BALMUNG SS2025 Collection “movement / circle”
NeoL / 2024年9月6日 20時0分
BALMUNG S/S2025 Collection “movement / circle”
BALMUNG S/S2025 Collection “movement / circle”は、イメージとファッションが同義語ではないことを強く主張しています。私たちにはイメージに先立って身体があり、BALMUNG は人が自分のいるべきところにまさしくいることを証明するために、「i my me mine」を大手に振った“着るという常軌を逸した身振り”が存在することを明らかにしています。そしてそれのみがファッションにおいて「真実」であると告発するかのように、 S/S2025 Collection “movement / circle”は、一貫してその態度を実現する場であったと言えます。それは衣服だけに目を留めず、ショー全体の構成へ目を向けると明らかです。まず手元のスマホを使って、今回のショー会場で配られたリーフレット上の29人のキャストのQRコードを辿って、彼 / 彼女たちを訪ねてみてください。
彼 / 彼女たちが今まさに“ここに出現”します。彼 / 彼女たちは、 今や、恋愛、労働、婚姻、生殖といった社会的・生物学的な再生産の規範を支えるマッチングアプリ、人材派遣サービスといった空間では絶対的に出会うことのない、追跡不可能な越境的存在です。その中でもショーへ楽曲を提供し、キャストとしてもショーへ参加したvqは、ひときわ越境的な存在と言えるかもしれません。現在誰でもSNSを通じて自らの声を発信出来るにも関わらず、影響力に準拠した広告的システムによって、殆どの人が逆説的に声を奪われ、あるいはそのように錯覚するほどに個人の声は無力化されています。私たちが発した声は抑えつけられ壊され散り散りになり、連帯の理想は個人的な夢想であるかのようです。そういった感覚を代弁するかのようなvqの楽曲は切なく、しかし強く、何か予期的な領域を描くように、ショー会場に響きます。今私たちはインターネットの時代に生きていて、私と誰かとの距離、あるいは過去と現在の距離を、クリックひとつで繋げたり離したりすることができます。つまりすべてが同時代の“今ここ”にあり、時間が追い払われ物理的空間からも離陸したこの空間は、誰かや過去が誘発する差異化の力が散逸することなく漂い、多種多様なのアソシエーションが生み出される仮想的な苗床となっています。BALMUNGが彼 / 彼女たちと協同し、 S/S2025 Collection “movement / circle”を通して発現させたものは、そのような現実を拡張し越境する可能性そのものではないでしょうか。私と誰かの差異とは、 同化や偏見の原因ではなく、自分自身の生き方を自分でデザインするための余白です。また過去とは、レトロという言葉が示すような郷愁による同化の対象ではなく、過去を同時代に置き、現在 (あるいは過去) をフィクションとして扱う創造的な空間です。
あらゆるイメージは色彩と形の組み合わせによって作られています。ファッションもイメージを創造する領域である以上、その条件から逃 れることは難しいでしょう。ただし、現代においてイメージに本質を見出すやり方では、現代と本当に呼吸を交わすことのできるファッショ ンを創造することが難しくなっているかもしれません。例えばルッキズム、レイシズム、セクシズムなどは、色彩と形の差異への峻別に多 くが起因しています。それはつまり、イメージへの欲望が逆説的に生み出してしまう認知的な罠であり、その意味でイメージに本質を見出すような眼差しは、ファッションというムーブメントが推し進めてきた歴史的な歩みを退行させる恐れがあります。しかし、かつて欧米を中心としたモダニズムが色彩と形を洗練させることでたどり着いた美意識に、イメージの本質を見出す傾向はこれからの時代においても説得力を持つでしょう。なぜなら古くはギリシア時代から、美とはその様なものとしてあり、ファッションとはそういった習慣的な傾向と常に表裏一体だからです。他方で、私たちの暮らしの基盤であるインターネットにも、イメージが溢れかえっており、もはや私たちの認知の大部分はイメージに左右されていると言っても過言ではありません。すでに、InstagramやTikTokといったSNSにおいて影響力を持つイメージ、あるいはAIがディープラーニングして生み出すイメージには、古き権威的な理想主義への回帰が見え隠れしています。
こういった現代社会の環境や文脈を前提にしてBALMUNG S/S2025 Collection “movement / circle”を眺めると、「平成フィクショ ン」と呼べるような、冷戦後日本の失われた30年を象徴するスタイルと言えるギャル、オタク、ニート、引きこもり、メンヘラ等の再解釈と、現代的なハイパーポップ的マキシマリズムがオーバーラップするアイテムを随所に見ることができます。また少し勇んで言えば、BALMUNGは S/S2025 Collection “movement / circle”を通して、 テクノロジーが生み出してしまう分断と、テクノロジーが生み出す錯綜的な集団性を丁寧に腑分けすることで、ファッションを通して生じる認知バイアスに適切な導線を作ろうとしているようにも映ります。そしておそらく、後者を積極的に展開したS/S2025Collection“movement/circle”は、インターネットという環境すらも「ストリート」として再定義する野心 的な試みと言えるものなのです。
COLLECTION NOTE 文筆 鈴木 操
https://balmung.shop
https://www.instagram.com/balmung_tokyo
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