990年「荒川修作展―宮川淳へ」東高現代美術館(東京)、1991年「荒川修作の実験展―見る者が作られる場」東京国立近代美術館(京都国立近代美 術館ほか巡回)など。また、1997年には日本人として初めての回顧展がグッゲンハイム美術館(ニューヨーク)で開催された。建築作品に1995年《養老天命反転地》(岐阜)、2005年《三鷹天命反転住宅》(東京)、2008年《バイオスクリーブ・ハウス》(ニューヨーク)などがある。作品はメトロポリタン美術館(ニューヨーク)、ニューヨーク 近代美術館、テート・モダン(ロンドン)、ポンピドゥー・センター(パリ)など世界中の美術館に多数収蔵されている。
荒川修作 BOTTOMLESS—60年代絵画と現存する2本の映画
2021年4月22日(木) - 5月29日(土)
12:00 - 18:00
日・月・火・水・祝日 休廊
SCAI PIRAMIDE(スカイ ピラミデ)
106-0032 東京都港区六本木6-6-9ピラミデビル3F T: 03-3821-1144
info@scaithebathhouse.com
www.scaithebathhouse.com
※ご来廊の際は、弊社 HP の最新情報をご確認ください。 また、状況により入場制限を行う場合がございます。ご了承ください。
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