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「バイバイって別れた瞬間の孤独みたいなものも映っているし、きれいごとだけじゃないというばななさんの物語の良さもちゃんと描いてある」小松菜奈&臼田あさ美『ムーンライト・シャドウ』インタビュー

NeoL / 2021年9月22日 17時0分

「バイバイって別れた瞬間の孤独みたいなものも映っているし、きれいごとだけじゃないというばななさんの物語の良さもちゃんと描いてある」小松菜奈&臼田あさ美『ムーンライト・シャドウ』インタビュー



瑞々しくも鋭い筆致で、人や恋愛の機微、そして喪失と前進を描いた吉本ばななによる短編小説「ムーンライト・シャドウ」。30年以上前に発表されながら今も各国でファンを増やし続けるその名著をもとに、マレーシア出身のエドモンド・ヨウ監督が骨子や漂う白日夢のような空気はそのままに世界を拡張させ見事に映像化を果たした。主人公・さつきに小松菜奈、さつきの恋人・等役に宮沢氷魚、等の弟である柊役に佐藤緋美、柊の恋人・ゆみこ役に中原ナナ、キーパーソンとなる麗役に臼田あさ美を迎えた本作は、観る者の想像力や考える力を信じて託す、総合芸術としての映画の力を感じられる傑作。長編映画単独初主演となった小松と、幻想的な水先案内人に挑んだ臼田は本作をどのように捉えたのか。


――登場人物たちがみんなちょっとずつ生きづらさを抱えていながら、それぞれに違いを認め尊重し合っている様が本当に素晴らしかったです。エドモンド監督はあまりキャストと話しをせず、どういう人物かを役者に考えてもらうというやり方だったそうですが、お二人はご自身の役柄をどのように考えられましたか。


臼田「麗を理解するのは本当に難しかったです。最初はこの人物を全て理解したうえで演じないといけないと思っていたのですが、原作を読んでも脚本を読んでもあまりに余白がありすぎて理解が難しくて。エドモンド監督からは麗に関する覚え書きのようなものをいただいて、気になることや質問があれば尋ねるというやり方だったんですが、麗は存在するかしないかすらわからないような人物なので、言葉で説明を受けて、その人物像を意識して現場に入るのも何か違うんじゃないかと感じたんですね。そこで事前にこうでなくてはいけないというルールをあまり決めずに現場に臨んだんです。いざ現場に入ってみたら、私がどう理解するかは重要じゃないと感じて。私が役の中でどう思うかではなく、この役を通してどれだけ他の人の気持ちに変化に繋がることができるか、どう思われるかという他者への作用の方が大事な役だと感じたので、そこでの流れを大切につくっていきました。だから、今でも麗は説明できない人物だと感じています」


――ヘアメイクや衣装は幻想的だけど、話し方は生っぽいところがあるというバランスがとても好きでした。


臼田「ありがとうございます。衣装も思っていたものと全く違っていたし、コンセプトがあるヴィジュアルだったので、心情を追う作品の中では邪魔になるんじゃないかと不安になったんですが、現場に入ったら、造形的な意味ではなく、みなさんが画として強いものを持っているから大丈夫だなと思えました。カメラが回ってない時にみんなと話していて、ふと鏡を見て自分の姿にビックリするということはありましたが(笑)、変に色々と作り込もうという意識は私もエドモンド監督もなかったですね」







小松「私も、登場人物一人ひとりがみんな個性を持っているから、その心情のまま起こったことに対して正直でいたいという気持ちがありました。エドモンド監督はさつきをもう少し変わった子に描きかったようで、ラクロスを練習している人たちの真ん中を通って帰ってほしいという要望もあって」


臼田「そうなの!?」


小松「そうなんですよ(笑)。ラクロスの練習をしてる中を通るわけないというか、少なくとも私には難しいことだなと思いました。でもそれはそれで面白い人物像ではある。そういう風にエドモンド監督が思い描いてるさつきと私が描いているさつきが全然違ったのですが、エドモンド監督は『演じるのは菜奈だから好きなようにしていいよ、でも僕はこうしたい』というスタンスで私の意見を柔軟に受け止めてくれました。『猫の名前も菜奈が決めていいよ』と言ってくれて。
そのうえで、本読みも一人ひとり念入りにやって距離感を掴んでいきました。誰といるかで見せる顔も違うので、私は正直にその場にいて、相手との距離感も大事にしながらちゃんと演じていきたいと思っていました。ただ、あさ美さんが演じる麗とは急な出会いでもあるし、特にラジオの場面は、やっとそこで話すことができる、全ての感情が漏れるという本当に大事にしたい箇所だったので、エドモンド監督に話して本読みはしなかったんです。麗は神秘的な存在なので、流れを掴んでお互いにこうするんだろうなとわかってしまうより、現場で初めてわかることや感じるものを大切にした方が絶対に良い流れが作れると思いました」







――ラジオのシーンは本当に胸が痛くなりましたし、走って咆哮のように泣くシーンも切実な感情が伝わりました。泣く演技は得意ではないとおっしゃっていましたが、本作での泣く、食べる、走るという肉体と精神が結びついた演技は見事でした。


小松「自分がその感情を理解できないと涙が出ないんです。正直、全く心情が理解できないけど無理に気持ちを持っていって泣くこともありますが、今回のさつきのラジオのシーンは、逆にト書きには泣くとは入ってなかったけど自分の判断で演じました。知らない人にだからこそリアルに話せることってあると思うんです。さつきにも多分そういう部分があって、柊とは隣にいて何もしゃべらなくてもお互いに失った者の辛さを共有できるんだけど、感情を一番出せるのは麗の前だろうなって。エドモンド監督はあのシーンはもっと淡々としたイメージだったそうですが、さつきの中で悶々としていたものが揺れ動き、ようやくスッと出せるところがあるとしたらあそこなんじゃないかと思ったので現場でやってみたんです」


――お聞きしていると、エドモンド監督は本当にキャストに主体性を持たせて撮っていたんですね。


小松「そうですね。気になったところは話すけど、とりあえずやってみてということも多々ありました。エドモンド監督は日本語をわかっていると思うのですが、あえて喋らないんですよ。でもいつもすごく楽しそうに現場にいらっしゃるので穏やかな現場でした」







――現実と夢の狭間のような独特のトーンの映画なので、このトーンがすでに現場から作られていたのかも気になりました。


臼田「私も最初はそれが気になっていて。自分の存在は、現場で菜奈ちゃんと関係性が出来上がらないほうがいいのかなと思って、菜奈ちゃんに一度訊いてみたんです。そしたら、全然そんなことないです、気にかけてくれてありがとうございますと言ってくれて。結果的に、待ち時間にはどうしても話しちゃうし、段々とみんなと人間同士として距離も縮まってしまったんですね。でもその信頼や愛情というのがありながら、撮影が始まると一気に別の空気が流れるというみんなの集中力がすごくいい方向に向かったなと思います。いつも見ている顔と違う顔でお芝居が始まるとハッとするんだけど、ずっとあの状態を保つのはしんどかったから、いい意味で崩れる時は崩れて、カメラの前ではみんなちゃんと集中できていたというのが印象的な現場でした」


小松「重い題材でもあるので、現場が暗いととんでもないことになっちゃう(笑)。なので切り替えは必要だったと思います。そもそもエドモンド監督が軽やかで、すごく可愛らしいキャラクターだったんですよ。漫画が大好きなので、漫画の擬音言葉を使って何か言ってきたりとか(笑)。それだけで笑いが起きていました。でもみんなそれぞれにスイッチがあったので、現場でスタートとなったらモードに切り替わる。そういう空気や緊張感も映っていたなと思います。特に月影現象で会いたい人を話すシーンは、それぞれ課題を与えられて考えてくるというものだったから、みんなの緊張感がすごく漂ってましたよね。自分ではなくて役が言うことだし、何を言おうかなって。それでもみんな自分の経験上の話をしたり、それをうまく役に乗せたりということをしていて面白かった。私は物語を匂わせすぎてカットされちゃいましたけど(笑)」







――昨今の日本映画はわかりやすい作品が増えていますが、今作は観る者に委ねるような作り方をされていて、それが文化としてとても豊かだと感じました。この作品を観る側に立って、または役を通してでも、得たものがあれば教えてください。


臼田「原作は言葉の美しさだったり、人の心情が丁寧に描かれているところが魅力的だと思ったんですが、それが映画になった時に、言葉はもちろん美しいんだけど、こんなに人の顔だけで説明ができるんだと感動したんです。目や表情など、画から伝わってくる気持ちがこんなにもあるんだ、原作があるものを映画にするというのはこういうことなんだなと改めて思いました。映画の良さというのをちゃんと感じられる作品を作れたと思います」


小松「あさ美さんがおっしゃる通り、言葉だけじゃないものがこの映画の中で本当に美しく切なく描かれていると思います。バイバイって別れた瞬間の孤独みたいなものも映っているし、きれいごとだけじゃないというばななさんの物語の良さもちゃんとある。ばななさんの言葉は一つひとつにすごくエネルギーがあるんだけど、それをエドモンド監督が解釈して映画にした時に、言葉だけじゃない繊細な心の動きが漏れ出していたし、人間としての悲しみや怒り、孤独、叫びも伝わってきたので、言語が違う海外の方にもきっと伝わるんじゃないかと思いました。今の時代に生きる中で大切なテーマを描いていて、画的な部分だけじゃなく、音楽だったり様々なところにこだわりもあるので、大きなスクリーンで観てその世界観に没頭してもらいたいです。やっぱり映画っていいなあと思える作品です」



photography Yudai Kusano(IG)
text & edit Ryoko Kuwaharam(T / IG)



『ムーンライト・シャドウ』
全国公開中
http://moonlight-shadow-movie.com
原作:「ムーンライト・シャドウ」吉本ばなな(新潮社刊『キッチン』収録作品)
出演:小松菜奈 宮沢氷魚 佐藤緋美 中原ナナ 吉倉あおい 中野誠也 臼田あさ美
監督:エドモンド・ヨウ
脚本:高橋知由
宣伝:S・D・P  配給:エレファントハウス
©2021映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会
公式Twitter: @moonlight_sdw  https://twitter.com/moonlight_sdw
公式Instagram:@moonlight_sdw https://www.instagram.com/moonlight_sdw/


Nana Komatsu
earing Abstract Star(WG×Diamond) ¥715,000 /TASAKI
ring Abstract Star(WG×Diamond) ¥632,500 /TASAKI


INFO :TASAKI 0120-111-446





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https://www.neol.jp/movie-2/

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