刑務所で服役する受刑者たちの芸術表現を通して、刑務所の中と外、加害と被害を超えた対話について考える。第二回「刑務所アート展」が北千住で開催中
NeoL / 2024年3月26日 15時0分
東京・北千住にあるアートスペースBUoY(https://buoy.or.jp)で現在開催されている「刑務所アート展」。奈良県立大学地域創造学部講師の風間勇助を中心とした任意団体Prison Arts Connections(以下PAC/https://pac-j.com)が運営しているこの展示は、昨年2月に初めて開催され、本展で二回目を迎える。
全国の受刑者たちから詩や短歌、俳句、川柳、絵画、漫画、書、エッセイ、小説などの多岐にわたるアート作品を募集・展示し、審査員および作品を見た来場者のコメントを応募した受刑者に返すことで、「壁」で隔てられた刑務所の内と外の交流を促すことを目的とした本展。司法の場やマスメディアとは異なる方法で、犯罪やその回復をめぐるコミュニケーションを可能にする試みだ。使用できるペンや筆などの文具の制限が設けられている刑務所内で、受刑者たちが生み出した渾身の作品群を見ていると、彼らのそこでの生活や環境に思いを馳せずにはいられない。
PACが取り組んでいるアートを媒介として刑務所内外の対話を促すという試みは、イギリスの慈善団体Koestler Arts(ケストラー・アーツ/https://koestlerarts.org.uk)をモデルとしたものだ。毎年イギリス全土の被収容者を対象とした大規模な公募展を行なう彼らは、驚くことに60年もの間続いている団体だという。応募作品への「フィードバック」を重視し、7000点以上集まる応募作品の95%に対して審査員からのコメントを返している彼らにならって、アートを通した「対話」を最重要事項としている本展。出品された作品はすべてオンライン上のギャラリー(https://pac-j.com/gallery/)でも閲覧とコメントが可能だ。
会場に展示されている作品にはすべて、作者本人からの作品を作った背景やそれに込められた想いが綴られている。〈雅凰(がおう)〉のペンネームで出品された「雨だれ石を穿つ」の漢詩をしたためた書には、こうコメントが添えられた。「ここでは世界の一部でさえないと思える日常が続く。何を成すにも障壁は施設を取り囲むそれよりも遥かに高い。無期囚の私の努力など、石に降り注ぐ雨粒ほどでしかなく、ついに明日をも見失いがちだが、信念をもって、生き直しを図りたくて、この漢詩を詠みました」。そんな想いが込められた書は、《マケテタマルカ》と題されていた。
長谷川敏彦作品群
本展では、今回応募された作品のほかに、実際に自身の芸術表現を通して被害者遺族と対話をしてきた死刑囚たちの作品も展示されている。元死刑囚の長谷川敏彦氏が事件後、殺害された被害者の兄にあたる原田正治氏に宛てた手紙とともに送り続けていたという絵画作品群。使用できるボールペンの色が黒しか認められていなかった拘置所で、長谷川氏が取り組んだ作品はどれも極めて緻密なタッチで描かれている。のちに長谷川氏との面会も果たした原田氏。残された遺族として加害者との対話を続けたいという思いから、死刑執行の停止を法務省に訴えていたが願いは叶わず、2001年に長谷川氏の刑は執行された。「僕の悲痛な叫びを正面から受け止めてくれるのは、長谷川くんしかいないのではないかという漠然とした予感がありました」と、原田氏は自身の著書『弟を殺した彼と、僕。』(2004年)で心境を綴っている。
受刑者による真に迫る作品の数々を見ていると、彼らと刑務所の外にいる私たちとの境界線が曖昧になってくる。彼らにも人生があり、葛藤があり、浪漫があるのだという当たり前のことに気づかされるのだ。刑務所のなかのことを社会から断然されたもの、自分とは全く無関係のものとして捉えるのではなく、誰もが加害者にも被害者にもなりうることを想像しながら対話を重ねていく。この展示は、そんな社会のあり方を考えてみる絶好の機会なのではないだろうか。
第二回「刑務所アート展」
場所:BoUY https://buoy.or.jp
〒120-0036 東京都足立区千住仲町49-11
アクセス:東京メトロ千代田線・日比谷/JR常磐線/東武スカイツリーライン「北千住」駅出口1より徒歩6分、西口より徒歩8分
会期:2024/03/22(金)〜30(土)
開場時間:11:00〜19:00
入場料・期間内イベント参加費 無料
車椅子ユーザーの方へ
ご来場いただく際には、事前に以下のメールアドレスにご連絡いただけますと幸いです。
info.prisonartsconnections@gmail.com
関連記事のまとめはこちら
https://www.neol.jp/art-2/
外部リンク
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