『エッフェル塔〜創造者の愛〜』 マルタン・ブルブロン監督来日インタビュー
NeoL / 2023年2月22日 17時0分
パリの街を想像するとき、まず何よりもエッフェル塔の姿を思い浮かべる人は少なくないだろう。3月3日から全国で公開される映画『エッフェル塔〜創造者の愛〜』は、フランス国民だけでなく世界中の人々に愛されてきたモニュメントの生みの親であるギュスターヴ・エッフェルを主人公に、塔の誕生秘話とそこに隠されたロマンスを史実とフィクションを交えて描いた感動作だ。主演はフランスを代表する名優ロマン・デュリス。ギュスターヴの人生において大切な存在であるアドリエンヌ役を、映画『ナイル殺人事件』やNetflixのドラマシリーズ『セックス・エデュケーション』のエマ・マッキーが演じた。ここでは、昨年12月に横浜で開催されたフランス映画祭2022横浜のオープニングを飾った本作について、初来日を果たしたマルタン・ブルブロン監督に聞いた。
――『エッフェル塔~創造者の愛~』には、ラブストーリーはもちろん、一人の優秀なエンジニアの飽くなき挑戦が深く描かれていて、とても引き込まれました。作品の構想は20年以上前からあったそうですが、監督はどの段階で参加したのですか?
マルタン・ブルブロン監督「おっしゃる通り、本作は20年以上前から動いていたプロジェクトです。私は2017年に参加したのですが、その時点ですでに進行していました。カロリーヌ・ボングランさんという方が初稿をはじめとするいくつものバージョンの脚本を手がけられていて、初めて読んだときに本作のテーマがとても気に入りました。これまで映画でエッフェル塔の建設の物語が描かれたことはなかったですし、それを壮大なラブストーリーと組み合わせているところが面白いと思ったんです。ですので、カロリーヌさんと他の脚本家たちと共に、今回の映画の元になるバージョンの脚本作りに参加しました」
――本作の前はコメディ作品などを手がけてきたそうですが、フランスを象徴するモニュメントの一つであるエッフェル塔をテーマにした大作に挑もうと思ったのはなぜですか?
マルタン・ブルブロン監督「まさに、これまでとは違うジャンルへの挑戦であることに魅力を感じました。映画監督として、これまでとはまったくカラーの異なる作品に挑戦したかったんです。私はコメディ映画で知られていたのですが、本作のオリジナルの物語がとても面白いと思いましたし、若手の監督として時代劇に挑戦することにも興味を持ちました。一つの知的なチャレンジとして、良い経験になったと思っています」
――キャスティングについてお聞かせください。ロマン・デュリスは作品毎にさまざまな表情で映画ファンを魅了し続けていますが、彼に主人公のギュスターヴ・エッフェル役をオファーした理由は?
マルタン・ブルブロン監督「おっしゃるように、ロマン・デュリスはカメレオン的な俳優で、私も彼のそのような魅力が大好きです。本作ではかなり早い段階で声をかけましたし、フランス人俳優の中では彼にしか話をしませんでした。他の候補者は考えずに、最初から彼を想定していたんです。というのも、演技のパレットが多彩な人ですし、カリスマ性があって、ロマンティックな一面もあり、時代劇の衣装もきちんと着こなすことができる人ですから。早い段階で声をかけて脚本を読んでいただき、オファーを受けていただきました」
――アドリエンヌ役のエマ・マッキーも素晴らしかったです。Netflixのドラマシリーズ『セックス・エデュケーション』のメイヴ役を演じた彼女にフランスのルーツがあることを知らなかったので、大変驚きました。国民的俳優のロマン・デュリスに対して、アドリエンヌ役にフレッシュな俳優をキャスティングしたのはなぜですか?
マルタン・ブルブロン監督「エマは確かにロマン・デュリスと比べると知名度は低いですが、アドリエンヌはエッフェル塔という有名なモニュメントの背後にいる女性ですので、まだあまり知られていないフレッシュな俳優であることが重要でした。彼女がフランス人であるということは多くの人にとって驚きだと思うのですが、実はフランス生まれでフランスとイギリスのミックスなんです。Netflixのシリーズによって、すでに一部では国際的に知られていますし、そういったすべての要素のコンビネーションが今回の役にぴったりだと思いました。ある意味、一目惚れ的に決めたんです」
――アドリエンヌとギュスターヴのケミストリーが本当に素晴らしいですね。現場ではどのようなディレクションをされたのですか?
マルタン・ブルブロン監督「確かスピルバーグの言葉だったと思うのですが、“監督のアーティスティック・ディレクションの最も大切な部分はキャスティングで決まる”というような意味のことをおっしゃっていて、本当にその通りだと思うんです。つまり、シチュエーションに合った良い俳優がそろっていると、撮影現場では複雑な演技指導があまり必要ありません。心を込めた誠実な演技や自然な演技を心がけるということが、私たち全員の共通認識でした。本当にシンプルにそれだけだったんです。特にそれが表れているのがラブシーンだと思うのですが、2人とも非常にプロフェッショナルで自然な演技をしてくれました。とても素晴らしいカップルだったと思います」
――エッフェル塔に関する事実と、それを元にした仮説を組み合わせた物語を作る上では、かなりの調査が必要だったのではないでしょうか。エッフェル塔についてリサーチする中で、最も驚いた発見は何ですか?
マルタン・ブルブロン監督「調べていく中で驚いたのは、映画にも描いたアドリエンヌの若い頃の出来事です。そしてもう一つは、ギュスターヴがエッフェル塔の計画に否定的だったということ。ところが彼は急に意見を変えており、それ以降は情熱を持ってプロジェクトに取り込んでいました。それを元に私たちが立てた仮説を描いたのが本作なのですが、エッフェル氏は48時間で意見を変えたそうで、そこには必ず映画になるストーリーがあるはずだと考えたのです。フランス人はロマンスが好きなので、私もロマンティックな想像をしました(笑)」
――ラブストーリーだけでなく、ギュスターヴのエンジニアとしての物語も興味深かったです。エッフェル塔を実物大で再現した美術とVFXを駆使して描かれた建設現場のシーンは、足場の描写がとてもリアルでハラハラしてしまいました。
マルタン・ブルブロン監督「怖がっていただけて良かったです(笑)。エッフェル塔の建設の物語において、当時の労働者の視点から描くことは技術的に大きな挑戦でした。今の日本は高層建築が有名で技術も発達していると思いますが、想像していただきたいのは、エッフェル塔が建設されたのは1世紀前だということ。あの時代に300メートルの建築物を作るということは、大きな危険を伴う大変なことだったわけです。特に映画の後半の建設現場のシーンは、当時の労働者の視点から、今のようなセキュリティのない現場での感覚を観客に味わっていただくことが1つのチャレンジでした」
――すごいことですよね。実際にエッフェル塔の建設中に命を落とした人は、一人しかいなかったそうですね。
マルタン・ブルブロン監督「そうなんです。しかも、その方は建設中ではなく、仕事が終わった後、夜になって恋人に高い足場を見せようとして亡くなってしまったそうです。ですので、労働時間内に亡くなった人はいなかったそうですよ」
――本作はフランス映画祭2022横浜のオープニングを飾りましたが、日本のオーディエンスの前で上映してみて、どのような印象を持たれましたか?
マルタン・ブルブロン監督「私だけでなく、フランスから来日した映画祭の代表団の誰もが、各自の映画を日本の皆さんに紹介することができて非常にうれしく思っているはずです。その中でも映画祭のオープニングに選ばれたことはとても光栄に思いますし、日本の皆さんに本作が愛されることを願っています。エッフェル塔は日本からの観光客の方々にとても愛されているモニュメントなので、私も本作を撮りながら日本の皆さんに思いを馳せていました。本作を日本で紹介するのは個人的にもとても重要なことなので、今回が初の国際プロモーションとなりました」
――最後に、これから映画を観る日本の映画ファンにお伝えしたいことはありますか?
マルタン・ブルブロン監督「最近はスマートフォンをはじめ、家で観られるプラットフォームで映画を楽しむ機会が増えています。でも、この作品はぜひ映画館に足を運んで観ていただきたいです。本作の壮大な世界観は小さなスマホで観るより大きなスクリーンで観た方が見応えがありますし、劇場でこの感動を分かち合っていただけたらうれしいです」
text nao machida
『エッフェル塔〜創造者の愛〜』
3月3日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
https://eiffel-movie.jp
出演:ロマン・デュリス、エマ・マッキー、ピエール・ドゥラドンシャン、アレクサンドル・スタイガー、アルマンド・ブーランジェ、ブルーノ・ラファエリ
監督:マルタン・ブルブロン 脚本:カロリーヌ・ボングラン 音楽:アレクサンドル・デプラ 撮影:マティアス・ブカール 編集:ヴァレリー・ドゥセーヌ 美術:ステファン・タイヤッソン
2021年│フランス・ドイツ・ベルギー│フランス語│108分│シネスコ│原題:EIFFEL│字幕翻訳:橋本裕充│R15
配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ © 2021 VVZ Production – Pathé Films – Constantin Film Produktion – M6 Films
【STORY】アメリカ〈自由の女神像〉の制作に協力したことで大いなる名声を獲得した、ギュスターヴ・エッフェル(ロマン・デュリス)。世間では3年後の1889年に開催される「パリ万国博覧会」の話題でもちきりだった。そのシンボルモニュメント制作のコンクールには全く興味のなかったエッフェルだが、パーティーの席で大臣から強く参加を要請される。さらに、久しぶりに再会した友人で記者のアントワーヌ・ド・レスタック(ピエール・ドゥラドンシャン)の妻・アドリエンヌ(エマ・マッキー)から「大臣と同感です。ぜひ見てみたい。野心作を」と言われたエッフェルは突然、「ブルジョワも労働者も皆が楽しめるように、パリの真ん中に300mの塔をすべて金属で造る」と宣言する。実は初対面のふりをしたレスタックの妻は、エッフェルにとって忘れられない女性だった――。
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