「完璧な瞬間」でありながら遠い場所のドキュメント。山内 聡美 写真展「WHEREABOUTS」
NeoL / 2023年5月18日 12時0分
山内聡美は音楽、ファッション、その他カルチャー誌などへの様々なコミッションワークを行いながら、自身の作品を10年以上に渡り発表してきた。近年は、現在拠点にしている東京をはじめ、幼少期を過ごしたフロリダや静岡などの様々な土地で撮影を行い、時代を感じさせる古びた看板や造形物、偶然でくわした少しおかしな状況や、人の気配のない建造物などを主なモチーフとしている。それらの写真は被写体の存在感が写実的に捉えられており、淡白なドキュメントのような表情も持ちながら、ノスタルジックかつ非現実的なイメージが表現されている。
また、山内が近年取り組む作品に、スマートフォン画面のスクリーンショットを元に制作しているシリーズがある。素材となっているのはAIカメラによって道に沿って無感情にスキャニングされ、場所の情報を伝えるという実用的なインターネットツールとして無数に存在する画像だが、時に構図や色のバランスが偶然的に整った、山内にとっての「完璧な瞬間」に出会う。この作品シリーズは、山内自身の幼少期の朧げな記憶を元にアナログカメラで撮影した過去の写真作品と、インターネットのマップ上に無数に存在する画像をリンクさせ、インターネット上で発見する「完璧な瞬間」にどこかノスタルジーを感じながらキャプチャーしていくことから始まっているが、その懐かしさは本物の記憶とどこで結びついたものであるのか定かではない。そして、それらのキャプチャーされた画像に対面した鑑賞者は、写真が撮影された背景に想像を広げ、撮影者が写真に収めたノスタルジックな感情を読み取ろうとするかもしれない。そこに説明がない限り、もしくは鑑賞者が注意深く鑑賞しない限り、単なる「綺麗な景色を写した写真」として受け止められ、そして多くは見過ごされ、ドキュメントされた写真・鑑賞者の間には大きなすれ違いが生じている。
今回発表する作品の素材となっている画像も山内にとっては何の縁もなく、訪れたこともない異国の風景で、スマートフォンの画面をスワイプさせるような淡々とした印象で並べられている。ギャラリーに訪れた鑑賞者は、まず作品を一目見て、やはり綺麗な風景写真として捉えるだろう。そこから撮影 者の意図を読み解こうと注意深く写真を鑑賞するかもしれないが、その写真が撮られた日付や場所は鑑賞者には明らかになることはなく、場所や時間が分からない以上、現在・現実の場所の情報を伝える インターネットツールの画像という本来の意味からも離れてしまっている。展覧会タイトル 「WHEREABOUTS」とあるように、本展覧会の作品は特定の場所や時間を示さず、それらの写真は我々の感情にどこか軽い揺さぶりをかけるものではありながら、鑑賞者から非常に遠い場所のドキュメントとして残されている。そして、これらの作品は現実世界の出来事と、それらの情報を手のひらに入る スマートフォンの中で無限に手に入れることになった現代人のあり方を示しているようでもある。
山内 聡美 | Satomi YAMAUCHI
1985 年神奈川県生まれ。幼少期の8年間をアメリカで過ごす。2009年よりフォトグラファーとして活 動開始。クライアントワークと並行して、自身の作品制作も精力的に行っている。
8歳まで暮らしたアメリカ/フロリダ州の小さな町ベロ・ビーチを21年振りに訪ね、撮影した写真展 “THIS MUST BE THE PLACE” (2014) を gallery 360°にて開催。その続編として、同じくフロリダ州にあ るディズニーワールド内に存在する、ウォルトディズニーが作った理想的なアメリカの住宅街を題材に した写真展 “Celebration” (2015) を gallery 360°にて開催した。パームツリーをモチーフとした南洋幻想を題材にした “Post Palmtree” (2017, Cale)、スマートフォン画面のスクリーンショットを元に制作し “ARTIFICIAL SENTIMENT DRIVE”(2022, gallery 360°)を昨年 2022 年に開催。
個展 | Solo Exhibitions
2022 “ARTIFICIAL SENTIMENT DRIVE” gallery 360°, Tokyo
2017 “Post Palmtree” solo exhibition, Cale, Tokyo
2015 “Celebration” gallery 360°, Tokyo “THIS MUST BE THE PLACE” gallery 360°, Tokyo
2014 “you were here” gallery 360°, Tokyo
山内 聡美 | Satomi YAMAUCHI Solo Exhibition
「WHEREABOUTS」
2023年5月20日(土) –6月18日(日) オープニングレセプション:5月19日(金) 18:00-21:00
Open: Wed – Sun 14:00 – 19:00 Closed:Mon, Tue, Holidays
parcel 東京都中央区日本橋馬喰町 2-2-14 まるかビル 2F
www.parceltokyo.jp
関連記事のまとめはこちら
https://www.neol.jp/art-2/
外部リンク
- 科学、物語、地元の人々との交流、気象データを融合させた、エレナ・ノックス 個展 「あざらし話」
- 資本主義の後の世界「ポスト・資本主義」との向き合い方について提示。ステファン・ブルッゲマン、オリオール・ヴィラノヴァによる展覧会「Economy and Love」
- 「完璧な瞬間」でありながら遠い場所のドキュメント。山内 聡美 写真展「WHEREABOUTS」
- Apple社のオリジナルマグカップに採用され注目を集めたHASAMI PORCELAINによるART MUG 第二弾、写真家・平野 太呂とコラボレーション
- 藝大アーティストが考える「アートと神」とは? 藝大アートプラザ 企画展「藝大神話ーGEISHIN」開催
この記事に関連するニュース
-
KEISUKE SAKAI 初の個展開催!新たな原画・大型作品が渋谷に登場。限定グッズも販売
PR TIMES / 2024年7月18日 12時0分
-
tHE GALLERY HARAJUKUにて、7月12日(金)より、五十嵐 岳による個展「GAKU」を開催。
PR TIMES / 2024年7月11日 10時15分
-
記憶の奥底で意味が剥がれ落ちた後に浮かび上がるもの。オートモアイによる個展「わたしと地獄をつなぐ透明な糸」
NeoL / 2024年7月3日 20時0分
-
【LOVUS gallery】IRIS SAKAIによるSolo Exhibition "ALL I NEED"を開催
PR TIMES / 2024年7月1日 13時15分
-
オートモアイによる個展「わたしと地獄をつなぐ透明な糸」を2024年7月3日(水)よりアートかビーフンか白厨(六本木)にて開催
PR TIMES / 2024年6月25日 18時15分
ランキング
-
1去勢された「宦官」は長寿集団だった…女性の寿命が男性よりもずっと長い理由を科学的に解説する
プレジデントオンライン / 2024年7月18日 8時15分
-
2結婚相談所は知っている「いつまで経っても、結婚できない男女の“意外な問題点”」
日刊SPA! / 2024年7月18日 15時50分
-
3iPhoneは「128GB」か「256GB」どちらを買うべきですか?【スマホのプロが解説】
オールアバウト / 2024年7月16日 21時25分
-
4ロシア軍の対空ミサイルを「間一髪で回避」ウ軍のドローンが“マトリックス避け”を披露 その後反撃
乗りものニュース / 2024年7月17日 11時42分
-
51日5分で二重アゴ&首のシワを解消!魔法の顔筋トレ「あごステップ」HOW TO
ハルメク365 / 2024年7月17日 22時50分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)